2013年04月14日

「フレンドリーデー」に読む 『 さ ぶ 』  by  山本 周五郎


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


4月14日は「フレンドリーデー」

「 友達って よ(4)い(1)よ(4)ね 」の 語呂合せから来ています。


友情を 確かめ合う日、でしょうか。友情をテーマにした作品はとても多いけれど

そのものズバリ『 友情 』、『 走れ メロス 』などはもう古典ともいえますが・・・


やはり、一番に挙げたいのが この作品かなあ・・・・・



はい 今日の 読書は 『 さ ぶ 』  著者:山本 周五郎

新潮社  新潮文庫



著者は 山本 周五郎(1903〜1967)

このペンネームは、山本氏が小学校を卒業してすぐに丁稚奉公で住み込んだ

質屋のオーナーの氏名です。 文芸趣味があった方で、夜学に通わせてくれたり

山本氏が作家として自立するまで 物心両面に渡り支援してくれた方とか・・・


作家デビューは 昭和元年。その後、昭和18年に 『 日 本 婦 道 記 』

直 木 賞 に選ばれますが 辞 退

その後も、一切の 賞を辞退しています。


「 貰ってやる 」とは言わなかった方ですね ww



本人的には、読者に読んでもらうのが何よりの賞である、とエッセイにも

ありますので、これが本音ではなかったかと思います。



いわゆる 文壇政治とは一線を引いて、生 涯 ス ト イ ッ ク な 姿 勢 を 貫 い た 作家でした。


代表作として、よく知られているのが『 樅の木は残った 』 『 赤ひげ診療譚 』

『 柳橋物語 』そして今日の『 さ ぶ 』など多数・・・



さて、山本周五郎全作品は、私のオールタイムベストに入ります。


大好きな作家の一人なのですが、最近の若い方々にとっては「昔の人」

というイメージがあるかもしれません。



氏の名前を冠した「 山 本 周 五 郎 賞 」(新潮社主催)がありますから、

そちらでピンと来る方も多いかもしれませんね。


最近では、伊坂幸太郎・恩田陸・道尾秀介諸氏が受賞されているかな?

宮部みゆき氏も『火車』で受賞されています。


実力のある 中堅作家の 優れた作品に与えられる賞・・という趣がありますね。

山本周五郎の作品イメージに近い感じがします。

直木賞よりも、こちらの 受賞作品の方が 遥かに面白いんですけど ww



いや、それはともかくとして・・・・・



山本周五郎の 作品自体は古びてはいません。時代小説が好きな

方であるならば、抵抗なく惹き込まれていくのではないかしら?


司馬遼太郎のように、歴史上のヒーローが主人公ではなく 名も無いような

普通の庶民 が主人公になっている作品が殆どです




この『 さぶ 』も・・・・・



小雨が 靄のようにけぶる夕方、両国橋をさぶが泣きながら渡っていた。

(冒頭の一行抜粋)


その後を追い、いたわり慰めるのは栄二。


江戸下町の経師屋・芳古堂に住み込んでいる二人は同い年の職人です。

ハンサムで器用で「痩せたすばしっこそうな身体つきで、おもなが顔の

濃い眉と、小さなひき緊った唇
」の、見るからに賢そうな栄二。


それに比べて、さぶは・・・・・


ずんぐりした身体つきに、顔もまるく、頭が尖っていた」とあるけれど

う〜ん・・・まあ、見るからに ドンくさそうな感じなんでしょうね。



さぶは、ヘマをして自分の不器用さ・才能の無さを嘆き、もう田舎に

帰るしかないと衝動的にお店を飛び出してしまったのですが・・・


さぶに追いついた栄二は、自分自身の恥ずかしい打ち明け話をして、

さぶを励まし、「これからは何でもおれに相談してくれ」だから一緒に

帰ろう、とさぶを連れ帰ります。



二人はこのとき15歳、どちらがリーダーシップを取っているかは分かりますよね。

そんな彼らに傘を差しかけてくれた少女・・・・・



『 さぶ 』のプロローグ的に語られる場面です。



この作品は『 さぶ 』というタイトルが付けられていますが、実は

実質的な 主人公は栄二の方で、彼を軸としたストーリィになっています。



そうして、二人が23歳になったとき、職人としての腕の差は歴然としてきます。


いつまでたっても、下っ端の糊溶き仕事しかできない、さぶ・・・

難しい屏風の仕事も与えられるようになった栄二。



二人の夢は、いつか栄二が独立して店を持ち、そこでさぶが働くこと。

栄二の腕と才覚があれば、決して難しい事ではなかったのですが・・・




しかし、栄二は大きな挫折を味わうことになります。




女性にモテモテであった事も災いしたのかもしれませんが、取引先の大店へ

出仕事へ行った時、貴重な布( 古金襴 )が紛失して、栄二が疑われてしまいます。

栄二の道具袋の中にその布があったからですが・・・・・



全く身に覚えのない濡れ衣を着せられ 仕事もはずされて、どうしても納得がいかない

栄二は 直接そのお店に行ってわけを聞きたいと 談判するのですが、

因縁をつけに来たのかと思われ、暴力沙汰に及んでしまいます・・・



挙句の果てには、石川島の人足寄場に送られるはめに・・・



( 人足寄場:犯罪を犯した事の無い無宿人・軽犯罪の無宿人などを収容して

古紙再生・炭団製造その他の肉体労働に従事させた所

火付盗賊改 長谷川平蔵が創設の業務に当る )



ついに底辺まで落ちたと やけになる栄二、自分は無実なのに 何故こんな目に

合わなければならないのかと復讐の思いをたぎらせ、訪ねて来てくれる

さぶや おすえ、行きつけの飲み屋の おのぶにまで冷たく当ります・・・



正義感が強く、真っ直ぐであるだけに、自分を陥れた人間が許せない!



悔しい、怒り、絶望、そして心を閉ざしてしまう・・けれども、逆に

その気持ちがさらに栄二自身を追い詰めてゆくのです。

マイナスの無限ループに嵌まり込んでいくというか・・・・・



しかし、この寄場で様々な人間と触れあい、トラブルに立ち向かう事により

栄二は人間的に大きく成長します。寄場の中の 人間模様は 非常に興味深く

読めました。 読者を飽きさせずに 物語世界に誘い込む 周五郎の上手さに

感服したものです。



そうして後半は、さぶの栄二に対する愚直な程の献身的な好意が

クローズアップされます。


栄二に思いを寄せている(でも報われない)おのぶは栄二に訴えかけるのですが

まさに、この作品中の 白 眉 たる部分であり、著 者 の 強 烈 な メッセージ でもあります。




世の中には生まれつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、

けれどもねえ、そういう生まれつきの能を持っている人間でも、

自分ひとりだけじゃあなんにもできやしない、能のある一人の人間が、

その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、眼に見えない

力をかしているんだよ


(中略)

世間からあにいとか親方とかって、人にたてられていく者には、みんな

さぶちゃんのような人が幾人か付いているわ、ほんとよ、栄さん


(中略)

それにしても、世間にたてられ、うやまわれていく者には、陰にみな

さぶのような人間が付いている、というおのぶの 言葉は痛かった。


(一部抜粋)



そう、“ さぶ ”は 人生のサブ的な人間・・・決して 上 に 立 つ 人 材 で は な い けれど

ト ッ プ に 立 つ 人 間 を 支 え る 貴重な 貴重な存在でもあるのです。



この物語の主人公は栄二ではありますが、作品タイトルを『 さ ぶ 』と

した理由が これではないでしょうか?



金蘭の古布を栄二の道具箱の中に隠した人間は、終末近くで判明しますが


敢えて 栄二はもうその人間を責めませんから・・・




この作品のみならず、山本周五郎作品の特徴としていえるのは

脇 役 を 描 く 事 の 上 手 さ があります。


一人ひとりが個性を持って「生きている人間」として描かれています。


この『 さぶ 』は 若い頃読んだときには、何気に 読み飛ばしてしまった部分

などもありますが、今 読み直すと改めて感じ入るところもかなりありました。



例えば、栄二に対して理解を示す 寄場役人の 岡安の言葉などは深いものがあります。



「いま、この」と岡安は窓のほうへ手を振りながら云った。

「-----風に花の香が匂っているが、おまえにわかるか」


(中略)

「私はおまえのことを詳しく知っているのだ」岡安はやわらかな口ぶりで云った、

「-----おまえが怒るのは尤もだ、綿文のやりかたも悪いし、目明しの

扱いかたもよくない、芳古堂にもほかにもう少し考えようがあったろうと思う、

それは慥にそのとおりだが、ここでひとつ運と不運ということを考えてみよう」


(中略)

「おまえは気がつかなくとも」と岡安はひと息ついて云った、

「この爽やかな風には もくせいの香が匂っている、心をしずめて

息を吸えば、おまえにもその花の香が匂うだろう

心をしずめて、自分の運不運をよく考えるんだな、

さぶや おすえという娘のいることを忘れるんじゃないぞ」


(一部抜粋)


さて、時代小説というスタイルは、現代の電気やネットや 携帯も無い時代が舞台です。

逆に、だからこそ 裸の人間そのものを 強烈に訴えることができるスタイルだと思うなぁ。




山本周五郎が、エッセイでこう語っていたのを読んだことがあります。

歴史を動かすような為政者のことよりも、お店で働いている丁稚が

ある時、どんな悲しい思いをしたのかを書きたい、と。



そんな想いで描かれた 山本周五郎 世界の事を ほんの少しでも知って頂ければ・・・


そう思って今日はこの作品を取り上げてみました。


さてと・・・今日はこれでお終い。

またね。



posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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