2013年03月29日

「明治政府・入れ墨 禁止令 発令の日」に読む『 彫 物 』by 宮尾 登美子


こんにちは、また来て下さってありがとう。


3月29日は 「明治政府が 入れ墨 禁止令を 発令した日 」です。

1872年(明治5年)のことでした。


明治政府が 禁止した理由は、近代国家への体裁を整えるためでしたが

入れ墨の技術は ア ン ダ ー グ ラ ウ ン ド で引き 継がれて行き

終戦後の 1948年に 廃止されています。



日本の入れ墨の歴史は古く、「 魏志倭人伝 」にも邪馬台国の 倭人たちの事が

「男子皆黥面文身」と記述されています。

顔に入れ墨をする事を黥面(げいめん)、文身は体に入れることですが、

地域や身分によって文様が異なり、身を守る 呪術的な意味合いが強かったようです。
  


江戸時代に 刺青文化を流行らせたのは 中国の『 水滸伝 』の人気が

影響したようですね。

また、火消しや侠客の人たちの 心 意 気 を 表 現 す る 手 段 としてブレイクしました。

徳川幕府も何度か禁止令を出していますが余り効果もなく、

ぬるい結果に終わったようです。


禁止令が何度も出た = それだけ守られなかったという事 ww


しかし、同時に 江戸時代では 犯 罪 者 へ の 刑 罰 として入れ墨が用いられました。


時代劇でよく見るのは 腕の 周囲にリング状に目立つように 黒い墨を入れることでしょう。

一目見て 前科者 と分かるようにね。

また藩によっては顔・額等に目立つように入れたそうです。



海外事情は別にして、日本では近世以降、 入れ墨の位置づけが



芸 術 的 な 身 体 装 飾 と い う プ ラ ス 面

刑 罰 & 反 社 会 性 と い う マ イ ナ ス 面



この相反する意味を持って発展・継続してきたのは興味深い。

この 2つの意識 は現在にまで 引き継がれていますから・・・・・



さて、この日のテーマに合わせて真っ先に思い浮かんだのが 大谷崎の『 刺 青 』・・・

多分、一番連想する人が多いのではないでしょうか?


その次が 世界的ベストセラーになった『 ミレニアム 』三部作かな?

ヒロインのリスベットのドラゴン・タトゥーが印象的でした。



随分と迷った末に決めたのが、余り知られてはいない作品ですが・・・



はい 今日の読書は 『 彫 物 』です。

著者: 宮尾 登美子  文藝春秋社  文春文庫


短編集『 菊 籬 』に収録


宮尾登美子氏はあなたもよく御存知の 実力派の人気作家です。

デビュー作である 私家版 『 櫂 』 以来、傑作が多すぎて代表作は何か

と問われても迷うほどの力作ばかり。


この『 彫 物 』(ほりもの)は、短編集に収録されていますが

宮尾氏には比較的少ない 現代物の作品です。

非常に印象深かったのでこの作品を取り挙げてみました。



実は、初めて読んだ時に思い出したのが 谷崎の名作 『 刺青 』です。



こちらは 刺青師の男性を主人公にした 彫 る 側 の 立 場 で書かれた物語ですが

宮尾氏の『 彫 物 』は 彫 っ て 貰 う 女 性 の 立 場 で書かれた物語


『 刺 青 』の主人公の 彫師は、己の 芸術的 願望を美しい女性の 光輝ある肌に

植えつけたいと願う男であり

谷崎のフェティシズムとマゾヒズムが見事に融合した作品。


宮尾氏の作品は、もっとリアルで生々しい 女性の 欲望 が描かれています。



舞台は昭和50年代くらいの浅草。

主人公が 花柳界の女性なので お得意の宮尾ワールドかと思ったのですが

芸に生きる真摯な姿は描かれていません。



主人公・幸代は二度目の母との折り合いが悪く、早くに家を出て

浅草の置屋に入りました。


芸妓といっても、昔のように借金に縛られることはありません。

しかし、ずっと上手くいかないのが男性関係・・・・・

いつも 決まったように向こうから 足が遠のくか、ひどい言葉を投げつけられて

終わるかの どちらかばかり。


幸代は、自分が男性に愛されないのは 浅黒い肌の色や 毛深い体質、

魅力のない身体つきのせいかと悩み・・・・・



彫物は体へ 刺繡する故に 花繡とも呼ぶのを考えれば、あの朱と青の

鮮やかな絵で自分の生身を彩ってもらえば、黒い体も一変して美しく

生まれ変るのではないかとふと思われて来るのだった。


(一部抜粋)



一種の 変 身 願 望 なのでしょうか?

それとも、いまどき風に言えば(芸能人の方が主張しているように)

自己表現の一種として 前向きの姿 勢?で墨を入れる覚悟なのでしょうか?


しかし、現実問題として 女性の身で入れ墨など彫れば 周囲の目もあるし、

知られたら 浅草を村八分にされはしないかと迷います。


しかし、お座敷でたまたま 入れ墨の話題が出たときに、

かつて浅草で 彫物を 看板にしていた人気者のお姐さんがいた事を教えてもらい

幸代の決心は固まります。


自分が生まれ変るためには 背中に鮮やかな美しい入れ墨を入れるしかないと

思い込んでしまうのですが・・・


はい、ここで あなたは思うかもしれません。


もしかして、容姿の問題ではなく そういう性格だから男性にふられるんじゃない?


いやいやいや・・・そこに気付いてしまうと この物語は成立しませんから ww



最近では若い世代に入れ墨ならぬ “ タトゥー ” がファッションとして

流行と聞きますし、芸能人の方などで 敢えて誇示していらっしゃる方もいるようですね。

その根底にあるのは、この幸代と同じような 価 値 観 なのでしょうか?



教えられた、名人と評される彫師・彫康を訪れ 彫って欲しいと 頼み込む幸代

しかし、女性の場合は 先々結婚もあるしあとで 後悔することも多いから

彫らないと あっさりはねつけられます。


しかし、自分はもう「 男 絶 ち 」をする、結婚もしないし子供も産まない、

男と同じに 彫って欲しいと食い下がりOKしてもらいます。



そして、激痛をこらえ 背中に美しい 弁財天が彫り進められていきます。

期間は 約2年で 料金はこの頃で2〜300万円くらいでしょうか。

で、無事に彫りあがって めでたしめでたし・・・とはなりません。



実家に戻った時に、腹違いの美しい妹・昌代に 完成間近の背中を

見られてしまうのです。


昌代は 姉の入れ墨に興味を持ち 一緒に 彫康の所を訪れ、

その技術と美しさに惚れ込んでしまいます。


あろうことか、 自分も彫ってもらおうか と言い出し

しかも彫康自身も乗り気の様子に、幸代は焦ります。



なぜならば、ずっと彫ってもらっている間に、幸代の心には

彼への好意が生まれていたから・・・



さて、ここから、幸代の本来の目的が変化してきます。

あくまでも自分自身のためであった入れ墨が、妹に対抗するためのもの に変質していきます。



他者に対抗するための手段になって来るのです。



幸代は 背中だけではなく 下腹部から 局部にかけてまで

美しい絵柄で墨を入れる決心をします。



そうして・・・・・



物語は 皮肉極まる オ チ で終わります。


沈む 直前の夕陽が 壁の絵金のいろに映え、その照り返しの朱を

満面に 浴びた昌代の 白い背には


(一部抜粋)


幸 代 は 何 を 見 た と 思 い ま す か ?

多分、あなたは もう気が付いているかもしれないけれどね・・・・・



文庫本で40ページ程の 短編小説ではありますが、

実は この作品の中で一番 魅力的に上手く描かれているのが

この彫師の男性なのです。


宮尾氏は 芸の道を 追及する人間 を描くのに優れた方 ですから

このテーマをもっと掘り下げて欲しかったなぁ、と望むのは

読者のワガママかもしれませんが・・・



さて、この短編集には 8編の短編が所収されていますので、他の作品の事も少々・・



『 菊 籬 』(きくまがき)

表題作です。宮尾氏ご自身の育ったお家を思わせる設定ですから

ファンには馴染み深い『 櫂 』の世界ですね。


まだ幼かった主人公の目から見た“ 菊 ”の姿が描かれています。

『 櫂 』執筆時より さらに時間が経過してからの作品のせいか

どこか温かい視線が感じられます。



『 自 害 』&『 水の城 』 

両方とも 老女の一人語りの形式を取っています。

時代の変わり目に行き合せた人間の悲劇を 第三者の目から語らせて

哀れが深い作品。



『 村芝居 』

脱稿したのが1948年。

宮尾氏が満州から引き揚げて 高知の御主人(当時の)の実家で

暮らしていた頃の作品になります。


農家の嫁としての 経験を元にして書かれたものですが

作品としては・・・・・『 櫂 』以降の作品には及ぶべくもありません。

しかし、ファンとしては ( 幻ともいえる )デビュー以前の作品

読めたのは嬉しいことでした。


さてさて、それでは 今日はこの辺で・・・

また明日ね。






posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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