こんにちは、いつも来て下さってありがとう。
「母の日」は 毎年5月の第2日曜日ですから、今年は5月12日です。
「 母 」をテーマにした 文学作品は非常に多く、私が真っ先に思い出すのは
大谷崎の『 母を恋ふる記 』そして『 少将滋幹の母 』をはじめとして 他にも数多くありますが・・・
一般的に「母」の 最大公約数的なイメージは こんな感じではありませんか?
突然ですが、俳句です。
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母の日の てのひらの味 塩むすび by 鷹羽狩行
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俳句に興味の無い方でも、この句の意味は 理屈抜き・説明抜きでよく分かりますよね。
「おふくろ」というイメージそのままの素直な佳句です。
「母」をテーマにした作品は、母 親 へ の 愛 を描いたものが多いのですが、
最近の「母もの作品」は そうとばかりはいえないものも ww・・・例えば↓
はい 今日の 読書は 『 母のはなし 』 by 群 ようこ

母のはなし
著者:群ようこ
出版社:集英社
サイズ: 単行本 216ページ
著者の群ようこ氏については3月28日に少々触れましたが、本日は“ 私 小 説 ”
ジャンルの作品を・・・
私的には、群氏はフィクション(小説)よりもエッセイやノンフィクションの
資質の方 だと感じているので、小説は余り読んではいません。
けれども、こういう作品は別です。 エッセイでお馴染みのお母様が主人公ですもの。
作品中に登場する長女の「アカネ」は、そのまま群氏と考えて良いでしょう。
始まりはヒロイン・ハルエさんの娘時代から。
明るい家庭に育ち、学校を出てからは公務員としてお勤め。
父親の死後に縁談がまとまって 東京での結婚生活がスタートします。
この作品は、『母のはなし』というタイトルではありますが、前半は「 両 親 の 話 」
といったほうが良いでしょう。
ただ、主人公は「ハルエさん」なので、お母様の目を通したお父様の姿 になるのですが・・・
これまで群氏のエッセイについては、『 無 印 良 女 』 『 別 人 群 ようこのできるまで 』や
『 トラちゃん 』を始めとして お母様や弟さん、特にお母様はエッセイでも
頻繁に登場した方ですので、読者的には 他人とは思えないほど親しみを感じる方です。
ただ、よく分からなかったのが お 父 様 のこと。余り登場されていないし、取り上げ
られた時も、決して好意的な書き方ではなかったので・・・
しかし、悪意や憎しみ、恨みをもって書かれているわけでもない・・・
まるで 赤 の 他 人 を見るように 突き放した書き方ではないかと、読みながら??と
思うことも結構あったので。
ご両親は 群氏が大学入学時に 離婚されたのですが、そのときの様子も
非常にあっさりと「バイバイ」という感じでサヨナラした・・・と表現されていました。
群氏は ベタベタした愛情関係をよしとするタイプではないと思うのですが
それにしても、いったいどんな 夫婦・親子関係なのかと 不思議には思っていました。
さて、ハルエさんの新婚生活がスタートしたのは 昭 和 30 年 代 の 前 半 ですから、
日本が まだまだ貧しかった頃。
若い二人が 間借り暮らしから 生活を始めても別に不思議ではないのですが、
ハルエさんにとっては、初めての結婚生活とはいえ、いろいろと不可解な事が多くて・・・
夫のタケシは、今で言うグラフィックデザイナー、もしくはイラストレイター。
家で仕事をするのですが、ハルエには一切の自由もないし、デザイナーだけあって
作った食事の オカズと食器の取り合わせ・色彩効果などに非常に口やかましく言われ、
相当閉口したようですね。
また、家計は任せられず、まず自分の欲しい物が一番であり、生活費は催促され
てシブシブを出すという感じ・・・
結婚して初めて何気なく!言われたことが「以前にも結婚した事がある」って・・・
うーん、それはちょっと・・・???
一番驚いたのは、ハルエさんが 妊娠を告げたときの第一声でした。
「 で ・・・ 誰 の 子 だ ? 」
はあ〜〜? 誰の子だって・・・アンタの子でしょうが! 身に覚えあるんでしょ?
読みながら、思わずツッコミを入れてしまった程です。
さすがのハルエもショックを受けて 泣きじゃくり、タケシのお母様に訴えて
叱ってもらったそうですが・・・
そのとき以来、生まれた子どもが二十歳になったら離婚しようと心に決めたハルエさん・・・。
長女・アカネ、長男・ヒロシが誕生しても 父親らしい自覚も生まれず、
自分のやりたい事をするだけ。
群氏の子ども時代のエッセイを読んでも、転勤の多いサラリーマンでもないのに
頻繁に引っ越しをしているのでどうしてかな、と思っていたのですが、
要するに お父様の 仕 事の 金 回 り 次 第 だったようですね。
まず、自分が欲しいものが全てに優先するタイプといおうか・・・
二人の子どもを抱えて、苦しい家計を補う為に 働きに出るハルエさん。
子ども達も成長するにつれ、父親を批判の目で見るようになり、タケシの存在が
益々疎ましくなっていきます。
悪い意味で徹底した個人主義者だったみたいで、アカネが大学に入学した時にも
入学金として用意したお金で カメラのレンズを買ってしまったり・・・
まあ、はっきり言えば「 結 婚 生 活 に は 向 か な い タ イ プ 」だったのでしょうね。
友人として交際すれば 良い面もきっと有るのでしょうが、「 夫 」としては いかがなものか?
というタイプの男性だったのでしょう。
離婚以来、群氏のエッセイでも お父様の消息の事は一切書かれていませんし、
私は そこに 群 氏 の 強 烈 な 意 志 を感じます。
さて、離婚してからもハルエさんの奮闘は続きます。 賄婦などをして調理師の
免許を取ったりして、苦しくとも精神的には楽になったのではないでしょうか。
そうして、アカネこと 群氏の作家デビュー。
きっかけは3月30日にも少し触れましたが、勤務していた「本の雑誌社」から
『 午 前 零 時 の 玄 米 パ ン 』を刊行、以後は順調に作家・エッセイストとしての
キャリアを積み上げていったのは、あなたも御存知の通りです。
これまでの ハルエさんの苦労も報われて、良かった良かった、めでたしめでたし・・・
・・・のはずと思いきや、今度は ア カ ネ の 苦 労 が始まります ww
それは 、ズバリ「 お ね だ り 」。 「 お姉ちゃん、あれが欲しい これが欲しい 」・・・
1998年に出版された 群氏と西原理恵子氏との対談集 『 鳥 頭 対 談 』 で、お母様の
浪費癖の事を 愚痴っておられましたが、私は、多少の無駄遣いも好いのではな
いかと思っていました。
子どもが完全に独立した後、母親が、残りの人生を 美味しいものを食べたり
好きな洋服や着物を買ったり、たまに海外旅行に行ったりして余生を楽しく過ごす。
・・・いいんじゃない?
これまで苦労したのだし、群氏も普通のOL以上の収入はあると思うので、
多少の援助をしてあげても良いのでは?と思っていたのですが、甘かった ww
「 多 少 」の援助どころか、月々の結構な仕送り額にプラスしての「おねだり」は
エスカレートして行く一方でして・・・まるで「ショッピングの女王」状態 ww
また、年とともに、これまでは 働いて社会生活の中で抑えられていた 自慢癖や
自我の強さが剥き出しになり、アカネを閉口させます。
ついには、 家 を 建 て た い と言い出して・・・それでも断らずに 殆どお金を負担して
「これで最後にして!」 と母と弟の為に頑張ったアカネ。
・・・しかも、出来上がった家には、 ア カ ネ の た め の 部 屋 も な い という
笑えないオチまでついていました ww
そうして最後には病気で倒れてしまうのですが・・・持ち直したものの、
年齢的なこともあり、記憶がかなり混乱しているようです。
それでも、リハビリの末に 退院も出来て相変わらず元気なハルエさん・・・・・
読者としては 笑っていいのか悪いのか、 や や 複 雑 な 気 持 ち になった一冊でした。
「いいかげんにしろ!」という群氏の怒りも感じさせられましたが、それでも
根 底 に あ る の は お 母 様 へ の 愛 情 ですね。
かなり突き放して 書かれてはいますが、見捨ててはいない。
群氏のお母様には 失礼な表現かもしれませんが、夫には恵まれなかった代わりに
娘に恵まれたのではないでしょうか。
それとも、「娘」というよりも「 息 子 」の よ う な 立 場 だったのでしょうか?
いやいや・・・「娘」や「息子」を超えて、与えられなかった 「 良 き 夫 」と し て の 役 割
を果たしたのではないかと・・・・・
もちろん、もうお年ですから、回復してもいずれは・・・と思われますが、
人生をトータルすると 幸福な生涯ではなかったかと思います。
そんな「母」の物語・・・やっぱり根底は愛情だったかな?
それでは、今日はこの辺で・・・またね。
