2013年04月24日

「 日本ダービー記念日 」に 読む 『 優 駿 』 by   宮本 輝


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


4月24日は「日本ダービー記念日」です。


1932年( 昭和7年 )に、日本初のダービー( 東京優駿競争 )が開催された事を

記念して制定されました。「ダービー」とは、英国のダービー卿が始めた

4歳馬のナンバーワンを決めるレースが発祥となっています。



さて・・・最初にお断りしておきますが、私は 競馬の事は全く知りません

馬券を買った事はおろか、テレビ中継を見たこともないしね。



サラブレッドが美しい動物である事は認めるけれど、あんな細い脚で

よくまあ あれ程速く走れるもんだなぁ〜と思う程度ですから。

第一、ギャンブルそのものが好きじゃない・・・多分あなたもそうじゃないかな?



ただ、他のギャンブル、競輪にしても競艇にしても 選手だけが競技するのだけれど

競馬の場合は、人間(騎手)ブラス馬(競走馬)が一緒に勝負するので

また特別な面白さや複雑さ、そして難しさがあるかもしれません。



そう、今日は 競 走 馬 と 人 間 の 物 語 なんですよ。なので、この作品を・・・



はい、今日の 読書は 『 優 駿 』  by   宮本 輝



    版元:新潮社・新潮文庫

    上下巻  ← こちらは上巻

    著者:宮本輝

   発行年月:1989年11月




    

著者は 宮本輝氏です。1977年『 泥の河 』でデビュー、第13回太宰治賞を受賞。

翌年には『 螢 川 』で 芥川賞を受賞。以来、コンスタントに良作を発表している

人気作家ですよね。( その割には私は余り読んではいないのですが )



私の亡くなった親友が 宮本氏の大ファンでした。 親友であっても 好みは

異なるので、この『 優 駿 』なら あなたのお気に召すかも?と言って

貸してくれたのが読んだきっかけです。



その時は、あー、お馬さんの話?競馬って全然知らないし 読んでも 意味が

分からないかも・・・と思いつつ 読み始めたら・・・・・


面白かったんですよ、これが!


どの位面白かったかというと、読 み 終 わ る の が も っ た い な い 位 面白い・・・

といえばお分かり頂けるかしら? 彼女に借りたのは、全集の7巻目で

600ページ以上もある分厚い本でしたが、読みながら残りの厚さを見て


「あー、あと少ししか残っていない・・残念・・もっと読みたいのに〜」

と思った程でした。


競馬の、ギャンブルとして馬券を買う人の視点ではなくて、生産者や馬主

そして、競技に係わる 調教師や 騎手の物語であったからこそ私の好みに合ったのでしょうか。


そのまま借り続けて、彼女の死後は娘さんから「そのまま貰ってやって下さい」

と言ってもらえたので、この本は今も私の手元に残されています。

文字通り、親友の形見になった本なんですよ。



しかも、登場する主人公( なのか? )の馬の名前が オ ラ シ オ ン祈 り )!




この物語は、北海道のある 零細牧場の 厩舎で1頭の仔馬が生まれたところから始まります。


登場人物は非常に多く、主役・脇役というよりは、登場人物すべてが

主役といっても問題ないほど、さまざまなドラマを持ち、彼らの背景や

個性がしっかりと 描き込まれています。



そうして、章ごとに 登場人物の視点が変わって行きます・・・・・


牧場主の息子・渡海博正 →→ 馬主・和具平八郎 →→ 馬主の18歳の娘・和具久美子

→→ 馬主の秘書・多田 →→ 騎手・奈良五郎など・・・・・



みなそれぞれに馬に夢を賭けています。そうした沢山の夢が絡み合って

ストーリィが進行してゆくのですが、この物語の核となるのは常にオラシオンです。


実際に登場するシーンは決して多くは無いのですが、登場人物の心の中

に常にいるので 抜群の存在感です!



また、私の全く知らない競走馬の世界・・・実際にレースに出る前の馬たちに

係わる人々の物語や調教・厩舎の世界、馬と乗り手の問題など、綺麗事では

済まないドロドロした事情も多々ある事を知りました。



実力だけではどうにもならない“ お と な の 事 情 ”・・・・・



例えば、騎手の奈良。 自分と相性の良い乗り慣れた馬であっても、重賞の

ここ一番のときに ライバルに譲らなければならなくなります。



哀しさや悔しさから、ふと魔がさしてわざと間違った馬の扱い方を教えた

結果・・・ 転倒して 騎手も馬も両方とも死んでしまう結果を招いたりもします。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

このままで住むはずがない。そんな気がした。いつの日か必ず、寺尾と

同じ死に方をしそうな予感がした。きっと俺は、馬から落ちて死ぬだろう。

(中略)

奈良は誰かに助けてもらいたかった。と同時に、寺尾と同じようにして

死ぬことを望んだ。(中略)

日本一のジョッキーになってみせる。すべてのレースを死ぬつもりで乗るのだ。

そしたら、日本一のジョッキーになれるかもしれない。そして、競馬場の

ターフの上で死ねる。(中略)

そうすることで、奈良は自分の罪をあがなおうと決めたのである。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


この 騎手の奈良は、物語の中核をなす登場人物ではありませんが、とても

印象的な脇役でした。 最後には、オラシオンに騎乗してダービーの勝利馬に

導く人物でもあります。そんな奈良の先生ともいえる調教師の砂田も

馬を知り尽くしたような人物で、オラシオンの調教を手がけます。



メインの主人公は、馬主の和具と娘の久美子、牧場主の息子渡海なのですが、

和具には かつて関係した女性との間に息子が一人いて、重い腎臓疾患を抱えていて・・・


とにかく、登場人物全てに抱えた物語があり、それが幾重にも絡み合い

物語のクライマックスへと進行して行きます。



一冊の物語ですが、読了後は、何 冊 も の 物 語 を 読 ん だ よ う な 満 足 感

ありました。

しかも、最後まで見事に 破綻なく進んで行きます。

この『 優 駿 』は 宮本氏の小説の上手さを充分に堪能できた一冊といって良いと思う。



また、、この作品を読んで 初めて知ったサラブレッドにまつわる物語は

非常に興味深いものばかりでした。


牧場主の息子・博正が愛読している「名馬 風の王」という童話・・・


ある新月の晩に アラビアに生まれた仔馬が、数奇な運命の果てに英国に

渡り、雇われたお屋敷の英国馬と偶然に交配してしまいます。そうして

産まれた仔馬が 英国一速く走る競走馬に成長し、サラブレッドの始祖と

もなったという・・・そのアラビア生まれの馬と一生を共にした少年の

物語です。 マーゲライト・ヘンリーによってまとめられ、

宮本氏はこの童話を読んで『 優駿 』を書こうと思い立ったそうです。



いや・・・実は それだけではありません。



宮本氏は子どもの頃、お父さまと一緒によく競馬場に足を運んだそうです。

そして、一瞬のひらめきでお父さまが選んだ馬と、8歳位の宮本氏が選んだ

馬とを組み合わせて馬券を買う事が多かったとか・・・

結果はともかくとして、ね www



そして、芥川賞を受賞した夜に、氏は亡くなったお父さまの事を思い出します。

息を引き取る前に「お前に期待をかけ過ぎて悪かった」と氏に詫びたという

お父さまの事を・・・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

父が生きていたら、どんなに歓んでくれただろうかと思ったからでした。

そして、父と一緒によく競馬場へ行ったことを思い出した瞬間、私は、

いつの日か、一頭のサラブレッドを主人公にした小説を書こうと決めたのです。

父の言葉とサラブレッドとが、どこでどう結びついたのか、私には、

いまでもよくわからないでいます。

その日から約八年後に、私は「優駿」を書き終えました。(中略)

私はこの『優駿』を、父に捧げたいと思います。


★━━━━━━━【 宮本輝全集第7巻より一部抜粋 】━━━━━━━━━★


そうか・・・『 優駿 』は宮本氏にとっても「祈り」の結実した作品なのね。



この作品は単なる競馬小説ではありません。 登 場 人 物 の 夢 と 祈 り が一頭の

サラブレッドに託された 美 し い 物 語 です。



競馬に関して 無知で何の予備知識が無い私でも、充分に楽しめました。



もし、あなたが未読であれば、そして機会があれば、ぜひとも読んでみて

ほしいなあ・・・そして、読み終わった後の夜・・・あなたは疾走する美しい

サラブレッドの夢を見るかもしれませんよ?



実は、私がそうだったんですよ ww



さてと・・・今日はこれでお終いです。

またね。


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2013年04月23日

「サン・ジョルディの日」に読む 『 秘 密 の 花 園 』 by バーネット夫人


こんにちは、また来て下さってありがとう。


4月23日は「 サン・ジョルディの日 」です。


記念日としての定着はイマイチなんですが、スペインの聖人にちなんで、

女性から男性には本を、男性から女性には 薔 薇 の 花 を贈り合うというもの。


出版業界( 書店 )のキャンペーンの一環として始まったそうですが、

正直いって 本を贈るのは難しいよね。


でも、薔薇の花なら・・・? なので 今日は 薔薇にちなんだ作品を・・・


まず最初に思い浮かんだのは 映画化もされた名作『 薔薇の名前 』

ボーエンの『 あの薔薇を見てよ 』、フォークナーの『 エミリーに薔薇を 』・・・

日本では余り・・・田辺聖子氏の『 薔薇の雨 』かな? 年下の男性との別れを

美しく描いた好短編でしたが、今日はやはりこの作品を・・・

薔薇の花が美しく咲く庭が登場しますから。



はい 今日の 読書は 『 秘 密 の 花 園 』  by バーネット夫人



  光文社・古典新訳文庫

  フランシス・エリザ・バーネット

  訳者:土屋京子

  サイズ:文庫 507ページ




三浦しをん氏にも 同名の作品があるけれども・・・今日はこの作品です。


著者はフランシス・エリザ・バーネット(1849〜1924)なんだけど

日本ではずっと “ バーネット夫人 ”として知られていたよね。

『 小公子 』 『 小公女 』そして『 秘密の花園 』の作者として、余りにも有名な人。


おそらくは、あなたも子ども時代に 上記の作品をお読みになった事が

あると思うのですが・・・


『 秘密の花園 』については、私自身は、小学生の頃に 子ども向きにリライト

されたものを最初に読み、その後は、岩波少年文庫(上・下)で読んだかな?

今でも 手元に置いては折に触れては 読み直す作品です。


今回は、新訳が出ている事を知り、図書館で借りて読んだのが 上記の

土屋京子氏訳のものです。


基本的には 岩波少年文庫と変わりは無いのですが、訳者としての土屋氏の

こだわりが感じられる良い訳ではないかと思いましたよ。また、巻末の

解説も、子ども向けではなく明らかに「おとな」に対して書かれたものであり

かなり読み応えがありました。



そう、『 秘密の花園 』は子ども時代に読む児 童書としてではなく、オトナが

改めて 読みなおすのにふさわしい名作なのだから。



そして、薔薇の花・・・ただ、美しく華麗な花というだけではなく

いろんな意味を持つ花であることも知った今だから、ね。


薔薇は英国(イングランド)の国花であり、美しさ・豊かさを象徴する意味でも使われている花。

故ダイアナ妃は今なお敬意をこめて「イングランドの薔薇」と呼ばれているのを御存知でしょ?


単なる花としてではなく、英語の慣用句には“薔薇”を使った言葉が

非常に多いのにも気付く。“愛” “平和” “安楽”の象徴というか・・


確か、直訳すると「喉元に薔薇を飾る」で、意味が「優しく愛をこめて話す」

という慣用句もあったような?


そう、日本人にとって「桜の花」がいろんな意味を持つように、

薔薇が 愛 と 平 和 の 象 徴 になっているの。



さてさて、『 秘密の花園 』です。



この物語の主人公メアリは、『 小公子 』や『 小公女 』のキャラクタとは

かなり異なるタイプ。 可愛くもなければ、けなげな良い子でもありません。

何しろ、物語の最初から こうですからね↓



★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

メアリ・レノックスが叔父の住む広大なミッスルウェイト屋敷に

送られてきたとき、十人が十人、こんなにかわいげのない子供は

見たことがないと言った。たしかにそのとおりだった。

★━━━━━━━━━【 冒頭より一部抜粋 】━━━━━━━━━━★



「 たしかにそのとおり 」って ww


「 赤毛のアン 」のように、器量は少々アレでも、はつらつとした魅力が

あるわけでもないのね。



ヒロインのメアリは、19世紀英国の植民地であったインドで生まれ育ち、

アーヤ( ばあや )や 召使達に かしずかれ 甘やかされて育ちました。


高級軍人の父からも、パーティ好きな母からも構ってはもらえず、

病気がちで いつも不機嫌なわがまま娘。 誰からも愛されないので

愛することも 感謝することも知らない子ども・・・



9歳のとき、両親を悪性のコレラで失ったメアリは、ただ一人の親戚である

英国ヨークシャー・荒涼としたムーアに建つ 豪壮な館に住む叔父の家に

引き取られたものの、当初はなかなか新しい暮らしに馴染めません。


なにしろ、生まれてからこのかた、自分で服を着たことも靴を履いた事

もない、すべて召使に「命令」してやらせていた クソガキ お嬢様・・・


けれども、インドとは全く異なる 生活様式と気候の ヨークシャの自然の中で

メアリは少しずつ変化していきます。メイドのマーサや庭師のベンと話し合い

外で遊ぶ内に 子どもらしさを取り戻して行きます。


「 ありがとう 」と言った事も無いメアリが、人に対する思いやりを 経験から

学んでいきます。 自然児そのままのディコンとの出会い・折にふれて聞く

マーサの母親の含蓄のある言葉・・・



そうして、10年前から閉じられたままになっている 花園の存在を知り

大いに興味を持ちます。



それが “ 秘 密 の 花 園 ” ・・・かっては 薔薇の花が咲き乱れていたとか・・・



偶然、埋められた鍵と入り口を見つけたメアリは、ディコンと協力して

なんとか花園を蘇らそうとします。


そうして、屋敷の中で 誰にも知られないようにされたままの従兄弟コリンの

存在を知ります。病弱で寝たきりのまま過ごすコリンは、メアリと同じ

ように 両親から愛された思い出を持っていません



いずれ自分はおとなになる前に死んでしまうと思い込み 周囲の者も

腫れ物に触れるようにして、ただ甘やかして言いなりになるだけ。


父親も、母の死から立ち直れずに心を閉ざしたまま、花園に鍵をかけ

“ 開かずの庭 ”にしてしまいます。

妻を思い出させる息子とは、努めて係わらないようにして、屋敷も留守がちに・・・



メアリとコリン、そしてディコンの三人が心を一つにして、ベン爺さんの

協力も得て 花園を蘇らせたとき


・・・・・ “ 奇 跡 ” が起きます。



★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

「ぼくはずっと生きる。ずっとずっと生きるんだ!」 コリンは堂々と

叫んだ。 

(中略)

「そして、これからもずっと魔法を起こしつづけるんだ。ぼくは元気に

なった!元気になった!なんだか叫びだしたいような気分だ。

ありがたくて、うれしくて、そんな気持ちを大声で叫びたい気分だ!」

★━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★



いいえ、本当は 奇跡でも魔法でもないんだよね。


そう、これは 閉ざされた心が 外にゆっくりと開いてゆく物語なのね。


他者との関わりや、自然の力によって・・・美しく花開くように、

心が柔らかく愛と平和に満ちてゆく物語、といってもいいかも?



鍵をかけられて 閉ざされたままの花園は、そのまま メアリやコリンの心

といっていいかもしれません。


おそらく・・・あなたも もう気がついているのではないかしら?



「 秘密の花園 」が単なる庭ではなく、私たちの心の中にある善なるもの・

美しいものの 象徴である事を。それは生きる意欲であり 証しでもある事
を、ね。



子ども時代に読んだときには、ストーリィの面白さだけで楽しんでいた

けれど、この年になって読み直すと 新しい発見がある事に気付く・・・

まさに、名作の名作たる所以だと思うな。



さて、『 秘密の花園 』はこれまで何度か映像化されていますが

1949年のアメリカ映画では こんな感じね↓

秘密の花園1.jpg

往年の名子役マーガレット・オブライエンが主演しました。


あと、1975年と1987年の英国BBCドラマなどが有名かしら? コレね↓

秘密の花園2.jpg

どちらも余り知られていないかな? 日本ではDVD化もされていないと思う。


けれども、一番よく出来ているのが1993年制作のコレです↓ 



  監督:アニエスカ・ホランド

  製作総指揮:フランシス・コッポラ

  販売元:ワーナー・ホームビデオ

  時間:102分




映像の美しさもさることながら、キャストがイメージにぴったり。

ハリ・ポタでお馴染みの「マクゴナガル先生」も家政婦・メドロックを好演しています。

これならレンタルショップにも置いてあると思うな。

トレイラーを貼っておきますので興味のある方はどうぞ。(2分04秒)



さて、今日はこれで おしまいです。

またね・・・。


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2013年04月22日

「 夫 婦 の 日 」に 読む 『 崩 れ る 』 by  貫井 徳郎


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


毎月の22日は「 夫 婦 の 日 」になります。


結婚生活をテーマにした作品で、丁度 読んだばかりのものがありました。

サブタイトルが 「 結婚にまつわる八つの風景 」 ・・・・・



はい、今日の読書は 『 崩 れ る 』 著 者: 貫井 徳郎  集英社&集英社文庫




  サイズ:文庫

  装丁は京極夏彦氏

  桐野夏生氏が 解説文を担当





著者の貫井徳郎氏( 1968〜 )も最近人気のあるミステリ作家ですよね。

何かのきっかけがあれば、もっともっと大きくブレイクすると思うな。

ちなみに、奥様は同じミステリ作家の 加納朋子氏です。



1992年『 慟 哭 』でデビュー。鮎川哲也賞の 最終候補に残っただけあって

本格派の王道を行くミステリでした。



その後は『 愚 考 録 』『 乱 反 射 』で 直木賞の候補にも挙げられていますが

直木賞のテイストには・・・・合わないような気がするのですが?


まあ、はっきり言えば、選考委員の お気に召す作風ではないからだと

( 個人的には )考えています。 ことさら、この賞を狙う必要性も無さそうですね。



あ、例によって異論は認めますので ww



その他、『 空 白 の 叫 び 』 や「症候群」シリーズ等、やや暗めの作風が多いかもしれません。


今日、お話する『 崩 れ る 』はこの作家には珍しい短編集です。

「 結婚にまつわる八つの風景 」という副題ですが、結婚生活そのものを

描いた作品ばかりではありません。



タイトルのトーンが統一されているのですが、崩れる・怯える・憑かれる・

追われる・壊れる・誘われる・腐れる・見られる・・・・・う〜む・・・


このラインナップを見ただけで、幸福な結婚生活には ほど遠い物語 ww

だと見当はつきますよね。  以下、各作品について少々・・・



『 崩 れ る 』

表題作です。この短編集の中で一番古い(1994年)作品ですが、

一番よく出来ているような? 


ヒロインの芳恵は、化粧品の 箱詰め作業のパート勤めをずっと続けています。

夫は 画家くずれのイラストレーターですが、仕事は殆どありません。

積極的に売り込むでもなく、ぐうたらと過ごす毎日・・・


で、不思議な事に こういうタイプの男性ほど、家事は全く手伝ってくれないんだよね。

すべてが無責任でいい加減、どう見ても、結婚生活に向くタイプどころか、

社会生活にも上手く適応できないような男性にしか思えません。


離婚を考えた事も何度もありましたが、一人息子の義弘の事を考えると・・・

小さい頃は、父親のいない子どもにしたくないと思い、大学に入学して

からは 就職の事を考え、卒業して 就職してからは結婚の事を考えて・・・


結局は ズルズルと今の暮らしを続けるだけ、丁度ぐるぐる回るベルトコンベアの

前の仕事を 無感動に処理してゆくように・・・


しかし、息子がせっかく就職した銀行を勝手に辞めてしまい、アニメーターに

なりたいと言い出してから・・・・



ストーリィそのものは 決して目新しいものではありません。

結末も、さもありなんという 予定調和の終わり方なんですが、家族の

身勝手に ずっと振り回されてきたヒロインが、事件を起こした時に

思わず口にする言葉が怖かったな・・・



あ あ 、さ っ ぱ り し た



結婚以来、初めて口にした台詞(せりふ)が「 ああ、さっぱりした 」

うーむ・・・さっぱりする為には、どうしても息子や夫を***必要が

有ったという事なのか・・・。


リアルな生活感あふれる作品だけに、私はしみじみ怖いと思いましたよ。

この作品を読んで、私はW・S・モームの短編小説みたいだと感じました。

ヒロインが全く 罪悪感を感じていない点などが 特に、ね。



『 怯 え る 』

タイトルは「怯える」・・・昔 関係した女性の影に付きまとわれて、おびえる

男性が主人公ですが、ある意味ではこの作品はハッピーエンドですね。

この短編集の中では珍しく、前向きの姿勢で終わっていますから ww



『 憑 か れ る 』

ヒロインは独身の新進翻訳家です。ある日突然 高校時代の級友から 電話があり、

新婚旅行前の食事会に参加してくれと頼まれるのですが・・・

こちらは純然たるホラー作品でした。



『 追 わ れ る 』

ヒロインの千秋は 結婚相談所に勤務していますが、本人は独身です。

女性との交際経験の無い 男性会員と 模擬デートするのも、業務の一環

なのですが、ある勘違いした男性会員から、真剣に好かれてしまいます。

それがまた、全く魅力のない男性で・・・


最後に、ちょっとしたオチの有るショートストーリィ。

「 世 に も 奇 妙 な 物 語 」風 かな?



『 壊 れ る 』

妻に内緒で 不倫中の男性が主人公です。ある日、妻が交通事故を起こしてしまい、

加害者は 何と自分の上司の妻・・・示談金なども うやむやに されそうで

困った男性は、何とか上司の弱点を握ろうとして・・・


こちらも、やや軽めの「 世にも奇妙な物語 」風でした。

教訓:自分が簡単に思いつくアイデアは他の人も思いつく、という事 ww



『 誘 わ れ る 』

二人の若い 主婦の物語。 杏子は 新しく購入したマンションの近辺住民とは

馴染めず、公園デビューも上手くいきません。


たまたま、新聞の広告( 友人募集 )で同じような悩みを持つ若い母親、

みどりと知り合い親しくなってゆくのですが・・・


サスペンス風の物語。 二人の女性・杏子とみどりの語りが交互に続いていきます

実は、これは ミ ス テ リ の 王 道 とも言えるお話なんですよ。


つまり「 どちらが 嘘をついているか? 」というのがキモになります。

この作品の場合は「 どちらが 狂っているか? 」なんですが・・・


それにしても、狂った妻と一緒に暮らして全然気がつかない夫というのも

・・・・むしろ、そちらの方がコワイかも?



『 腐 れ る 』

このタイトルは・・・抽象的な意味での“ 腐 敗 ” かと思ったら、そうではなく

文字通り、何かが 腐っていくお話なのですね。 お隣のベランダで ww


著者自身の 後書きで、この作品集の中で1つ選ぶとしたらコレ!と記して

いますが、“ 匂 い ”をテーマにした サスペンスまたはミステリって

有りそうで無いかなあ・・・


ところで、よく思うのですが、ミステリ作家の皆さん方は 人間の腐敗臭を

実際に 嗅いだ事がある人はいるのでしょうか?


殆どいないのではないかしら? イマイチ皆さんリアルじゃないものですから。

私ですか?   はい、ありますよ 。 ( ← いや、我ながらコワイね ww )



『 見 ら れ る 』

結婚を前にした一人暮らしの女性・未奈子が主人公です。

掃除や 整理整頓が余り得意ではありません。婚約者は温和で気の良い男性で

余りうるさくは言わないのですが・・・。


ある時から、未奈子の所に 見知らぬ男性から奇妙なイタズラ電話がかかって

来るようになりました。自分の行動をまるで見ていたかのように告げるのです。

怖くなって、固定電話のコードを抜いても、携帯にまでかかってくるのは

どうして・・・??


実は、このパターンのミステリやサスペンスは結構多いですよね。

この作品も、なぜ自分の行動を知っているのか?という理由は読んでいて

すぐ気がついたのですが(ちゃんと伏線もあります)


最後に、ちょっとした「 ひ ね り 」があり、実に効果的で上手い作品だと

思いました。



以上、8編の短編小説・・・もう15年以上前の作品ですが 古さは全く感じません。

人の心や感情をテーマにしているからでしょうね。

だから、普遍的な面白さは変わらないのでしょう。


しかし・・・人の心をテーマにすると 何故 怖い作品になるのでしょうか



さあ、今日はこれでお終いなんですが、このところ、暗い話が続くので

次回のアップは明るい話をしましょうか?


そう、「 愛と平和 」をテーマにしたりして ww

それでは、またね・・・・・


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