2013年05月24日

『 小 公 女 』 ( by バーネット夫人 ) を 「 ヴィクトリア女王の誕生日 」に読む


こんにちは。しばらく御無沙汰してしまいましたね。

さてさて、5月24日 は 英国ヴィクトリア女王の誕生日になります。


ならば、ヴィクトリア朝を舞台にした作品を・・・と思い、ディケンズよりも先に

思い浮かんだのが何故かこの作品でしたわ。


はい、今日の 読書は『 小 公 女 』  by バーネット夫人



小公女(岩波少年文庫) 432ページ  著者:フランシス・ホジスン・バーネット

今回読み直したのが上記のものですが、他に講談社青い鳥文庫・新潮文庫・福音館古典

童話シリーズなど各版元より出版されています。

バーネット夫人.jpg

↑ 著者のバーネット夫人については、過去の記事でも 夫人作の『 秘 密 の 花 園 』

取り上げましたので 宜しければそちらも参考にして下さいね。


さて、この作品が 一番初めに発表されたのは1888年で、タイトルは 『 セーラ・クルー 』

その後、書き直されて 改題『 小 公 女 』( A Little Princess )と発表されたのが1905年です。


日本も かなり早くから翻訳されていますが、それ以前に発表された 『 小 公 子 』

( Little Lord Fauntleroy )
の邦題に合わせて『小公女』・・・翻訳家の若松賤子氏がつけたものです。



このネーミングセンスは素晴らしいですね。原題が直訳すると「小さな王女」で、

直訳すると何とも単純というか、面白みの無いタイトルを『小公女』とする事で、

この物語の「特別さ」が表現できたと思うな・・・


他では 菊 池 寛 が昭和の初めに訳していますが、そのときの父兄に向けたはしがきが

この物語の核心を突いていますので紹介しておきましょうか。

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

この『小公女』という物語は、『小公子』を書いた米国のバァネット女史が、その

『小公子』の姉妹篇として書いたもので、少年少女読物としては、世界有数のものであります。


『小公子』は、貧乏な少年が、一躍イギリスの貴族の子になるのにひきかえて、この

『小公女』は、金持の少女が、ふいに無一物の孤児(みなしご)になることを書いて

います。しかし、強い正しい心を持っている少年少女は、どんな境遇にいても、敢然

としてその正しさをまげない、ということを、バァネット女史は両面から書いて見せ

たに過ぎないのです。


『小公子』を読んで、何物かを感得された皆さんは、この『小公女』を読んで、また

別な何物かを得られる事と信じます。


★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━━━★

この作品については、アニメ化作品の「小公女セーラ」が有名ですが、取り敢えずは

原作の方のお話、ということでお許し下さいね。


さて、有名な物語ではありますが・・・

主人公はセーラ・クルー。英国の植民地インドに生まれ育った少女です。

父親はクルー大尉という資産家で母親はセーラが生まれた時に亡くなりました。


さて、当時の植民地育ちの子供たちは学校へ行く年頃になると、教育の為に本国・英国へ

送り込まれました。
この物語では時代は特定されていませんが 19世紀の後半、

産業革命を為し終え 世界中に植民地を持ち、しかし貧富の差は激しかった、そんな時代です。


親と別れて暮らす子どもたちが入学するのは 寄 宿 舎 学 校ですね。

物語は、7歳のセーラが父親と共にロンドンのミンチン精華女子学院へ向かうところからスタート。

1939-1.jpg

( 画像引用:『 小 公 女 』1939年製作 名子役シャーリー・テンプル主演  )


この学校の規模は、今回読み直して改めて気がついたのですが、校舎や寮のある学校ではなく、

大きなタウンハウス( 高級な集合住宅タイプの邸宅・地下や屋根裏部屋などがあり、

使用人たちはそこで寝泊り&家事・仕事をします )をそのまま寄宿舎学校に

転用しているのですね。


院長のミンチン先生は典型的な俗物として描かれています。お金持ちにはペコペコと

胡麻をすり、そうでない人は露骨に見下す・・・片腕となって働いているのは 実の妹のアミーリア先生

ミンチン先生からは薄ノロ扱いされていて、確かに余り頭は良くないのですが、

物語の最後で 彼女なりの逆襲にでます ww


さて、セーラはここで特別生として( 行き過ぎるほど過剰に )大切に扱われますが、

それに溺れこんでしまわないキャラクタとして設定されています。


劣等生のアーメンガードや、最年少で手の付けられないロッティ、下働きの孤児のベッキィ

などからも慕われ、フランス語はネィティブ並にペラペラで・・・となると余りにも

優等生過ぎて面白くないのですが、セーラには一風変わったところがありました。


それは想像力、夢見る力と言ってもいいかな? どんな小さな事でも素敵な物語にし

てしまえる能力・・・そう、「お話」がとても上手なの。



これには、意地悪なクラスメートのラヴィニアも認めざるをえません。

まあ、だからこそ、しゃくにさわるのですがw

パパの クルー大尉 はダイヤモンド鉱山事業を始めるという手紙も来て、セーラは益々

将来はお金持ちになりそう、おまけに学院では人気者。


・・・そんな幸福の絶頂期ともいえる或る日、セーラのお誕生日のパーティが開催されます。

楽しいパーティが盛大に繰り広げられている、まさにその時、ミンチン女学院に一人の来客が・・・


それはパパの弁護士さんで、インドでクルー大尉が熱病で亡くなり、

出資したダイヤモンド鉱山事業は失敗に終わり、共同出資した友人も行方不明・・・



つまり、パパは破産して無一文になって死んでしまったのです。

残されたセーラは一文無しの 孤 児 ・・・頼るべき親戚もいません。


これまで、セーラにかけたお金はどうなるの!追い出してやる!とヒステリックに喚く

ミンチン先生に、弁護士さんは、それは世間体が悪いので セーラをここで働かせれば良い、

頭も良い子らしいので大きくなれば教師としても役にたつでしょう、とアドバイス。


・・・その日からセーラの受難の日々は始まります。


美しい持ち物は皆奪われて、部屋は屋根裏部屋。台所の下働きやお使いに、と 一日中

こき使われるはめに・・・


岩波少年文庫版では、全19章あり、セーラーが幸福だったのは初めの7章だけ。

豊かに贅沢な暮らしから、下働きの女中仕事へ。この辺りが永遠の少女小説としての

キモになるのでしょうか。


また、おとなになって読み返して気がつくことも多々ありました。


ミンチン先生の意地悪ぶりも際立っていますが、初めから心の奥底でセーラの事を嫌

っていました。先生自身のコンプレックスを刺激するような・・・優等生で良い子な

のに理解不能な世界を持っているのが、つかみどころなく可愛気が無いように思えたのでしょう。

セーラが単なる金持ちのバカ娘ならば、あれほどまでに憎まなかったかもしれません。



そんな境遇の中で、セーラが自分を見失わないために努力したこと、それはやはり

夢 見 る 力 」・・・バスティーユ牢獄のマリー・アントワネットに例えたり・・・


けれど、現実は苦しいもので、あるクリスマスの日、道を歩いていたセーラは

裕福なお金持ちの子どもから 6ペンスのお金を貰います。

それは、やつれて空腹そうなセーラへの 「 ほ ど こ し 」でした。


かって、セーラが貧しい子どもや乞食の子にほどこしたように・・・

読み返して、セーラの不幸が一番際立っているのがこの部分でしたね。


ところで、屋根裏のセーラの部屋から見える お 隣 の 家 に、あるお金持ちの紳士が引っ

越ししてきました。紳士は顔を見せませんが、何故かターバンを巻いたインド人の

男性と彼のペットのお猿さんまで・・・


あるとき、セーラが 理不尽な仕打ちを受け 食事抜きで空腹なまま眠ったとき・・・

夜、ふと目を覚ますと・・・奇跡が起っていました↓

奇跡.jpg

( 画像引用:DVD『 リトル・プリンセス 』)


そこから、セーラーの運命は目まぐるしく変わり、隣家の紳士は 実はパパのクルー大尉の

友人だった人でした。 彼はずっとセーラを探していたのです。

ダイヤモンド鉱山は成功し、その権利の半分はセーラーのものになることに・・・


ラストはハッピーエンドなのですが、手のひらを返したようにセーラをちやほやし始めた

ミンチン先生をセーラは拒否します。

そんなミンチン先生に対してアミーリア先生は叫びます。

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あの子は賢いし、いい子だったから、もし姉さんがいくらかでも親切にしてやれば

ちゃんと、それにむくいたと思うわ。(中略)あの子が姉さんでは太刀打ちできないほ

ど賢いせいで、最初からずっとあの子が嫌いだったからよ。(中略)


私たちのことなんか、お見通しだったのよ。あんたが心の冷たい俗っぽい女だということも、

私が馬鹿な弱虫だということも、私たちが二人ともいやしくて意地汚くて、

あの子のお金の前にはいつくばってたんだという事も、お金が無くなったとたんに

辛くあたったという事も(中略)


あの子の方は、物乞い同然になっても、小さな公女さまみたいにふるまっていたのに

(中略)本当に小公女さまみたいだったわ!


★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

逆境の中でも誇り高く、言葉とイマジネーションの力を武器に生きた少女の物語・・・


この年になってから読むと、子ども時代に読んだものとは違った良さを味わうことが

できました。それこそが、名作の名作たる所以なのでしょうね。


なお、何度か 映 像 化(DVD化作品)されていますが、現在のところ比較的入手しや

すいものはコレかな? タイトルは原題に合わせて 『 リ ト ル ・プ リ ン セ ス 』です。



ストーリィは一部改変され、死んだはずの父親が実は生きていた・・・となっていま

すが、現状ではまあまあの作品ではないでしょうか。ヴィクトリア朝の時代考証など

美術やセットも美しいので、背景の雰囲気を充分に楽しむ事もできます。


また、1939年のシャーリー・テンプル主演のものは、やはりハリウッド式にかなり改変されていますね。



それでは、今日はこの辺で・・・またね。

P・S アニメ『小公女セーラ』もDVD化されているみたいですね(全46話)↓





マクロミルへ登録


posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 海外の小説・その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月23日

『 浦 島 太 郎 』( 作者不詳 ) を 「世界亀の日」に読む


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。 5月23日は「世界亀の日」です。

亀について知り、生存と繁栄のために人間がお手伝いしましょうという日です。


保護が目的なのでしょうが、このブログの趣旨的には・・・ さんが登場する作品として

日 本 で 最 も 有 名 で人口に膾炙した作品といえば・・・コレでしょう。

リクガメではなく、ウミガメですがww


はい 今日の 読書は 『 浦島 太郎 』  ( by 作者不詳 )


誰でも知っている『 浦島太郎 』の物語・・・多分あなたも子ども時代に 日本昔話集や絵本などで

一度は読んだことがあると思います。


実は、この物語には幾 つ か の パ タ ー ン があるのですが、最もスタンダードなものは

子ども向けの昔話&おとぎ話 ↓↓

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

1:時代と地域の特定はされていない

2:主人公の名前は 浦 島 太 郎 という漁師

3:虐められていた を助ける

4:竜 宮 城 に招待されて 乙姫様のもてなしを受ける

5:故クが恋しくなって帰りたいという

6:玉 手 箱 をもらうが「決して開けてはいけない」と言われる

7:故郷に帰っても自分の家も両親もいない。

8:自分がいなくなってから 3 0 0 年 たっていることを知らされる。

9:途方にくれて玉手箱を開けると、中から白い煙が出てきて

10:あっという間に白髪のお爺さんになってしまった。

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

浦島太郎.jpg

     浦島太郎・・・と聞いて

     思い浮かべるのはこんな感じかな?

     玉手箱を持っているから、これは

    竜宮城から故郷への

     帰り道・・かな?



実は、この物語は、近 代 になってから この形になったものです。

明治政府が、それまでの伝承説話であった浦島伝説を 国 定 教 科 書 (尋常小学読本

「ウラシマノハナシ」)に載せるために子ども向けに改変したもの


(明治43年から昭和24年まで)また、それ以前に児童文学者の 巌 谷 小 波 が著した

『 日 本 昔 噺 』にも「浦島太郎」として収められています。 巌谷小波は国定教科書の

編纂にも関わっていました。

また、♪ 昔々 浦島は 助けた亀に乗せられて ♪ で始まる歌も 明治44年から歌われだ

した 文部省唱歌です。

但し、基本的なストーリィは変えずに、付け加えた部分とカットした部分があります。


1:虐められている亀を助けた ← この部分を付け加えて「良い事をしたら良い事

がある」という報恩の物語に強調


2:竜宮城での乙姫様とのベッドシーン ← 当然、この部分はカットでしょう ww



さて、この浦島伝説の 起 源 ですが・・・かなり古いことに改めて驚かされます

最初に記述されたのは 『 日 本 書 紀 』 の雄略天皇の条で、その次が 『 万 葉 集 』

そして『 丹 後 国 風 土 記 』 と続き、物語として完成したのは室町時代の『 御 伽 草 子 』ですね。


■□─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─□■

日 本 書 紀丹 後 に住む水江浦島子(みずのえうらしまのこ)が亀を釣ったとこ

ろ、その 亀が女性に化身し、浦島子は妻にして 共に蓬莱山に行ったとの記述が1行あります。

■□─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─□■

万 葉 集 】高橋虫麻呂作の長歌「詠水江浦嶋子一首」として収められています。

釣りを生業とする水江浦嶋子が海で海神の娘だという亀姫と名乗る女性に出会い

語り合っている内に結婚しようとなった。常世の国にある彼女の住む宮殿へ・・

仲良く3年過ごした後に、両親に結婚の事を知らせるために家に帰りたいと伝え

ると絶対に開けてはいけないと言われ「 櫛 笥 ─化粧箱」を渡されます。

しかし、故郷に戻っても家もなく見知らぬ人ばかり、困り果ててふたを開けると

元に戻るのではないかと考え、櫛笥のふたを開けると中から白煙が立ち昇り、

黒かった頭髪が 真っ白になり息絶えた。
■□─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━□■

丹 後 国 風 土 記 】風土記というのは8世紀初頭頃に、朝廷より全国に編纂の命が

下されたもので、その地方に伝わる伝説や特産物を紹介する書物のことです。

但し、現物は残ってはいないのですが、『 釋 日 本 記 』 に「丹後国風土記によるとー」

と引用されている形で伝えられています。

こちらでは、ラストの部分で櫛笥を開けると風雲が舞い飛び、悲嘆した嶋子が歌

を詠むと櫛笥に亀姫からの返歌が帰って来たというくだりがあります。
■□─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━□■

その後、平安時代に『 浦 島 子 伝 』『 続 浦 島 子 伝 』と続きます。

御 伽 草 子 】内容的にはほぼ同じなのですが、ラストで玉手箱を開けた浦島は鶴

の姿になり空に飛んで行ってしまった・・・とあります。
■□─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━■


めぼしい所では これ位なのですが、さまざまなバージョンがある中で 共通しているのは

竜宮城で過ごした何日間(1年間)が、この世では何百年にも相当する という事。

時 間 の 流 れ 方 の 違 い を古代の人々は理解した上で物語化したのでしょうか?

アインシュタインの 相 対 性 理 論 を地で行くような物語・・・・・



また、この物語を読んで誰もが不思議に思うことは ラストのバッドエンドです。

何も悪い事をしていないのに、どのバージョンでも ひどい目に会うのはなぜ?


この件については・・・うかうかと人語を話す魔の存在である亀に誘われ

この世に非ず所に行ってしまったから・・・という説もあるのですが・・・

つまり、 生身の人間には 関わってはいけないものがある、という教えなのでしょうか?


浦島伝説は、似たような形のものは世界にもあります。

そして、大抵はバ ッ ド エ ン ド・・・


異類婚のパターンで、人間とそうでないものとの結婚 は殆どが 添い遂げることなく

悲劇的な別れに終っていますしね。



もう1つ、最大の謎は 乙姫様は 何を考えて浦島に玉手箱を渡したのでしょうか?

また、あの玉手箱の中には何が入っていたのか?という疑問が・・・


「決して開けてはいけない」と言って渡してしまっては・・・開けたくなるのが

人情というものです。 開ける事を見越して渡したのでしょうか?

開けたら浦島がどうなるか分かっていたはず・・・

乙姫様の真意は・・・分からないし、正解はないのでは? 解釈する人の数だけあるのかもしれません。

ただ・・・バッドエンドという前提があってこその、あの行為だったのかも?


玉手箱に入っていたものは・・・時 間 そ の も の 、かな? 竜宮城と人間世界とのギャップ

の時間かしら?とも考えています。



また、「決して××してはいけない」という タ ブ ー の 物 語 は、浦島だけではなく

日本神話にもギリシア神話にも、世界の伝説や物語にも多数見られるパターンです。

けれども、守 れ な く て 失 敗 してしまう、というのがお約束になっていますが。


以上、話し出すと切が無いのが 浦島太郎の物語・・・

たかが子どものおとぎ話と思っていたら、とんでもなく奥の深い話になりそう。

改めて、感じ入ったところで今日はおしまい・・・またね。





マクロミルへ登録
posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の漫画・その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月22日

『 愛 に 乱 暴 』 ( by 吉田 修一)を 「 夫婦の日 」に読む


こんにちは、また来て下さってありがとう。毎月の22日は「夫婦の日」です。

それでは、一番最近に読んだこの本にしましょう!


はい 今日の 読書は 『 愛 に 乱 暴 』 by 吉田 修一


    愛に乱暴

    著者:吉田修一

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本 342ページ  


著者の 吉 田 修 一 氏 については3月21日にアクションスパイ物の『太 陽 は 動 か な い 』

を取り上げましたが、今回はいかにも吉田氏らしい作品です。ファンなら満足するはず?

私は、今回の作品は 人と人との「 つ な が り 」を希求した女性の せつない物語として読みました。


明るく愛の賛歌を謳い上げるのではなく、じくじくと湿気を帯びた生活感溢れる

吉田氏らしい作品
として・・・しかし、作品ごとにバージョンアップしていく氏の

力量は凄いよね。


ところで、この作品単行本の にはこう書かれていました。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

これは私の、私たちの愛のはずだった───

本当に騙したのは、妻か?夫か?  やがて、読者も騙される  狂乱の純愛

夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は不可解な衝動に突か

れて×××××を手に取った・・・・・・。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

うーむ・・・。こういう単行本の帯や 文庫本の裏表紙に書かれた粗筋紹介の文章は 編集

サイドの人間が書くのですが、的確に書けているのは極めて稀なんですけどね・・・

帯の別の所に「主人公・桃子は、あの<ボヴァリー夫人>のように愚かで、健気

で、孤独で美しい」という記述がありましたが・・・


主人公は、美しさはともかくとして ( だって、容姿の描写は無かったし、別の意味での

美しさといっても・・・)

愚かで健気で孤独ではある事は間違いないのですが、さらに付け加えれば「簡単に

人を信じてしまう」「人の言葉をありのまま受け取ってしまう」 「 人 の 言 葉 の 裏 に あ る も の を

考 え な い 」
というお人好しでもあるなあ。それも 愚 か というのでしょうが・・・

しかし、基本的には善人です。


<ボヴァリー夫人>をお読みになった方が 期待して読んでも がっかりするので御注意下さいね。

全く何の予備知識もなく、この帯の文句を読んだら 殺人事件で幕を閉じるミステリ

かと思ったりして・・・ 私は ××××× はもしかして凶器か?と思って読んだ程ですw


「愛に乱暴」というタイトルもインパクトがありますが、決して暴力的な小説ではありません。

残酷な描写は一切無いので御安心ください。 犯人探しのミステリでもありません。

扱うテーマは通俗的というか 普 遍 的 なものなので読みやすいですね。


ただ、帯に 「 読 者 も 騙 さ れ る 」 とあるように、この作品にはちょっとした 仕 掛 け

が施されています。ごく単純に、不倫相手に 夫を奪われた女の物語ともいえるのですが、

そのプロセスが非常に凝って計算されているのですよ



殆どの方は、途中で気がつくと思いますが、気がついた時点で あれ?と思い

最初からもう一度読み直したりして・・・。



この物語は 二 人 の 女 の 物 語 と し て ス タ ー ト します。


1:女 性 X の日記風ひとり言( 名前が明かされていません。また日付も不明 )

つらい不倫の恋をしています。葉 月という親友に相談もしたり・・・この親友は

不倫の恋には反対のようですね。

彼女の不倫の恋のお相手の男性は 初 瀬 さ ん といいます・・・・・


2:ヒロイン・初 瀬 桃 子 の三人称で語られる物語 & 桃子のひとり言

物語は、この桃子を中心にして進められていきます


結婚して8年目のミセスです。住んでいるのは東京近郊、夫の実家の敷地に建て

られた古い平屋・・・母屋には夫の両親が住んでいます。二人の間には 子 ど も は

い な い
ようです。義父母との関係はまあまあ安定していて、決して悪くはありません。

桃子の方もそれなりに気を遣っている様子が読者には分かります。

週に一度、前に勤務していた会社との関係から「手作り石鹸講座」の講師を務めています。



夫の名前は 初 瀬 真 守 、母親からはいまだに「マーくん」と呼ばれていますが、

夫婦仲は可もなく不可もなく。

ごく日常的な生活の様子が こまごまと語られて物語は進行して行きます。

ゴミ出しのこと、近所に新しく建ったアパートに住む若い男性、時々エサを貰いに

来る野良猫・・・登場人物のそれぞれの努力によって 家族関係が成立していることを

読者に知らせる為の描写が続きます。



また、最後まで読んで思ったことは、脇役ではあっても重要な意味を持つ登場人物がかなり早い

時期に既に登場している事に、吉田氏の上手さを感じました。



一見、平和な家庭・・・しかし、このまま穏やかには終わりません。

夫の出張を機に、どうやら浮気をしているのでは?と桃子は気づき始めます。



桃子中心の物語の 随所に挟まれている、名前の分からない女性X は夫の浮気相手なのか?

と思いながら読者は読み進めるでしょう。



しかも、単なる浮気にしてはちょっと深入りしていそうな・・・?

一緒に旅行に行ったりもして盛り上っているのですが、この女性X は、初 瀬 の 妻 を

心 の 中 で 非 難
しています。愛の無くなった結婚生活にしがみついているのは

おかしいんじゃない? 彼が愛しているのは 私の方なのに!・・・と。



義父・宗一郎が脳梗塞で倒れ 入院してから物語はピッチをあげます。

家の固定電話にかかってきた一本の無言電話。相手は何も言わないけれど、受話器の

向こうからはテレビの音と、聞き覚えのある男性の声が・・・

その夜に、夫から切り出されたのは「悪かった、ちゃんとするから・・・」


はて、何をどう「ちゃんと」する気なのでしょうね? 相手の女性と別れるつも

り? それとも桃子と別れるつもり?

この辺りで読者は夫の真守に対してイラッとするかな? のらりくらりと時間を

稼いで、相手の女性とも妻とも何とか上手くやっていくつもりなのか?とも思うでしょうね。

真守のキャラクタが上手く表現されています。



しかし、ここで決定的な事実が明らかになります。相手の女性Xがどうやら 妊 娠

したようで・・・真守は桃子に相手の女性に会って欲しいと伝えるのですが・・

この頃から 桃 子 は 精 神 的 に 追 い 詰 め ら れ て 行 き ま す



義父の親戚の女性から聞いた意外な事実・・・自分たちの済んでいる平屋は、かって

義祖父の愛人の女性が住んでいた事・・・さらに驚いたのは、義父はその愛人・時枝

が産んだ児である事・・・正妻さんに子どもが出来なかったので 引き取られて

育ったようですね。


もちろん、これは過去の話であり 今の桃子には何の関係も無いことです。

義祖父母も愛人・時枝も既に故人ですから。

しかし、この話は 桃 子 の 心 に 微 妙 に 影 響 し始めます。義母の不在時にこっそり母屋に

忍び込んでアルバムを調べ時枝の写真を探したり・・・さらに気になったのは

自分たちが住んでいる平屋の、普段使用していない六畳間のこと・・・疊の向きが

気になった桃子は、最後には疊を上げて床下までが気になってしまうのですが・・・



不倫相手の 女性Xの妊娠が 決定付けられたと同時に、真守の心も決まります

都内のレストランで夫と愛人の女性と会った桃子。桃子に対して頭を下げる二人。

しかし、桃子は納得できません。 

その夜から夫・真守は家に帰らず愛人の所に行ったまま。

もちろん、義母には本当のことを話せずに出張だと言いつくろったのですが・・・



さてさて、この 三 角 関 係 の 構 図 がどのように展開していくか想像がつきますか?

一番最後の結末を敢えて言ってしまいますが、桃子は一人になってしまいます。

多分、やり直す事になるのでしょうね、自分だけの人生を・・・。

しかし、希望はあります。ただ、その希望は真守と過ごす人生ではありません


この物語の面白さは、周到に計算された ギ ミ ッ ク にあります。

いわば、ミ ス テ リ 的 な 仕 掛 け といえば良いのでしょうね。カンの良い方なら未読

であっても気がつくかな?  しかし、別に気がつかなくとも良いわけでして。

物 語 の 第 1 3 章 (212ページ)になれば、分かる事だしねww


私もストーリーを追いながら読んでいて、漠然と引っかかるものは感じていましたが、

この212ページの「 ● ● の 日 記 」を見て、「そう来たか!」と納得しました。


この手法により、桃子の狂気じみた焦りや苦しみがストレートに( 且つ、じわじわと )

効果的に 読者の心に伝わった事でしょう。


愛情があって愛し合って結婚した夫婦・・・

納得しながらも「 騙 さ れ た 」と感じていた夫。

騙すつもりもなく、申し訳ないと思いながらも「 許 さ れ た 」と思っていた妻。


その結果がどうなったか、一つの形を見る思いでした。あなたはどう読むかしら?

さてさて、それでは今日はこの辺で・・・またね。



マクロミルへ登録
posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(2) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。