2013年04月30日

「 図書館 記念日 」に読む 『 図 書 館 戦 争 』  by 有川 浩


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。


4月30日は「 図書館記念日 」になります。 

図 書 館 ・・・はい、いつも お世話になっておりま〜す。



今日は 図書館のお話を・・・けれども、この物語の 図書館に うっかり勤めると大変ですよ。

なんてったって、毎日が 軍 事 訓 練 なんですから www



はい 今日の読書は 『 図 書 館 戦 争 』   by 有川 浩


    図書館戦争

    著者:有川 浩

    出版社:角川書店

    サイズ:文庫398ページ

    発売日:2011年04月



いやー、ブレイクしましたねぇ〜。 メデイア・ワークスから 単行本が 出版されたときは

(2006年)、かなり書評にも取り上げられていたっけな。


翌年に 本屋大賞第5位を獲得したのが、読むきっかけになったんですが。

全くの新人作家でありながらも、インパクト有るタイトルで読む気になりました。

まさか、こういう内容とは思わなかったのですが ww



まず、図 書 館 × 戦 争 という コラボがすごい ww  180 度異なるステージが

ブッキングすると、こうなるのか!と( 良い意味で )唖然としたものです。



しかし、しかし! 「 自 由 に 本 が 読 め な い 世界 」「 本 が 検 閲 さ れ る 世界 」

活字中毒者にとっては悪夢のような世界、これは3月7日に取り上げた

『 華 氏 4 5 1 度 』そのものの 世界ではありませんか!



その後に、デビュー作の『 塩の街 wish on my precious 』(2003年発売)

さらに『 空の中 』、そして『 海の底 』などなどを読んでみたのですが、

いわゆる「ライトノベル」の範疇に収まらない、独 自 の 世 界 観 の 確 立 された作品でした。

S F なんですよね、甘々のラブ小説の衣を着ているけれど。

例えてみれば、新 井 素 子 氏 風 の ・・・・・



しかも、なかなかのストーリィ・テラーではありませんか!

文章が軽すぎるような気もしましたが、今後に期待できそうと思った事を

覚えています。「ライトノベル? あ〜、ダメダメそういうのは」とは 決して 思え

なかったので・・・( 確か、桐野夏生氏も 岩井志麻子氏も少女小説の出身でしたし )




さてさて、『 図書館戦争 』です。



SF異世界もの・ラブアクション・・・ですね。楽しく読めました。


近未来の、今の日本ではないもう1つの日本(正化30年)が舞台になっています。

メディアにおける風紀を乱す表現・公序良俗乱す表現を取り締まる

「 メ デ ィ ア 良 化 法 」が施行されています。 うわぁ〜コレはヤバイ法律ですね・・・。



フィクションの世界ではありますが、現実にも似たようなものが施行される

危険は充分にあります。そう、差別や人権を声高に叫びながら 実は他者の

人権を圧力によって踏みにじりそうな恐ろしい法律が・・・



( 多分、あなたも何の事かお気づきと思いますので 敢えてこれ以上の言及は避けます )



さて、この世界では「公序良俗を乱す」表現の取締りがエスカレートして

武 力 行 使 も い と わ ぬ 検 閲 が横行している世界です。



図書館の 図書に関する自由とは相反するものがあるのですが、ある日突然

図書館が襲われ 多大な人的被害と蔵書の損失を受けたとき以来(「日野の悪夢」

と呼ばれています)図書館に自衛組織が生まれました

それが 図 書 隊 ・・・・・


しかし、図書館法を遵守する 図書館と 検閲機関が 同時並行する社会では

当然のことに 軋 轢 が 生 ま れ る事 に・・・そこが この物語の面白さになります。


さて、我らがヒロインは 笠 原 郁 。身長170cmの長身と ずば抜けた身体能力を誇る

子どもの頃からのスポーツ万能少女です。大学を卒業後、武蔵野第一図書館の

図書隊を志して特訓を受け、女性としては初めての 図 書 特 殊 部 隊

(ライブラリータスクフォース)に配属が決定!



彼女が図書隊( 図書防衛員 )を目指したのは・・・高校時代のある出来事から。


愛読していた 童話の完結編が発売された事を知り、本屋さんに駆けつけたら・・

良化特務機関のメンバーの抜き打ち検査があり、郁の読みたかった本まで

危険図書と 看做され奪われそうになってしまいます。 そのとき・・・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

こちらは関東図書隊だ!それらの書籍は図書館法第三十条に基づく

資料収集権と三等図書正の執行権限を以て、図書館法施行令に定めるとこ

ろの見計らい図書とすることを宣言する!

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★

つまり、この本は図書館が買い上げるから、お前たちには手が出せないってこと。


郁にとっては、まさに正義の味方登場!としか言いようがありません。

まさにヒーロー! 白馬に乗った「 王 子 様 」です。



感激の余り、名前も聞けず 顔も覚えていないこの「王子様」・・・・

私も、この「 王子様 」のように本を守る人になりたい。 あの人と同じ所に

行きたい・・・


そう、これはガラスの靴を頼りに シンデレラを探す王子様のお話ではなく

憧れの王子様を探す シンデレラの物語なんですよね。

ガラスの靴の代わりに「 読 書 の 自 由 を 守 り た い ! 」という信念を武器にして。



さて、念願はかなったものの・・・前途多難な日々が続きます ww



訓練中には鬼教官(二等図書正)堂 上 篤 に 目の敵のように絞り上げられ、

二言目には「アホか、貴様は!」と怒鳴られます。


また、同期の優等生・手 塚 にはとことんバカにされ・・・しかし、同室の

柴 崎 麻 子(美人で 情報通の図書館員)や同じ教官の 小 牧 や上司の 玄 田 からの

適切なアドバイスもあり、確実に成長して行きます。 また、なぜか危機に陥ったときに

助けてくれるのは、天敵 ww の鬼教官・堂上だったりして ww


さて、この物語は 図書館法の“ 図 書 館 の 自 由 に 関 す る 宣 言 ”の通りに、章立てして

進んで行きます。 つまり、この宣言がそのまま目次になっているの。


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図書館の自由に関する宣言

一、図書館は 資料収集の自由を有する。

二、図書館は 資料提供の自由を有する。

三、図書館は 利用者の秘密を守る。

四、図書館は すべての不当な検閲に反対する。

図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★


これは、著者の創作ではありません。 現実の 日 本 図 書 館 協 会 で定められているもの。

著者の有川氏は、近所の図書館でこの宣言を掲げたプレートを見て、この

物語の着想を得たそうです

 

(しかし、この宣言を読んで『 図書館戦争 』の着想、というのもスゴイ)




【一、図書館は資料収集の自由〜】は、物語の序章です。登場人物の全員が

ここで出揃います。



【二、図書館は資料提供の自由〜】は、特殊部隊に特殊防衛員として配属

が決まり、ハードな訓練が始まります。 ライフル射撃にヘリコプターから

の降下訓練って・・・自衛隊並み? 奥多摩の山の中での特別訓練まで ww


また、防衛員といえども 通常の図書館業務もできなくてはなりません。

この辺りは、武力では頑張れても 座学( いわゆる、お勉強ね )の苦手な郁

にとって新たなる困難というべきか ww


そんな時、館長が病気で入院し、行政側から新たに配属されて来た館長代理の

不審な行動が・・・??



【三、図書館は利用者の秘密を〜】

現実でも起りそうな問題が突発します。連続通り魔殺人事件の犯人が逮捕

されました。容疑者は未成年ですが、日頃から武蔵野第一図書館で本をよく

借りていたとの事。警察から打診された、彼の貸し出し履歴を提示する事を

図書館側は拒否しますが・・・協力拒否が警察側から発表され、図書館へ

の風当たりは強くなります。




【四、図書館はすべての不当な検閲に〜】

青少年への悪影響を与える本を取り締まれ!という風潮が強くなる中、

好きな本も読めなくなった子ども達を支援するため、郁たちに出来る事は?




【図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。】

最終章で、この作品のクライマックスになります。

ある日、小田原の私企業が運営していた「情報歴史図書館」が閉館されることに。

すべての蔵書・資料は関東図書隊に移管されることになりました。

その中には『メディア良化法』に関する報道資料が多数含まれていて、

メディア良化委員会がその報道資料を狙っているという情報が・・・


移管の日には 図書隊と メディア良化委員会との 全面衝突が 避けられない

ことが 決定的になり・・・



ヒロイン・郁が困難に遭ったとき、一番強い味方になってくれたのは鬼教官の

堂上であることは言うまでもありませんね。


ラストでは、二人の愛の芽生え?を示唆して大団円・・・



以上、やや御都合主義的なストーリィや 軽めの文章が気に入らない方も多いかも

しれませんが、それでも充分に楽しんで読む事ができました。



軽〜く書かれた ライトノベルとは、あなどれないテーマを内包していますからね。



この『 図書館戦争 』はその後シリーズ化され『 図書館内乱 』『 図書館危機 』

そして『 図書館革命 』と続きます。チャンスがあればお話する機会もある

かもしれませんが、インパクトと物語性は この正編の『 図書館戦争 』が一番かな?



で、最後まで気になるのは・・・郁の運命を変えた、あの素敵な「 王 子 様 」には

逢えたのかしら?ってことなんですが。  え〜と、ネタバレしちゃうけど、大丈夫。

ちゃんと逢えましたから。   というか、始めから逢っているのです ww



もし、あなたが未読であっても気がつくと思うけど、この人しかいないでしょ?


↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


「 ア ホ か 、貴 様 は ! 」


ところで、この作品はアニメ化・実写化されているそうですね。

原作には まあまあ忠実なほうかな? 実写映画のトレイラーを貼っておきますので

興味の有る方はどうぞ(1分33秒)

それでは、きょうは これでお終い・・・ところで、次は『 県庁 おもてなし課 』を読んでみようかなー。

・・・またね。



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2013年04月29日

「 昭和の日 」に読む 『 向 田 邦 子 その美と暮らし 』 by ( 和 樂 ムック )


こんにちは、また来て下さってありがとう。


4月29日は「 昭和の日 」・・・以前は 昭和天皇の「 天皇誕生日 」でしたよね。

なので、崩御されてからは「昭和の日」。平成も、もう24年!本当にあっという間に もう24年かあ・・・と

思わず遠い目をしてしまったりして ww


で、「昭和の日」なんですが・・・迷いました。テーマとしては余りにも広過ぎるような?

なので、迷った末に「 昭和 」という時代の ほんの僅かな期間、流星のように輝いて

私たちの前から消えてしまい、今なお 語り継がれてファンの多い あの方の事を・・・・


はい 今日の 読書は 『 向 田 邦 子 その美と暮らし 』



    向田 邦子 その美と暮らし(和樂ムック)

    版元:小学館

    サイズ: ムック160ページ

    発売日2011年08月



今は亡き 向田邦子氏の思い出を、そのライフヒストリーと 愛用品、衣類や 道具等を

豊富な写真を交えて解説されています。


妹さんの 向田和子氏の 原稿も寄せられていてファンとしては 嬉しい一冊でした。

向田氏の死後も、関連本は 結構読んでいるのですが、初めて見る写真も多く

掲載されていましたから・・・


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「ものは 値段など知らないほうがいいと思えてくる。・・・・・ただ自分が

好きかどうか、それが 身のまわりにあることで、毎日がたのしいかどうか、

本当は それでいいのだなあと思えてくる」 ( 「 眼があう 」より )

ふだんの暮らしに“ 自分のスタイル ”を取り入れる───作家・向田邦子

さんは、その先駆けでした。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★


流行しているから・高価なブランド品だから・みんなが持っているから・・・

などの理由では決して選ばなかった人・・・確 固 た る 自 分 の 好 み と ス タ イ ル

持っていた人・・・妥協せず、ある意味では 頑固であったかもしれませんが

どこか白州正子氏と共通するものがあるようにも思えるのです。




私は 1981年( 昭 和 5 6 年 )8 月 22 日 の事を 今でもよく覚えています。

お盆は過ぎても、まだまだ蒸し暑かったあの日のことを。



その頃はまだ 実家住まいで、夕方に買い物から戻ってきたとき・・・

玄関先で、ただいまー、ふう暑かったぁーと、声をかけた私に 気づいた姪が

奥からドタドタと駆け寄ってきて、第一声が( おかえりなさい、ではなく )


「 大変、大変! お祖父ちゃんと **ちゃん( 私のこと )が好きな人・・・

ナントカ・クニコさんが死んじゃったって! 飛行機が落ちたって! 」



えっ? 一瞬 彼女が何を言っているか、よく分からなかったのですが、

着替えもそこそこにリビングに行くと、テレビを見ていた父が 私に教えてくれました。


作家の 向田邦子さんが 旅行先の台湾で 航空機事故に遭い、生死はほぼ絶望

と見られている・・・ボーイング機が突然、空中分解して山間部に墜落したので、

生存者がいるとは到底考えられないようだ、と。



驚きました。しかし、乗客名簿に載っていても、( K・ムコウダという氏名が

確認されています )本当に本人が乗っていたかどうかは分からないし、

ひょっとしたら、ひょっとしたら・・何かの間違いではないのか?と祈る

ような気持ちで、その後のニュースに気をつけていたのですが・・・



詳細が報道されたのは夜のニュースではなかったでしょうか?

ショックでした。月並みな表現ではありますが、ショックだとしか言いようのない

気持ちでした。



父親も向田氏の作品を好んでいたので、二人でお互いに顔を見交わせて

残念だ・・・まだ若いのに・・・まだまだ、これからも書ける人だったのに、と

お互いに愚痴りあったものです。



ショック!の後に私に襲い掛かってきた感情は「 も っ た い な い !」でした。

これ、よく考えると変ですよね? 好きな作家が亡くなってしまった時の

気持ちが「もったいない!」なんて・・・



けれども・・・何 か 貴 重 な も の が 無 残 な 形 で 失 わ れ て し ま っ た

もう二度と 手に入らない貴重なものが・・・と思ったら、気持ち的には やはり

「 もったいない 」としか言いようのないものでした。 不謹慎でしょうか?



事故発生から、御遺体の 確認については、向田氏の弟さんである 向田保雄氏の

『 姉 貴 の 尻 尾 』 に詳しく 保雄氏の心境と共に語られていました。


遺体確認の際に、「 おでこが光っていたので、あれが姉であろうと感じた 」

という一文があり、ああ、これこそ血を分けた姉弟ならばこそだな、と

感じた記憶があります。



向田氏が亡くなってから、もう30年以上たちました。



ドラマの脚本家としてのキャリアはあっても、作家としての 専業期間?

といえるものは、ほんの数年・・・


ドラマの脚本家としては、1964年の「 七人の孫 」を始めとして、「 時間ですよ

寺内貫太郎一家 」や「 冬の運動会 」「 阿修羅のごとく 」「 あ・うん 」「 隣の女 」・・・

あなたも 御覧になったことがある番組もあるのではないかしら?



その後、1978年の『 父 の 詫 び 状 』 でエッセイストとして認められ、1980年に

『 思 い 出 ト ラ ン プ 』で第83回 直木賞を受賞・・・初候補、そして50歳での受賞でした。



当時の 選考委員の評では、初候補だし、実力の有るのは分かるが、もう少し

様子を見てから 次回に受賞を・・という意見もあったようですが、選考委員の

山口瞳氏が「 向田邦子はもう50歳なんだから 」と強力にプッシュしての

受賞だった事が 記憶にあります。



突 然 現 れ て 、 ほ と ん ど 名 人



山本夏彦氏でしたでしょうか?  この名文句は・・・・・


『 父の詫び状 』を読んでの感想らしいのですが、まさしく 向田氏の技量を

的確に言い表しています。



没後も 関連書籍やムック、雑誌の特集等でも 何度も取り上げられた方だった・・・

その理由の1つとして挙げられるのは・・・周囲の人に好かれていたから?



ドラマの人気脚本家、という面で人脈は多かったであろうと思いますが、

それでも亡くなってしまえば、それで終わり・・で、忘れ去られてしまう

作家も多いというのに・・・



もう、向田氏の「新作」は決して望めないのですが、それでもこうした

関連本を見つけると、つい買ってしまい、折に触れてはエッセイ等も

読み直す日々です。



向田氏については、また改めて個々の作品等もお話する機会があると思うので

今日は、この辺で・・・

またね。



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2013年04月28日

「 象 の 日 」に読む 『 猫 を 抱 い て 象 と 泳 ぐ 』  by   小川 洋子


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


4月28日は「象の日」です。 1729年、清国から 将軍吉宗への献上品として

初めて日本に 象が来た日ですね。 子ども時代に愛読した『 ババール 』の

お話をしようかな?とも考えましたが・・・今日はこの作品を。


イメージの中では 重要な位置を占めても、直接的には象は登場しませんが・・・



はい 今日の読書は 『 猫を抱いて 象と泳ぐ 』   by 小川 洋子


    猫を抱いて象と泳ぐ

    著者:小川洋子

    版元:文藝春秋

    サイズ: 文庫373ページ

    発売日2011年07月



著者は 小川 洋子氏(1962〜 )1991年、『 妊 娠 カ レ ン ダ ー 』で 芥川賞を受賞、

その後 『 博 士 の 愛 し た数 式 』で本屋大賞を受賞、ベストセラーになって

映画化もされた 記憶も新しいよね。


『 妊娠カレンダー 』はアメリカの「ザ・ニューヨーカー」にも 英訳された作品が

掲載されました。ちなみに、この雑誌に作品が掲載されたのは 小川氏以前は

村上春樹氏と大江健三郎氏だけなの。( ザ・ニューヨーカーについては

4月21日に少々言及しましたが )



さて、本作の『 猫を抱いて象と泳ぐ 』・・・


チ ェ ス ( 西洋将棋 )がテーマになっている作品ですが、ルールや指し方を

全く知らなくとも この作品を読むのに 別に差し支えはありません。



( ちなみにルールは将棋に似ているので、有名な棋士・羽生善治氏はチェスの

 愛好家でもあり 国内でもトップクラスの指し手でもあります )



これ以上ない程に 美しい小説でありながら、これ以上ない程に・・・異 様 でも

ある小説、かもしれない。



いわゆる 幻想小説ではありません。さりげなく、さらりと日常が語られながら、

いつの間にか するりと 物語世界にさらわれて、あれ?ここは何処?

と気がつけば 小川洋子の世界にどっぷりと・・・ ww



この物語の登場人物たちには 一切「 名前 」が与えられていません。

主人公は「リトル・アリョーヒン」と呼ばれていますが、これは本名ではなく

彼につけられたニックネーム、いや 称 号 と言うべきか?



ちなみに、アリョーヒン(1892〜1946)は ロシアの伝説的なチェスプレイヤーであり

グランド・マスターという最高位のチャンピオンであり、「 盤 上 の 詩 人 」と

呼ばれた人物です。 猫を愛し、よく猫を抱いてプレイしました。

少年が こよなく敬愛した先達チェスプレイヤーです。



さて、主人公の少年は 唇 が 閉 じ ら れ た ま ま で 誕 生 しました。

産まれてすぐ 唇を開く手術がされましたが、その際に 脛の皮膚が移植されます。その為

少年の唇には 脛毛が生えてきてしまうのですが・・・( いや、実際には有り得ないと

思いますが ) そのせいもあり、少年は無口なままに成長します。


たまに連れられて行くデパートの屋上に、以前は 飼われていた のインディラに

思いをはせ、夜はベッドの中で 近所の壁に挟まれて死んでいたという少女・

ミイラと空想の中で会話をします・・・


そう、無口で 風変わりな孤独な少年なのね・・・両親はいなくて弟と祖父

そして祖母と一緒に住んでいます。



ある日、学校で起ったちょっとした事件がきっかけで、バス会社の敷地内

にある廃バス?を見つけます。最早バスとしては役に立たないのに、何故か

住居になっていて、そこに住んでいる男性&飼い猫と知り合いになります。



その男性が少年のチェスの師になり、 マ ス タ ー と呼ぶようになり、チェスの

ルールだけではなく チェスの魅力も伝授されるように・・・




チェスのような勝負事の対戦の模様を これ程までに 美 し く 詩 的 に 文 章 化

できるのか・・・と感嘆しました。



チェスに没頭しているときの気持ちが、こんな風に描写されています。

この心境がタイトルになっているんですね・・・


チェスに限らず、ある意味では、名人の心境かもしれないけれども。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

ポーンを抱き寄せ、光の帯に身体を預けた時、少年は今まで味わったこと

のない不思議な感触を覚えた。少年はデパートの屋上で、海を泳いでいた。

水面は頭上はるかに遠く、海底はあまりに深く、水はしんと冷たいのに

少しも怖くない。怖くないどころか、ゆったりとして身体中どこにも変な

力が入っていない。ああ自分は唇だけになっているのだ、と少年は気づく。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━★


マスターから勧められて、町のチェスクラブの入会審査を受けますが

あまりにもゴージャスでスノッブな、少年の日常とかけ離れた雰囲気に呑まれて

前半は力を発揮できず、後半に机の下にもぐりこんで 勝負を始めてしまいます。



少年が 初めて「リトル・アリョーヒン」と呼ばれたのは、この勝負からでした。



けれども、入会そのものは断られてしまいます。チェス盤の下にもぐりこむ独特の

スタイルが受け入れられなかったようですね。



その後、悲劇的な事件が・・・少年が師と仰ぐマスターが急死してしまいます。



バスの中で心臓マヒを起こして・・・体重が 250キロを越すほど肥満した

マスターの遺体を運び出す為に解体されるバス・・どこかに逃げ去ってし

まう猫のポーン・・・少年は解体されたバスの中からテーブルチェス盤と

駒を辛うじて持ち出すのですが・・・



そうして、少年はマスターの死を悼みつつ 11歳の身体のまま 成長する事を

拒否してしまいます。



どれ程、精神や チェスの技量が上達しても身体は11歳の、チェス盤の下に

収まる大きさを保ったまま・・・身体が大きくなる事は彼にとっては悲劇

でしかなかったから。



しかし、 成 長 す る 事 を 拒 否 し て 、ず っ と 1 1 歳 の 身 体 の ま ま って・・・

余りにも さりげなく書かれていて 逆にぞっとしましたよ。



ドイツの小説、『 ブリキの太鼓 』( by ギュンター・グラス)を思い出してしまいました。

映画化されて、カンヌでグランプリを取った有名な作品です。

いや、あれ程の悪意といかがわしさは無いのですけれど・・・・・



やがて、少年はチェスの技量と 小さな身体を活かせる最高の職?を得ます。

それは、チェスを指す からくり人形の中に入って、人形の代わりにチェスを指す事。


かつて、「トルコ人」と呼ばれた有名なからくり人形がありました。↓

トルコ人 chess1.jpg

こんな感じですね↑ (写真引用元:Wikipedia)


そうして少年は、「 リ ト ル ・ ア リ ョ ー ヒ ン 」と名付けられた人形と一体となり

新たな伝説を 創り上げる事になるのですが・・・・・



そうして、最後には静謐な死を迎えます。生まれた時と同じようにしっかりと

唇を閉じ、右手にはポーンの駒袋を 左手には最も愛したビショップの駒を

握って・・・・・





いつも不思議に思うのだけれど、この作者の日本語は 端正で美しい・・・



なのに、どこか異国の匂いがするのは どうしてかしら?

翻訳小説風の 臭みもないのに、どこか・・・チェコ か ポーランド、旧東ドイツ風の

良い意味での 日 本 人 離 れ し た セ ン ス を感じさせるのです。



文章が非常に 繊細で、象牙の細工物のように 緻密でもある・・・

そうして、何 気 な く さ ら り と ・・・ 怖 い 事を書いているような・・・・・



美しい文章の海で 泳ぎたくなったとき、私はいつもこの作品を読み返すのです。


『 博士の愛した〜 』ほど一般受けはしないと思うけれど、それでも愛してやまぬ

貴重な作品・・・もしもあなたが小川氏のファンであるならば、賛同して頂けると

思うし、全くの未読であれば・・・まずは 『 妊娠カレンダー 』 はいかが? 

賛否両論ある作品でもありますが、大抵の図書館にも置いてあると思うし、

美しく静謐な 毒を味わうにはもってこいかも?


さてと・・・今日はこれでお終いです。

またね・・・。



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