2013年04月18日

「お香の日」に読む 『 伽 羅 の 香 』 by  宮尾 登美子


こんにちは、また来て下さってありがとう。


4月18日は「お香の日」になります。


日本書紀によると、「 推古天皇3年(595年)の4月に香木が漂着 」

とあるのですが、たまたま火の中にくべると 非常に芳しい香がしたので

朝廷に献上した とあり、これが香に関する日本最古の記述になります。


また、「 香 」という字を分解すると「 一十八 」になる事から、全国薫物

線香組合 協議会が18日に制定しました。


その後、本格的に香木が伝えられたのは奈良時代、仏教の伝来と共にで、

主に宗教的な儀式に使用されました。


平安時代には 宮中の貴族たちの 優雅で教養的な遊びとされ、やがて芸術

へと昇華して行きます。


「 香 道 」として体系化され 確立されたのは室町時代で、御家流・

志野流として 現代にまで受け継がれています。


また、「香道」に於いては、香を「 嗅ぐ 」のではなく「 聞 く 」と言うそうですが、

これもデリケートな表現ですね。鼻でクンクン嗅ぐのではなく

一瞬の香りを「 聞く 」とは・・・・・


そんな「香の日」にふさわしい作品としては、コレしかないよね。



はい、今日の 読書は『 伽 羅 の 香 』 著者:宮尾登美子  中公文庫



宮尾氏は『 櫂 』のデビュー前から、この作品の原型を書かれていたようですね。

香道を極め、衰退した香道を蘇らせた御家流・ 山 本 霞 月 宗 匠 をモデルに

した作品で、この方が 香道の中興の祖ともいえる方のようです。



大変に優雅な技芸ごとではありますが、私たちが日常的に接するは少ないかなあ?

私自身も、本の中でしか知りませんもの。大谷崎の未亡人である

谷崎松子夫人のエッセイで少し読んだ事がある程度です。


あと、よしながふみ原作の映画「大奥」で、大奥に入った主人公の男性が、

お中揩ニいう役職に出世したときに、源氏香の手ほどきを受けた

シーンを見た位かなあ・・・・・




さて、この物語の主人公・本庄葵は 明治27年、三重県の山林王の一人娘

として生まれました。

幸福で恵まれた少女時代を送り、かねてより好意を抱いていた従兄弟と結婚。


婿養子ではありますが、彼が銀行勤めであることから、東京に家を買って移り住みます。

温厚な知識人である義父にも可愛がられ、お習字やお茶を習う裕福で

恵まれた暮らしの中で二児にも恵まれます。


まるで絵に描いたような幸福な若奥様なのですが・・・・・

しかし、宮尾登美子氏の作品の主人公が このまま幸福な奥様で 終わるはずがない ww



夫の急逝、両親の死・・・悲嘆にくれる中で 葵は義父の薦めもあり、

香 道 を 極 め る 事 を 決 意 します。


師事したのはその道の大家であり、奈良・平安の頃の香木さえも

所持しているような方・・・

私たち読者は、葵と共に香道に関わることを学びます。問香、組香、源氏香・・・


しかし、何分にも“ 香 り ”ですから、どのようなものかは想像するしかありません。

単なるお作法・知識ならともかく、こういう 五感にまつわる感覚は

非常に 文字に表現しにくいのですが
・・・・・


それが目には見えぬ香りだとはわかっても、

最初に受けた軽やかさに美しいもののたなびく感じからは、

抜けきれず、ひいていえばかぐや姫が昇天するときの、

透きとおった裳裾が緩やかな風に波打っているその余香を

身に浴びているような思いにとらわれているのであった。


(一部抜粋)


これが葵と香との出会いを記した文章です。

しみじみと上手い表現だと感じ入ってしまいました。



さて、その時代、香道といえば・・・


此芸は香道とも称し、茶湯と並び行はれて香茶と云へりしが、今は茶湯を

好むものは多けれど、香道は大に衰へたり。


( 「 古事類苑 」遊戯考 [ 聞香 ]より一部抜粋 )


ちなみに古事類苑とは、明治政府により編纂が始められた一種の百科事典です。

もうこの時代には「 大 に 衰 へ た り 」状態であったわけですね。



元来が、貴族や支配階級の優雅な技芸でしたけれど、茶道や華道のように

一般庶民までには広まりませんでしたから。


こういう文化的なたしなみというか、遊芸事は上から下に伝わるものですが

香道に限っては、肝心の香木が希少なものでしたから。



香木は 大量生産できるものではありません。東南アジアの島々で採取される、

数千年前の埋もれ木-----つまり 化 石 に な る 一 歩 手 前 の も の ですから

限りある資源であり、よって非常に高価なものになります。


遊び方も、古典文学の教養が必須という面もありますし、誰でも気軽に

楽しめるものではなかったのでしょう。



この作品の主人公・葵も 山 林 地 主 と し て の 財 力 がバックにあったから

こそ、道を究めることができたのですから。



さて、葵のその後ですが 更なる不幸に襲われます。

頼りになる義父が亡くなり、娘までもが病死、一人息子は戦争から

辛うじて引き揚げてきたものの、やはり結核で死亡・・・



葵に残されたものは・・・もう、香道しかありません。



己の持てるもの全てをつぎ込んで、日本香道の復興のために尽くします。

そして・・・最後にはカリエスで倒れてしまいます。


同じ香道仲間で信頼していた友人たちは(葵の憧れた高貴な方々、ね)

あっさりと葵を 裏切り

葵が心血を注いで育て上げた 公家出身の男性をトップに祭り上げて

違う流派を作り、葵から離れて行きます・・・


傷心の葵は、東京の贅沢な家を、香に理解のある東長寺に寄附し、自分の

大枝流を弟子の辰枝に皆伝、香道具を与えて、これからは 一般庶民の為の

香道を 伝授してほしい
と頼み込みます。


そうして残された香木や 香炉を持って、最後の日々を過ごすために

故郷の三重に一人帰って行くのです・・・



決してハッピーエンドとは言えない終わり方なのですが、読了後は

不思議なことに 暗澹とした気分にはなりませんでした。

いや、むしろ清々しいとさえ思ったくらいです。



ひとつの道を究めた、宮尾作品では お馴染みのヒロインの生き様に

心を打たれたからでしょうか?



葵の理想とした 絢爛豪華な王朝絵巻の世界は かないませんでしたが、

結果としては、それでこそ香道が21世紀の今日まで連綿と続く原動力と

なったのだから・・・・・



宮尾氏は、この作品を書くに当り、御自身も香道を必死に習ったとのこと。

他の宮尾作品よりも静謐な感が強く、張り詰めた 緊張感が感じられたのは

氏の精進の賜物なのかもしれませんね。


私は香道は無理だと思うけれど、もっとお手軽なアロマテラピーなどは

どうかしら?・・・なあんて思ってしまいました。

さてと・・・今日はこれでお終いにしましょう。

またね。


posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。