2013年04月15日

『 女 系 家 族 』を「 遺 言 の 日 」に読む  by 山崎 豊子



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こんにちは、また来て下さってありがとう。


4月15日は「 遺 言 」の日・・・。

近畿 弁護士会 連合会が「 ゆ(4)い(1)ご(5)ん 」の 語呂合せから制定したもの。


遺言・・・ 遺 言 状 ・・・。う〜ん、ミステリのテーマにありそうですね。

たった一通の遺言状から、残された人々の運命が大きく変わる面白さ。

海外ミステリの方が多そうですね。クリスティにも何作かありますし


日本の作品で 誰しも思いつくのが、映画化もされた『 犬神家の人々 』かな?

しかし・・・連続殺人事件は起らないけれども、一番面白い作品が・・・


アレですよ、そう、アレ・・・・・



はい、今日の読書は 『 女系家族 』 著者: 山崎 豊子

新潮社  新潮文庫 上・下巻 ↓ これは上巻のほうです





著者は 山崎豊子氏。もはや説明の要無しの堂々たる 国民的人気作家とも言えるかも?

1957年(昭和32年)、御自身の生家である大阪・船場の昆布屋をモデル

とした『 暖 簾 』で作家デビュー、


翌年に、吉本興業の 創業者・吉本せいをモデルにした『 花のれん 』で直木賞 受賞。

初期作品は、生家である大阪・船場を舞台とした作品が多かったのですが

1965年の『 白い巨塔 』以降は、社会派ともいうべき作品群を発表、代表作は

と問われても、迷うほどの力作を 発表し続けている人気・実力共に卓抜した

作家といえるでしょう。



『 華麗なる一族 』 『 不毛地帯 』 『 大地の子 』 『 二つの祖国 』 『 沈まぬ太陽 』

比較的最近では 『 運命の人 』・・・・・



おそらくは あなたも何作かお読みだと思うし、そうでなくとも映画化・

ドラマ化された力作も多いので (というか、映像化されない作品の方が少ない!)

御覧になったこともあるかもしれませんね。



さて、「遺言の日」にふさわしい『 女系家族 』です。


週刊文春で 昭和37年〜38年連載されたものです。東京オリンピック前の

昭和30年代 後半の大阪・船場の豪商一家の物語です。



もう何度も映画やドラマ化されているのですが、最近では 米倉涼子主演で

オンエアされたっけな?

友人がずっと録画していたのを見せてもらいましたが・・・


時代を現代に、舞台も大阪ではなく 東京の日本橋の老舗にリメイクしてあったので

かなり印象が違いました。役者さんでは“ 宇市 ”役の橋爪功が上手かったかな?


あの中では 一番難しい役柄だったし・・・但し、脚本に少々難があったか・・・

中盤ダレたし、舞台を 現代の東京に移したので、良い意味での原作の

泥臭い豪奢さがなくキレイになり過ぎたか・・・。

言葉が 大阪の 船場言葉でないのも 原作のニュアンスが変わった原因かもしれませんが。



いやいや、ドラマの話はともかくとして・・・・・



大阪・船場の格式を誇る老舗の当主が亡くなった後、残されたのは三姉妹。

船場の美貌の三姉妹・・といえば 大谷崎の『 細 雪 』を思い起こされる方も

いるかも?(あちらは四姉妹ですが) しかし、『 細雪 』が白細雪 もしくは

ライト細雪ならば、さしずめこの作品は、黒 い 細 雪 もしくは

ダ ー ク 細 雪 と言ってもいいかも www



まあ一言で 説明すれば キツネとタヌキの化かし合い なんですわ ww


そこに 色と欲がからんで、当主の死を心から悲しむ人間は約一名しかいない、と・・・



老舗の矢島家は代々跡継ぎ娘に 養子婿をとる 女系の家筋。

四代目嘉蔵が亡くなり、遺産相続人は戻りの総領娘・藤代、養子婿をとって

跡を継いだ次女・千寿、学校を卒業後は お稽古事に明け暮れる三女の雛子。


当主死後、親族会議の席で発表された 遺産相続に係る 遺言状が

思わぬ波紋を呼ぶ物語なのですが・・・・・



まず 発表された遺言状の中身は、財産を三姉妹に公平に分ける順当なものなのですが

長女の藤代は面白くありません。戦前のように総領娘たる自分が全て、

とまでは期待せずとも、かなり優遇されると期待があったから・・・


大きく分けると、藤代は不動産・千寿(と夫)は矢島商店の営業権を、

三女の雛子は株券と骨董が仕分けられていました。


各自言い分は有るにせよ、ほぼ妥当とも思える遺言なのですが、

実は 遺言状がもう一通ある と発表されます。



そちらは、姉妹のことではなく、自分には面倒を見ていた女性がいたので



まことに憚りながら、私儀の没後は、この女にも、何分のものを

相つかわされ度く、幾重にも願いあげ候。上記の女の 住所氏名は


(中略)

浜田文乃、三十二歳になる者に 御座候故、何卒(なにとぞ)、

よしなに お取計らい下され度く願 候


(一部抜粋)


う〜む、これは・・・要するに 愛人( お妾さんと呼ぶ方がふさわしいかも? )

がいたので、その彼女にも幾ばくかのお金をあげてね、お願い!

という意味なんですが・・・



ただでさえ、遺産相続で揉めそうなのに お妾さんの存在まで明らかにし

しかも、「何分のものを」あげて欲しい、宜しく取り計らってくれ、だと?



しかし、嘉蔵は妻に先立たれた身であり、再婚も許されない 養子婿の

立場なら 愛人の一人ぐらいいても許してやれば・・・とも思えますが

プライドの高い娘達には許しがたい事、ましてや公的な遺言状にまで

堂々とお妾さんの事まで書かれては、親戚への手前 恥としか思えない・・



しかも、このお妾さんが 妊娠中と発覚して 話がさらに 面 白 く いや、

矢島家的には 許しがたい状況になり・・・




さあ、ここから ドロドロとした 愛憎劇のはじまり、はじまり〜〜〜〜




この物語は 特定の主人公が一人ではなく、一種の群像劇になっています。


それぞれに、くっきりと個性が際立つ登場人物ばかりなのですが

しかし、中でもより強くスポットが当てられているのは長女の 藤 代 ・次女の 千 寿

母の妹で分家させられた 叔 母 、遺産執行人に指名された 大番頭の 宇 市 かもしれません。



あまり指摘されていないみたいだけど、上記の登場人物たちの

それぞれ心の中にある 共通した感情は “ 欲 ” ですが

実は、もっと掘り下げれば・・・心に “ 恨 み ” を抱えている・・・・・


その“ 恨み ”を晴らすためにも「もっと 金を!金を!金を!」となるのでしょうね。

もっとも、お金だけでは 彼らの根源的な 恨みは晴れないのですが・・・

で、さらに 強欲になる、のか www


また、彼らの共通点がもう1つあって・・・

それは 自分以外に誰も 愛してはいない事かな? 自分の事しか考えていない。



そういえば・・・・・


これは ある人物が 恨みを晴らす物語 ともいえるね。

この「ある人物」は実体を伴って登場するのは 最初だけですけど・・・

この作品をお読みになった方なら、ピンと来るでしょうし、未読の方

でも想像はつくと思います。



いずれにせよ、登場人物が どいつもこいつも悪い奴らばっかりですわ。

何とかして、自分が有利になるように、お互いに虚々実々の 駆け引き

始まります。



長女・藤代は 踊りの師匠である梅村と組み、次女・千寿は 夫と、

三女の雛子は 分家の叔母と・・・



そして 大番頭の宇市は、50年間矢島家に仕えた奉公の日々を思いながら

横領した金を、無事に自分のものにしようと画策しながら・・・・・


この 駆け引きの部分が本作中で 一番興味深く 面白い部分でした。



登場人物の中で、唯一まともなのは、お妾さんの 文 乃 ぐらいかしらん?

ひかえめで芯の強い、けれども愛情深い女性・・・

他の作家ならば、この女性を主人公にしたかもしれませんね。

(そういえば、ドラマ版では米倉涼子がこの文乃を演じていて、完全に主役でした。)



そうして、最初の遺言書が発表されてから約半年後・・・・・



文乃は 早産にも関わらず、無事に出産を済ませ、元気な男の子が産まれます。

お月見の席で、その報告を受けた藤代は・・・・・



なんで、そない慌てたり、気色ばんだりしてはるのでおます?

神ノ木が何時、子供を産もうと、それが男の子であろうと、お父さんの

子供である 証拠がない限り、私らと 無関係のことやおまへんか、

何処かの家で、犬の仔か、猫の仔が一匹生まれたのと同じようなことでおます



(一部抜粋)



いやいやいや・・・・・強烈なセリフですね↑ 

自分達の 腹違いの弟が産まれたのに、犬の仔か 猫の仔が 一匹 生まれたのと

同じようなこと
って・・・そこまで言うか?



そうして・・・いよいよ 最終的な 遺産の配分決定の 親族会議の 一日前の日に・・・


誰もが、自分が一番得をした!と思いつつ、表面上は渋々といった面持ちで

いたところ・・・・・・ここに文乃、あいさつに登場!!



まさしく、一 発 逆 転 ホ ー ム ラ ン ! とは この事でしょうか?


20代の頃、初めてこの作品を読んだ時には 本当に仰天したものです。

ちなみに、この法律は現在でも有効ですね。



この物語は・・・・・こう終わります。


二百年の 歴史を刻んだ 奥内の太い柱と壁に、藤代の声が 家鳴りのように

伝わり、やがて その声が吸い込まれるように消えたかと思うと、墓場の底から

けたけたと嘲り嗤う 矢島嘉蔵の声が聞え、四代を重ねた 女系家族に

終焉を告げ、男系家族の 楔を打ち込むような 凄じい響きが聞えて来るようであった。


(一部抜粋・終末部分)



この物語の 読後感は、登場人物の 誰に 感情移入するかで 変わってくるでしょう。

単純な 勧善懲悪の物語ではありませんから・・・・・



使用人並の扱いしか受けなかったムコ殿の 逆襲の物語、と読む人もいるかもしれません。

ホラー小説並みに怖い 現 代 の 怪 談 ・・・と感じる方も? 


文乃の 勝利の物語と読む方も?  どのようにも読めるでしょう、きっと。


あなたなら、どう読まれるかしらね・・・・・

さてと、今日はこれでお終い。

またね・・・。


posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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