2013年04月24日

「 日本ダービー記念日 」に 読む 『 優 駿 』 by   宮本 輝


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


4月24日は「日本ダービー記念日」です。


1932年( 昭和7年 )に、日本初のダービー( 東京優駿競争 )が開催された事を

記念して制定されました。「ダービー」とは、英国のダービー卿が始めた

4歳馬のナンバーワンを決めるレースが発祥となっています。



さて・・・最初にお断りしておきますが、私は 競馬の事は全く知りません

馬券を買った事はおろか、テレビ中継を見たこともないしね。



サラブレッドが美しい動物である事は認めるけれど、あんな細い脚で

よくまあ あれ程速く走れるもんだなぁ〜と思う程度ですから。

第一、ギャンブルそのものが好きじゃない・・・多分あなたもそうじゃないかな?



ただ、他のギャンブル、競輪にしても競艇にしても 選手だけが競技するのだけれど

競馬の場合は、人間(騎手)ブラス馬(競走馬)が一緒に勝負するので

また特別な面白さや複雑さ、そして難しさがあるかもしれません。



そう、今日は 競 走 馬 と 人 間 の 物 語 なんですよ。なので、この作品を・・・



はい、今日の 読書は 『 優 駿 』  by   宮本 輝



    版元:新潮社・新潮文庫

    上下巻  ← こちらは上巻

    著者:宮本輝

   発行年月:1989年11月




    

著者は 宮本輝氏です。1977年『 泥の河 』でデビュー、第13回太宰治賞を受賞。

翌年には『 螢 川 』で 芥川賞を受賞。以来、コンスタントに良作を発表している

人気作家ですよね。( その割には私は余り読んではいないのですが )



私の亡くなった親友が 宮本氏の大ファンでした。 親友であっても 好みは

異なるので、この『 優 駿 』なら あなたのお気に召すかも?と言って

貸してくれたのが読んだきっかけです。



その時は、あー、お馬さんの話?競馬って全然知らないし 読んでも 意味が

分からないかも・・・と思いつつ 読み始めたら・・・・・


面白かったんですよ、これが!


どの位面白かったかというと、読 み 終 わ る の が も っ た い な い 位 面白い・・・

といえばお分かり頂けるかしら? 彼女に借りたのは、全集の7巻目で

600ページ以上もある分厚い本でしたが、読みながら残りの厚さを見て


「あー、あと少ししか残っていない・・残念・・もっと読みたいのに〜」

と思った程でした。


競馬の、ギャンブルとして馬券を買う人の視点ではなくて、生産者や馬主

そして、競技に係わる 調教師や 騎手の物語であったからこそ私の好みに合ったのでしょうか。


そのまま借り続けて、彼女の死後は娘さんから「そのまま貰ってやって下さい」

と言ってもらえたので、この本は今も私の手元に残されています。

文字通り、親友の形見になった本なんですよ。



しかも、登場する主人公( なのか? )の馬の名前が オ ラ シ オ ン祈 り )!




この物語は、北海道のある 零細牧場の 厩舎で1頭の仔馬が生まれたところから始まります。


登場人物は非常に多く、主役・脇役というよりは、登場人物すべてが

主役といっても問題ないほど、さまざまなドラマを持ち、彼らの背景や

個性がしっかりと 描き込まれています。



そうして、章ごとに 登場人物の視点が変わって行きます・・・・・


牧場主の息子・渡海博正 →→ 馬主・和具平八郎 →→ 馬主の18歳の娘・和具久美子

→→ 馬主の秘書・多田 →→ 騎手・奈良五郎など・・・・・



みなそれぞれに馬に夢を賭けています。そうした沢山の夢が絡み合って

ストーリィが進行してゆくのですが、この物語の核となるのは常にオラシオンです。


実際に登場するシーンは決して多くは無いのですが、登場人物の心の中

に常にいるので 抜群の存在感です!



また、私の全く知らない競走馬の世界・・・実際にレースに出る前の馬たちに

係わる人々の物語や調教・厩舎の世界、馬と乗り手の問題など、綺麗事では

済まないドロドロした事情も多々ある事を知りました。



実力だけではどうにもならない“ お と な の 事 情 ”・・・・・



例えば、騎手の奈良。 自分と相性の良い乗り慣れた馬であっても、重賞の

ここ一番のときに ライバルに譲らなければならなくなります。



哀しさや悔しさから、ふと魔がさしてわざと間違った馬の扱い方を教えた

結果・・・ 転倒して 騎手も馬も両方とも死んでしまう結果を招いたりもします。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

このままで住むはずがない。そんな気がした。いつの日か必ず、寺尾と

同じ死に方をしそうな予感がした。きっと俺は、馬から落ちて死ぬだろう。

(中略)

奈良は誰かに助けてもらいたかった。と同時に、寺尾と同じようにして

死ぬことを望んだ。(中略)

日本一のジョッキーになってみせる。すべてのレースを死ぬつもりで乗るのだ。

そしたら、日本一のジョッキーになれるかもしれない。そして、競馬場の

ターフの上で死ねる。(中略)

そうすることで、奈良は自分の罪をあがなおうと決めたのである。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


この 騎手の奈良は、物語の中核をなす登場人物ではありませんが、とても

印象的な脇役でした。 最後には、オラシオンに騎乗してダービーの勝利馬に

導く人物でもあります。そんな奈良の先生ともいえる調教師の砂田も

馬を知り尽くしたような人物で、オラシオンの調教を手がけます。



メインの主人公は、馬主の和具と娘の久美子、牧場主の息子渡海なのですが、

和具には かつて関係した女性との間に息子が一人いて、重い腎臓疾患を抱えていて・・・


とにかく、登場人物全てに抱えた物語があり、それが幾重にも絡み合い

物語のクライマックスへと進行して行きます。



一冊の物語ですが、読了後は、何 冊 も の 物 語 を 読 ん だ よ う な 満 足 感

ありました。

しかも、最後まで見事に 破綻なく進んで行きます。

この『 優 駿 』は 宮本氏の小説の上手さを充分に堪能できた一冊といって良いと思う。



また、、この作品を読んで 初めて知ったサラブレッドにまつわる物語は

非常に興味深いものばかりでした。


牧場主の息子・博正が愛読している「名馬 風の王」という童話・・・


ある新月の晩に アラビアに生まれた仔馬が、数奇な運命の果てに英国に

渡り、雇われたお屋敷の英国馬と偶然に交配してしまいます。そうして

産まれた仔馬が 英国一速く走る競走馬に成長し、サラブレッドの始祖と

もなったという・・・そのアラビア生まれの馬と一生を共にした少年の

物語です。 マーゲライト・ヘンリーによってまとめられ、

宮本氏はこの童話を読んで『 優駿 』を書こうと思い立ったそうです。



いや・・・実は それだけではありません。



宮本氏は子どもの頃、お父さまと一緒によく競馬場に足を運んだそうです。

そして、一瞬のひらめきでお父さまが選んだ馬と、8歳位の宮本氏が選んだ

馬とを組み合わせて馬券を買う事が多かったとか・・・

結果はともかくとして、ね www



そして、芥川賞を受賞した夜に、氏は亡くなったお父さまの事を思い出します。

息を引き取る前に「お前に期待をかけ過ぎて悪かった」と氏に詫びたという

お父さまの事を・・・・・


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父が生きていたら、どんなに歓んでくれただろうかと思ったからでした。

そして、父と一緒によく競馬場へ行ったことを思い出した瞬間、私は、

いつの日か、一頭のサラブレッドを主人公にした小説を書こうと決めたのです。

父の言葉とサラブレッドとが、どこでどう結びついたのか、私には、

いまでもよくわからないでいます。

その日から約八年後に、私は「優駿」を書き終えました。(中略)

私はこの『優駿』を、父に捧げたいと思います。


★━━━━━━━【 宮本輝全集第7巻より一部抜粋 】━━━━━━━━━★


そうか・・・『 優駿 』は宮本氏にとっても「祈り」の結実した作品なのね。



この作品は単なる競馬小説ではありません。 登 場 人 物 の 夢 と 祈 り が一頭の

サラブレッドに託された 美 し い 物 語 です。



競馬に関して 無知で何の予備知識が無い私でも、充分に楽しめました。



もし、あなたが未読であれば、そして機会があれば、ぜひとも読んでみて

ほしいなあ・・・そして、読み終わった後の夜・・・あなたは疾走する美しい

サラブレッドの夢を見るかもしれませんよ?



実は、私がそうだったんですよ ww



さてと・・・今日はこれでお終いです。

またね。


posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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