こんにちは、今日も来て下さってありがとう。
今日は少し長いけど「 富くじが 幕府公認になった日 」です。
なので、“ く じ 引 き ”をテーマにした作品を、ね。
くじ引きといえば、誰しも思うのは「 宝くじ 」だよね。当る当らないは
別にして、 みんな夢を抱いて買っているんだと思うよ。
毎月は 買わないけれど、年に一度だけとか、あなたも買われた事があるかも?
今日、お話する作品は・・・“ くじ ”がテーマにはなっているけれど・・・
はい 今日の 読書は 『 く じ 』 by シャーリー・ジャクソン

発売日:2013年2月
サイズ:文庫
出版社:文藝春秋
“ 厭 な ”物語を集めた短編集
この中に収録されています。
『くじ』が表題作になった本は、早川書房から 深町真理子氏訳で
出版されていますが、今は入手しにくいかもしれません。
幸い今年発売になった文庫で 丁度良いのがありました。コレです↑
他に、クリスティや P・ハイスミス等も収録されています。
著者はシャーリィ・ジャクソン( 1916〜1965 )アメリカの作家です。
日本では決してメジャーとは言えないけれど、アンソロジーに よく収録されているので
根強いファンは多いかも?
この作品は1948年、アメリカの有名雑誌「ザ・ニューヨーカー」に発表
された短編小説です。
で、掲載された後に・・・抗議の手紙が 数百通も 殺到したそうなんですよ。
いわく、悪趣味である・もう「ザ・ニューヨーカー」は買わない
いわく、作家は 謝罪せよ・この話の結末は妻にひどい衝撃を与えた
いわく、自分たちは高等教育を受け、教養ある階層の一員であると考えていたが
(こういう作品は)文学の真実性への信頼を失わせるものである 等々。
うーむ・・・・・1925年に創刊されて、アメリカで最も洗練された
文芸誌&総合誌という評価を持つ「ザ・ニューヨーカー」の読者層には
受けなかったようですね。むしろ嫌悪感を持たれたかもしれません。
ただ、現代では、彼女の名を冠した「シャーリー・ジャクソン賞」というのが
有るそうですから、文学的な評価は高い作家とされています。
また、もし現代であれば、これ程拒絶反応も無かったでしょう。
むしろ今では古典的名作の一つであると認識されていますから・・・
『くじ』が発表当時に 嫌悪感を持たれた理由は、エッチで下品等といった
理由ではありません。 勿論、暴力的な描写が多いわけでもありません。
実は、これって・・・・・今で言う イ ヤ ミ ス なんだよね。
「イヤミス」・・・最近使われだして定着してしまった 用語だけれど
定義すると、後味が悪い・イヤな気分になるミステリーの 総称かな?
但し! 作品としての魅力がなければダメ。 単なる悪趣味な駄作は問題外で
優れた面白い小説でなければいけない、というお約束があると思うの。
作品としてはよく出来ていて 傑 作 だけれど、後 味 が 悪 す ぎ る ・・・
湊かなえ氏の『 告 白 』が登場してから言われだしたような記憶があるのですが?
いや、『 告白 』がそうネーミングされたんだっけなぁ・・・
あと、『 殺 人 鬼 フ ジ コ の 衝 動 』に代表される 真梨幸子氏もかなあ。
また、沼田まほかる氏の作品群も。
ミステリではないけれども、映画&漫画の『ヘルタースケルター』も近いと思う。
まあ、そういった系統の作品なんですよ。
その意味では、元 祖 ・ イ ヤ ミ ス かもしれません。
舞台となっているのは(多分アメリカの)人口300人程の小さな村です。
天候に恵まれた6月のある朝・・・何かイベントが行われるようです。
それは住民すべてが参加の「くじ引き」・・・。
大きな村なら 2日がかりになるけれど、この小さな村なら2時間も
あれば済んでしまいます。
村の人々は、朝の10時ごろから広場に集まってきます。
夏休みの子どもたち、おとなの男性住民、女性住民・・・
このくじ引きを運営するのは、サマーズ氏です。
村の世話役のような立場なのかな? 黒 い 木 箱 を持って登場。
初代の箱は 入植当時の物だというし、どうやらこのくじ引きは 伝統的な
ものらしくて、一 種 の 儀 式 のようです。
箱の中には 紙片が入っています。サマーズ氏が手を入れてかき混ぜます。
中に入っている紙片は、前の晩にサマーズ氏とグレイグス氏が作成して
厳重に金庫の中に仕舞われています。
くじの開始前には“ 儀 式 ”ともいえる約束事があり、村の全家族の世帯主
及びその 家族の名前が次々に読み上げられます。
御主人がどうしても、くじ引きに参加できない事情があるときには 妻が代わりに
親が参加できないときには息子が、というように、どの世帯も必ずくじを
引くことが義務付けられているようです。
そうして、一族の長から 順番に呼ばれてくじを引きます。結果はすぐに
見てはいけない決まりになっています。
その間、ひそひそと私語も始まりますが「どこそこの村では、くじを止めようという
話が持ち上がっているらしい」と言った人は白い目で見られます。
全員が引きおわてから一斉に 紙片が開かれるのですが・・・一人の男性が
当りました。 次はその 家族の中で改めてくじ引きをするのですが・・・
しかし・・・これは 何 の く じ 引 き で し ょ う か ?
誰か 一人を 選ぶ為にくじ引きをしているようですが。
さあ、何だと思いますか?
未読であっても、カンの良い方ならもう気付いているかもしれませんが
もし、あなたが 何か嫌な事、不穏な状況を 想像しているのならば、
それは当りだと思いますよ。
何しろ、これは「イヤミス」ですから ww
初めて読んだときには、衝撃よりも「ああ、こういう小説もあるのか」と
思った記憶があります。「 奇妙な味 」でも「 ブラックユーモア 」でもない。
悪い夢を見た時のような 後味の悪さ・・・不条理ではあるけれど、
他人事だから無責任に面白いというか・・・ただ、どうしてこんな事を
するのか?という 解説は一切ありません。
くじ引きの習慣は、この村だけでは無さそうで 住民みんなが当然のものとして
受け入れている世界・・・だからこそ不気味な想像力をかきたてられるの。
『 くじ 』 は、アメリカでは 非常に有名な作品で、例えばO・ヘンリーの
『 賢者の贈り物 』並の 扱いといえばお分かり頂けると思います。
著者のシャーリー・ジャクソンは「 何の為にこんな物語を書くのか? 」
「 こんな儀式を行う村を知っているのか? 」という質問に対しては一貫して
「 私 は た だ 物 語 を 書 い た だ け 」とサラリと答えているとか・・・・・
英文学者で 翻訳家の若島正氏は、シャーリー・ジャクソンの作品群を
こう評しています。
>ジャクスンのおもしろさはその「 ただの物語 」の危うさにある。
>日常と非日常、平凡と非凡の紙一重のはざまで、彼女の作品はきわどく
>宙吊りになっている。
( 引用元:『 乱視読者の英米短編講座 』 )
ああ、この「宙吊りに」なった感覚というのは分かるような・・・
何とも不安定で、足 が 地 に 着 か な い 浮 遊 感 を味わう作品なんですよ。
私たちのごく普通の 平凡な日常の中で、読 書 に よ っ て 与 え ら れ る 非 日 常 感 を
たっぷりと 味わえる作品といえるのでしょうね。
さて、今日はこの辺で終わろうかしら。 でも・・・もしも、もしも
あなたがイヤミスを 毛嫌いする人でなければ、下記の作品も かなり
悪夢感たっぷりでした↓ 後味の悪さでは、この作品の方がキタかなあ・・・

『 ずっとお城で 暮らしてる 』
創元推理文庫
シャーリー・ジャクソン 市田泉訳
それでは、またね・・・ところで、宝くじが全然当らないのも運が良いのかもね?