2013年05月05日

「 こどもの日 」に読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第三部 裁判   by  宮部 みゆき


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


「こどもの日」に 読む 『 ソロモンの偽証 』 今回が 最終回の 第 三 部 です。

今日は 少々長くなりますよ ^^;



まず初めに 『 ソロモンの偽証 』というタイトルですが・・・

「ソロモン」は古代イスラエル王国の「ソ ロ モ ン 王 」でしょうね。 同国を最盛期に

繁栄させた名君と言われて、人並み優れた知恵者として知られています。



一人の子どもを取り合う 二人の女を、どちらが本当の母親か?という問題で賢明

な判断を下した「 ソ ロ モ ン の 名 裁 き 」は有名。

大岡越前守忠相の「大岡裁き」の元ネタとして御存知の方も多いと思うな。

知者ソロモンの裁き by ギュスターヴ・ドレ.jpg

     「知者ソロモンの裁き」

      by ポール・ギュスターヴ・ドレ 
 

      19世紀フランスの画家&イラストレータです。


       画像引用元:wikipedia



この作品の山場になっている「 学校内裁判 」については、「 中学生が こんな事を出来るのか?」

「 これほど頭の良い中学生がいるのか? 」というレビューを 多々見受けましたが

全然不思議には思いません。


だって・・・自分の中学生時代を思い起こせば、これ位の頭の良い子・リーダーシップ

の取れる子は幾らでもいたような・・・?


幸いにして、ここまでの悲劇的な事件が起らなかったし、裁判という形式は考え付かなかったと

思うけど・・・・・でも、 子 ど も を 甘 く 見 て は い け な い と思うな。




宮部氏が「 小説新潮 」で第一部の連載を 開始したのは 2 0 0 2 年 10月号であり、

この第三部が 終了したのは 2 0 1 1 年 の11月号。



ほぼ 10年の月日をかけて 完成させているわけですが、連載スタート時の2002年

といえば 「 神 戸 連 続 児 童 殺 傷 事 件 」の記憶がまだ生々しい時ではなかったかしら?

「 中学生・14歳の犯罪 」というのが、やたらと世間を騒がせていた時代だった・・・



それだけではありません。 作品の 仕上げくらいの時期に起った「 大 津 い じ め 事 件

宮部氏は 「いじめはあった」と証言した同級生達に 敬意を覚えた、と語っています。

自分達は見ていた、本当のことが知りたいと 勇気を持って声に出した子ども達の

声を聞いて 作り話ではない、と感じたそうです



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子供だろうが未成年だろうが、一方的な暴力にさらされた者には、自分が被害に

あったことを訴える権利がある。 どういう事情で何が起ったのか、本人がまわり

に知ってほしいと望むならば、それを阻むことは、誰にも許されてはならない。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

↑作者自身の声が そのまま響いてくるようなフレーズも第三部にはありました。




「子ども」だからといって、無条件に無邪気で善であるとは限らない。

「子ども」だからといって、無力でオトナの言いなりになっているわけではない。

そしてまた、身勝手なオトナに振り回される子ども=善=弱者 という単純な図式でもない。



けれども・・・「 子 ど も 」だ か ら こ そ 可 能 な こ と だってあるはず・・・・・



基本的に 宮部氏は「人間を信じる」タイプの作家であり、「 性善説 」を信じたい

( 信じる、ではなく あくまでも「信じたい」、ね )

タイプではないかと思うのですが・・・だからこそ、ミステリとして余りにも

残虐・陰惨な事件を書き続けるのは 苦痛になったのではないか・・・と?



だからこそ、こういう形の物語を 世に問うたのではないかと考えるのです。

ケストナーが、オトナではなく 子どもたちに 未 来 の 希 望 を 託 し た ように・・・・・

子どもたちの 魂 の 成 長 物 語 として。



子どもたちの「学校内裁判」のきっかけは「 真実が知りたい! 」という気持ち。

それを敢えて「 法廷 」という裁きの場を テーマにしたのは凄い・・・

物語的には「 少年たちの 探偵物語 」という従来通りのパターンであっても差し支えはなかったのに。



けれども・・・少数の自分たちの 閉鎖空間だけで真実を明らかにするのではなく

もっとオープンな形で 皆で共有する形で 真実を明らかにしたかったのでしょうか



学校に代表されるオトナ達は 真実を語ろうとしない、何も無かった事にしてしまいたがる。

ならば・・・自分たちで真実を明らかにするしかない。



そして、警察の介入もありません。第一部の卓也の自殺直後ぐらいです。

大出家の放火事件は 卓也の自殺とは全く関係のない オトナの事情の結果なので。

ただし、この物語の舞台となった時代( 1990年〜1991年、つまりバブル景気最後

の年〜バブル崩壊の年
)を考えると よく分かる事件でした。



また、こういう形式の模擬裁判については・・・大学の法学部では結構取り入れ

ている所も多いですよ。

例えば・・・・

東北大学模擬裁判.jpg

↑東北大学の模擬裁判 毎年テーマを決めて “ 公 演 ”しています。

( 画像引用:東北大学模擬裁判実行委員会 )


秋田大学ゲーミングシミュレーション授業2.jpg

↑こちらは秋田大学のゲーミングシミュレーション

( 画像引用:秋田大学のゲーミングシミュレーション授業 )

さすがに大学生ともなると ぐっと本格的になりますね。


さらに、最近では法務省から 裁判員制度をシミュレーションさせるための 教育用資料

も配布されています。但しこれは教師向け資料としてですが。




『 ソロモンの偽証 』では、中学生ですから もう少し簡略化されています。

あくまでも子どもたちによる 夏休みの課外活動としての模擬裁判だから。



重要な事は・・・こ の 裁 判 は「 勝 ち 負 け 」を 争 う も の で は あ り ま せ ん

裁判を通して 真 実 を 明 ら か に し て ゆ く ことが目的なのだから。


そんな裁判にリアリティを持たせる為には・・・前の 2巻分は 必要だったのかもしれません。

物語が少しずつ熱を持って進んで行き、裁判という形で決着がつけられる・・・

ワンステップずつ 証言を積み上げて行ってこそ 真実が見えてくる・・・



多くの登場人物を 各々の視点で語らせて、個性を浮かび上がらせ、からみ合わせて

物語を進行させる 宮部氏の技( わざ )には大いに感嘆しました。


     『ソロモンの偽証』

    第三部 法廷

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本722ページ


いよいよ「学校内裁判」が始まりました。裁判当日から 20日の閉廷の日までを

丸々1冊をこの裁判に費やして描かれています。

全3巻の作品の内、前の2巻がこの「裁判」の為の序章であったわけですね。



議論の応酬が続きます。

子どもたちは皆、おかしいほど 役割に忠実に「 演 じ て 」います。

一種のロールプレイング劇のように。

与えられた肩書きに忠実に。 判事は判事の、検事は検事の、廷吏は廷吏の・・・



これ、別に不思議な事ではないのですよ。

人間は 与えられた役割どおりの 人間に なっていきがちだから・・・

もちろん子どもたちであっても、ね。


初めの内は、読者的には これまでの巻で子ども達が知った事が改めて出てくるわけですから

特に目新しい事実はありませんでした。 後半になってから、それまで話の中にしか

登場しなかった人物・・・イブの夜、大手家を訪れた来客( 大出の父と共に逮捕 )

の関係者が 証人として登場し、大出の ア リ バ イ を 証 言 します。



大出としては 身の潔白を証明できたのですが、別の側面からは 改めて自身の行動を

突きつけられる結果ともなりました
。 それも自身の 弁護人から!



そして弁護人は・・・弁護人ではありますが、最終的には 別 の 役 割 に シ フ ト します。

カンの良いあなたなら、もう気付いていると思うけれど・・・



また 既読の方であるならば、自殺した卓也と背格好が似ている、雰囲気が似ている、

と何度か 描写が出て来ましたので ミスリードされる事もなく「 も し か し て ・・・? 」

と想像されていたかもしれません。



公衆電話から 何度も柏木家に電話をかけた謎の少年とは・・・物語の序章に

登場した人物が証言します。



第二部で、涼子の父親に 「 責 任 が あ る か ら 」とも述べていますから、単なる友人

なら、そこまで言うか? これは何かあるな・・・と 。

その意味では 作者はフェアでしたから。 その分 衝撃性は少ないかもしれません。




敢えて言ってしまいますが、この作品のミステリとしての 単純な結末は



名 探 偵 = 友 人 = 弁 護 人 = 証 人 = ( あ る 意 味 で )犯 人


↑↑こうなります↑↑




『 シンデレラの罠 』 ( by セバスチャン・ジャプリン)という古典ミステリを

思い出してしまいました。 実は、この作品の有名なキャッチフレーズが・・・・・


「 私は事件の 探 偵 であり、証 人 であり、被 害 者 であり、

そのうえ 犯 人 でもある。いったい私とは 何 者 か ? 」・・・なんですけれどね ww




しかし、犯人といってしまうのは 言い過ぎなので、敢えて 擬 似 犯 人 という表現に

しましょうね。 少なくとも、彼の「自白」には客観的な証拠・第三者の証言はありませんから



けれども、これでお終いではありません。 最後の最後に 地味などんでん返しがあります。

仕掛けたのは 野 田 健 一 ・・・

それ程のページ数も無いのに、見事な弁護をしました。




そうして、陪審員たちが出した結論とは・・・・・




・・・・・この物語を終始リードしたのは 主人公の涼子ですが、もう一人・副主人公

として活躍したのが 野田健一。



第一部では、彼自身が リ ア ル な 殺 人 者 になる 一歩手前まで行ってしまいました。

そして引き返して来れた。そんな彼だからこそ、「弁護人」の神原和彦に、自分と

同じような匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれませんね。




物語の最終章で・・・20年後、野田健一は 教師として母校に赴任してきます。

自分たちのひと夏の「 学校内裁判 」が伝説となった懐かしい母校に・・・・・



子どもたちの魂の成長文学としての『 ソロモンの偽証 』はこれで終わりますが、

成長したのは野田健一だけではありません。



例えば、脇役として登場した(涼子には少々軽んじられていた) 倉 田 ま り 子 ・・・

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あたし、どんな大人になってもいいから、大した大人にはなれないだろうけど、

それでも、あんな真っ暗な目をした 幽霊もどきにだけは なりたくない。

それが 倉田まり子の人生の目標だ。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★





そうして三宅樹里・・・検察側は 彼女の「偽証」を信じる所からスタート

せざるを得なかったのだけれど、彼女は、自分自身への独自の判決を下します

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

── 一昨日、ニュースでね、逮捕された垣内美奈絵って人の顔写真を見たとき、

気がついたのだ。こんな顔を知っている。どこかで見たことがあると思った。

── それ、誰の顔かわかったのよ。

あたしの顔だ。樹里は思った。垣内美奈絵は、あたしにそっくりなんだ。

あれは 嘘つきの顔だ。嘘をついて他人を傷つけ、自分も傷つく人間の顔だ。

そして何もかも取り返しがつかないと、絶望している人間の顔だ。

──それがあたしの判決だよ、藤野さん。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★

「 嘘 を つ い て 他 人 を 傷 つ け 、 自 分 も 傷 つ く 人 間 」 ・・・

大出のような 不良ではないけれど、心に抱える闇は 深かった樹里。

わたし自身は、ずっと痛ましいような思いで彼女を見つめてきましたが、彼女自身が

自分に下した「 判決 」には救いを感じることが出来ました。



最後に・・・・・


『 ソロモンの偽証 』は宮部みゆきという作家にしか書けなかった作品だと思う。

また後日、書き足す事もあるかもしれないけれど、長くなりすぎるので今日は

この辺にしておきましょう。



あっ、もう一つ最後に・・・・・


人 は 役 割 に 応 じ た 人 間 に な る 」という件ですが、

「 T H E W A V E ウェイヴ 」 という ドイツ映画を 御存知でしょうか?


高校を舞台として、生徒たちに 独裁&全体主義の恐怖を身を以て教える為の 心理実験が

皆あまりにも役割に忠実な余り、たった5日間で制御不能なまでに暴走してしまうという

実話を基にしたサスペンス映画。


( 悪い意味で )役割を演じていたら本 物になってしまった恐怖を 描いた佳作でした。 

桐野 夏生が『 ソロモンの偽証 』を手がけたら こんな感じの作品になってしまうのではないかと www


トレイラーを貼っておきますので興味のある方はどうぞ(1分34秒)




posted by cat-of-many-tales at 04:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「こどもの日」に 読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第二部 決 意  by  宮部 みゆき


こんにちは、また来て下さってありがとう。


前回&前々回に引き続き、「 こどもの日 」に読む 『 ソロモンの偽証 』です。

第一部では 主要登場人物のバックグラウンド&キャラクタ、そして 事件が立て続けに起りました。



主人公は・・・藤 野 涼 子 と考えて良いでしょうね。


自殺した柏木卓也の同級生でクラス委員。 優等生タイプの 美人ではありますが

気取ったお高いタイプではありません。 勝気な気性の持ち主です。

両親と妹が二人いて、父親の職業は 警視庁に 奉職する刑事



この涼子のキャラなんですが・・・宮部氏のファンであるならば、お馴染みの

あるキャラを思い浮かべるのではないでしょうか。


時代小説の『 震 え る 岩 』 や『 天 狗 風 』に登場する「 お 初 ち ゃ ん 」です。

お初の兄も 岡っ引きでしたよね。

おきゃんで 正義感の強い真っ直ぐな気性は、そのまま涼子であるといっても良いくらい。

ただし 涼子に 霊感はありませんが ww




宮部氏は、登場人物の一人ひとりの心情を 丁寧に描く作家ですから、どの子どもたちも

愛情深く描かれています。どうしようもない不良の三人組にしても、嘘の告発状を

書き、その責任を 亡くなった松子になすりつけようとしている樹里にさえも・・・

今回の作品では その点が大いに 救 い になっていました。( ただし、オトナは別です )



次に、NO・2的な 副主人公といえば・・・「 名探偵 」ではありません。



野 田 健 一 かな? 卓也の遺体の 発見者になった意外は、様々な事件からは

一歩離れた 傍観者的な視点の登場人物かと思ったら、第一部では 思わぬ事件を起こす

一歩手前まで 行ってしまいました。



藤野親子や 親友の力によって 幸いに事なきを得て、この物語のサブ的な進行係になっています。

潜在的な能力は高くとも、目立つ事を嫌う性格なので その他大勢の中に埋もれて

仕舞いがち・・・しかし、この物語の中で 一番成長してゆくキャラ でもあります。



そして、第一部では「名探偵」の初登場シーンから彼を見つめて「学校内裁判」

での「名探偵」=「弁護人」の補佐役を勤めます。



それでは、第二部の「 決意 」を・・・・・


     『 ソロモンの偽証 』

    第二部 

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本715ページ



藤野涼子は 真実を知る為に、3年生のクラス毎の「 卒業制作 」課題として 卓也の

死の真相を 突き止めようと級友たちに訴えます。



もちろん、学校側の反発は大きかったのですが、涼子に感情的な体罰を加えた

学年主任の高木の行為を 不問にする事と引き換え?でOKさせてしまいます。



やがて 涼子に賛同する生徒たちも現れて、不良のボス・ 大 出 を告発状通りに 殺人罪で

問う「 学 校 内 裁 判 」という形式で行う事を決意します。

それも、オトナを入れない 陪 審 制 で自分たちで結論を出そうと・・・



涼子たちの決意に 賛同する教師・北尾も、辞表をかけて 校長に許可を願い出て

夏休みの課外活動としての「 学校裁判 」が認められました。



ただし! チャンスは一度だけ。しかも、与えられた期間は わずか15日!



この裁判には 大出自身も協力することになります。 なぜならば・・・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

不良だから、札付きだから、性根が曲がっているから、みんなに嫌われ、白い目

で見られているから、それで本人も平気の平左のように見えるから、だから

傷ついていないということはない。だから真実を求めていないということはない。

だから濡れ衣を着せられても痛痒を感じないなんて、絶対にないのだ。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★



そうして、涼子に 賛同してくれた生徒の中から、各々の役割を決定していきます。

判事には学年トップの 井 上 康 夫 。 廷吏には 山 崎 晋 吾

陪審員は、涼子と親しい 倉 田 ま り 子 を始めとして 9名の生徒たち。


涼子は 当初大出の弁護人を勤める予定でしたが、「だまされている」と主張する大出の

父親のクレームを受けて、逆の立場の 検 事 になります。

助手として 佐 々 木 吾 郎 萩 尾 一 美



肝心の弁護人は、他校の生徒で 小学校時代に塾で卓也と一緒だった 神 原 和 彦

立候補し、その助手を 野田健一が務める事に。



和彦は恐れることなく大出にアプローチし、心を少しずつ開かせて行きます。

自分は、7歳の時 父親が母親を殺して自殺、残された子どもである事まで打ち明けて・・・



弁護側、検事側それぞれに自分たちの役割を果たそうと奔走します。



幸いにも、好意的なオトナたちの協力も得られて、これまで表に出なかった事も

少しずつ 現れてきます。



その一つに、卓也が自殺した当日に柏木家にかかってきた電話のことがあります。

発信元不明で5回、それぞれ違う電番号で・・・調査の結果 すべてが 公衆電話だったのですが・・・



ここで、読者は 物語の 第 一 部 冒 頭 の シ ー ン を思い出します。



クリスマス・イブの夕方、公衆電話から電話をかけている少年の事を・・・

ミ ス リ ー ド されたまま、ね。



子どもたちの調査とは別に、大手家の 放火の件も 警察の捜査により 新たな進展を

迎えます。そして、大出の父の逮捕・・・



また、元2年A組担任・森内が襲われ 頭を殴られて入院・・・犯人は、理不尽な

理由で 森本を陥れた垣内美奈絵ですが、逃亡して行方不明のまま・・・


そうして いよいよ、裁判開廷の日が迫ります・・・・・




この第二部では、「 弁 護 人 」=「 名 探 偵 」 になる少年・神原和彦が

いよいよ 実体を現してきます。



第一部では、野田健一の目を通して「 対 岸 を 見 て き た よ う な 目 」をした少年だと

触れられていますが、彼自身のキャラクタは まだ謎のままでした。


幼少時の悲劇的な過去が 第二部で語られますが、それだけではありません。



涼子の父親・藤野刑事が 和彦に「なぜ弁護人を引き受けたのか?」と問うたとき・・・・・

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

和彦は すぐ答えなかった。(中略)

ぽつりと、和彦は言った。「責任があるからです」 (中略)

「── 引き受けた以上は、という意味です。」

急いで言い足す。目をそらし、心もそらすためであることは明らかだった。

剛は、なぜ引き受けたのかと訊いているのに。

 和彦がそらした場所に、真の答え、彼の動機がある。(中略)

── 何を隠してる。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★


第二部の636ページから637ページに亘る部分です。


この部分は、初読の時から気になった部分です。「 責任 」という言葉が そぐわない

不可解なほど 頭の良い和彦が、ふと見せた本音のような?



この作品は、ミステリとして至る所に 伏 線 が張り巡らされていますが

第三部の ぎりぎり結末近くなって 見事に回収され生きてきます。



第二部のサブタイトルは「 決 意 」ですが、この「決意」をしたのは 涼子だけでは

ありません。 野田健一も 大出も 樹里も・・・さらには自殺事件が発端で 辞職に

追い込まれた 森内教諭も・・・そして「 弁護人 」神原和彦でさえも・・・



さてさて、それでは今日はこの辺で・・・またね。



posted by cat-of-many-tales at 03:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「 こどもの日 」に 読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第一部 事件  by  宮部 みゆき


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。

前回に 引き続き、「こどもの日」に読む 『 ソロモンの偽証 』です。



その前に念のために・・・

私はこの作品を 良質な少年少女文学であると 前回述べましたが、このブログでは

オトナ向けとか 少年少女向け等では区別していません。ただ、読むに足る優れた作品

であるかどうかで載せています。 管理人の、作品に 相対峙する姿勢は

絵本も児童書もオトナ向けの作品も全く同一ですから。( あっ、漫画も ww )



さて、『 ソロモンの偽証 』の時代背景は 1 9 9 0 年(平成2年)のクリスマスイブから翌年の夏休みまで。

第三部の最終章が 20年後・・・彼らの夏休み課外活動(= 学 校 内 裁 判 )が伝説になった時

ある登場人物が 母校を( 教師として )訪れるシーンで 終わっています。




それでは今日は、 第 一 部 事 件 の巻を・・・・



この第一部ではエピグラムとしてP・K・ディック の作品からこう引用されています。

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

子供って 何も知らない。

だけど 子供は ほんとは何でも知っているんだ、

知りすぎるくらい。

★━━━━━━━━━【「まだ人間じゃない」より 】━━━━━★


そうよ、子どもだからといって あなどれないの。

あなたの子ども時代を思い出してみて?

わざと・・・何も知らないふりを していませんでしたか?

オトナを安心させるために。



     『 ソロモンの偽証 』

    第一部 事件

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本741ページ


事 件 」が起り、主要登場人物のバックヤードと 真情が丁寧に語られます。

そして「 事件 」が思わぬ波紋を呼び、幾人かの登場人物の“ 悪 意 ” を誘発させます。

この悪意は 決して特殊なものではありません。誰の心にも潜んでいるけど

普段は 封印してあるから 表には出ませんでした。

そんな悪意が 表面化して、物語を複雑にします。



しかし、引 き 返 す こ と の 出 来 た 子 ど も が一人いたのは幸いでした。

この少年が 物語の副主人公的な役割を 果たします。



けれども、コントロールできない“ 悪意 ”と“ 悪意 ”が重なったとき・・・・・


あの「事件」は自殺なのか?それとも他殺? ヒロイン 藤 野 涼 子 はある決意をします。



1990年・雪のクリスマスの朝・・・城東第三中学学校 2年A組の 柏 木 卓 也 が学校の

裏門奥で 亡くなっているのが発見されます。 発見者は 野 田 健 一 。 遺体の状態などから

校舎の屋上から 転落死したものと見られます。 卓也は同級の悪ガキ( 大 出 ・ 井 口 ・ 橋 田

とケンカをして以来 不登校が続いていました。 遺 書 は見当たらず、両親の証言などから

一旦は自殺と処理されたのですが・・・



やがて、ある噂がささやかれるようになります。



その噂が 幾人かの登場人物の“ 悪意 ” を覚醒させ、事件そのものを 捻じ曲げてしまう

結果になります。


“モリリン”と渾名がある担任教師 森 本 の隣人主婦・垣 内 美 奈 絵 、そして事件との

係わりは全く無いのに、日頃いじめられていた大出を陥れるために 嘘 の 告 発 状

書いた 三 宅 樹 里 ・・・結果、テレビの 報道番組にまで殺人事件か?と取り上げ

られてしまいます。


続いて 三宅樹里の友人・大 野 松 子 の事故死、橋田とのトラブルで

教室から転落して大ケガをした井口・・・



また、この作品では 生徒の自殺に対する 学校側の対応もきっちり描かれています

送られてきた“ 告発状 ”にたいする処置も 真摯なものであり、告発者をほぼ特定できても、

彼女の心情を 慮り 敢えて問い詰めずに 事を納めようとします


少なくとも、この時点ではベストと思われる判断でしたが、外部にもれ報道されてしまいます。

報道記者・ 茂 木 の思わぬ暴走によるものですが・・・


当事者と異なり、詳しい事情を知らない 第三者の目からは・・・

単なる「 隠蔽工作 」として批判されることにもなってしまいました。



そうして非難のターゲットにされるのは、( 問題児ではあって も)14歳の大出なのですが・・・

大出の家には 非難の電話が押し寄せ、ある夜に放火されて 家屋は全焼し 祖母は焼死

してしまうという 新たな悲劇も起ってしまいます。



学校側は 事態を収支させるために、校長の 津 崎 を辞職させ 事件の決着を図ります。

しかし、涼子は 自 分 た ち の 力 で 真 実 を 突 き 止 め る こ と を 決 意 します。



キャッチコピーに「5年ぶりの現代ミステリー」とありましたので、『 模倣犯 』 や 

『 火 車 』 のような 本格ミステリを期待された向きには少々???だったようですね。



しかし、この作品の骨格は 少年少女文学であり、ミステリはその肉付け・・・として読むと

・・・私は充分に満足しました。



もちろん、ミステリとしても フ ェ ア & 王 道 であり、物語のごく始めに 読者は見事

ミ ス リ ー ド されてしまいます。

告白しますと、私もぎりぎり最後まで 騙されてしまいましたわ ww



単なる状況説明だけで 登場したのか、と思われる人物が 第三部では、それまでの

流れを覆すほどの 決定的な証人として再登場したりして、ね。




また、自殺ではあっても 遺 書 は な か っ た・・・と第一部では処理されています。

「 遺書が無い 」からこそ「 本当に自殺か?もしかすると・・? 」という疑惑を

産んでしまったのですが・・・



実は、遺 書 も し く は 遺 書 に 準 ず る も の の存在は、この第一部で描かれています。

初読では 見逃してしまったのですが、二度目に読んで気がつきました。

既読の方は 第一部の 183ページを読み直してみてね。 すると・・・・・ほらね?



さまざまな事件と 悲劇を産んだ第一部。


「 事件 」にまつわる 多彩な登場人物と その心情が丁寧に描かれて、741ページが

あっという間でした。

亡くなった柏木卓也の兄・宏之の 弟に寄せる屈折した感情も 読み応えがありましたしね。



第二部では、子ども達が真実を知る為に立ち上がります。でも、 ど う や っ て ?

そうして、いよいよ 「 名 探 偵 」 が顔を現します・・・・・


さてさて、今日はこの辺で終わりにしておきましょうか・・・

またね。



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「 こどもの日 」に 読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』  < はじめに >   by  宮部 みゆき


こんにちは、また来て下さってありがとう。


5月5日は「こどもの日」です。 1948年(昭和23年)に制定された 国民の祝日。

「 子どもの人格を 重んじ、子どもの 幸福を図るとともに 母に感謝する日 」とも

規定されています。


ならば・・・今日は この作品が ピッタリではないですか?


はい 今日の読書は 『 ソロモンの偽証 』 上・中・下   by 宮部 みゆき



版元:新潮社 『 ソロモンの偽証 』上・中・下巻  全部で2000ページ以上もある大作。

( 今回は長くなるので 2回にわけてアップします。今日は序章、かな? )



えっ? こどもの日に ちなんだ本が『 ソロモンの偽証 』?

そう思われましたか? そうですね、では言い換えましょうか?



「こどもの日」 だ か ら  『 ソロモンの偽証 』が ふさわしい、と。

なぜならば、この作品は・・・どう読んでも・・・・・



さて、突然ですが、下に ある男性の写真を載せましたが、誰 だ と 思 い ま す か ?

ケストナー2.jpg

特徴のある眉で 記憶にある方は多いかな? あなたも、彼の作品を 子ども時代

に読んだのではありませんか?


彼の名は エーリッヒ・ケストナー( 1899〜1974 )ドイツの、いや 世界的に著名な

文学者であり詩人であり・・・優れた 児童文学の書き手 でもありました。


ケストナーといえば思い出すのが『 エーミールと 少年探偵たち 』 『 ふたりのロッテ 』

『 飛ぶ 教室 』 『 五月三十五日 』 『 点子ちゃんとアントン 』
・・・

日本では 児童文学者としての 認知度の方が 高いけどね。



わざわざケストナーの写真を 掲げたのは、別に子どもの日だからではありません。



おそらくは・・・宮部みゆき氏の『 ソロモンの偽証 』を 一番 正当に・正しく

そして 喜ばしく評価できるのは、このケストナーではないかと思うから




ん? 話が見えませんか?



いつも 私は話が長くなるので ww 今日は 結論を先に端的に言っちゃいましょうね。



宮部みゆき『 ソロモンの偽証 』は 非常に優れた児童文学である。



あれ? 驚きましたか?  これは現代物ミステリじゃないの?・・と思われるかな?

では、もう少し言い換えましょうか。




『 ソロモンの偽証 』は 優れた現 代 の 少 年 少 女 文 学 である。



この作品は、昨年( 2012年 )の8〜10月に刊行されて以来、話題を呼びましたよね。

プロ・アマ問わず さまざまな書評が 書かれていますが、かなりの読み巧者の方々でも

「 少 年 少 女 文 学 」という 視 点 で は 読 ま れ て い な い のが

逆に 不思議に思えてなりません。



はいはい 異論は認めますとも!

おそらくは 著者の宮部氏自身も、そうした意識は無かったと思いますから



連載された雑誌も「小説新潮」だったし、むしろ、私の見方の方が 異端なのでしょうね、多分。



別な表現をすれば・・・・・

オトナのために書かれた少年少女文学である、という捉え方もできますけど ww

昔は子どもだったオトナでも 読んで楽しめる少年少女文学、とか?



また、こうした作品が書けるのは 宮部氏自身が「 人 間 を 信 じ て い る 」作家で

あるからこそだと思う。

ケストナーも、ナチスに弾圧されながらも それでも 次の世代の子ども達に

夢や希望、正しく生きてゆく事の大切さを託したのだから・・・・・



なので、別に子どもが読んだってノープロブレム。

小さな子どもが読むには 難しいかもしれませんが、小学校の高学年以上であれば

・・・できれば 中学生くらいからなら 充分読んで楽しめるかもしれません。



えっ? 難しいですか? そうですね、読書習慣の無い子には少々難しいかな?

けれども・・・ あ な た 御 自 身 の こ と を思い出して下さい。

あなたの 中学生時代なら・・・充分 読めたんじゃないかな?



えっ? 子どもが読むには長すぎる?

そうでしょうか・・・『 ハリー・ポッター 』シリーズも 結構長いけれど(全6巻!)

『ハリ・ポタ』シリーズの日本語訳は クソ 下手くそ いや 最低  いやいや

いろいろと 問題の多い訳ではありましたが、読み手の主体は 総じて子どもたち

ではなかったかしら? 内容も後半は結構ダークだったし・・・やたらと人が死んだし・・・

その事を思えば、中学生以上であれば 充分理解できると思うのだけれども・・・




管理人はこの作品を 通しでまだ2回しか読んではいませんが、それでも

優れた 少 年 少 女 文 学 の ツ ボ が しっかりと押さえられているな、と感じました。



1:主人公が 子どもたちである

2:事件は、子ども中心に起きた

3:犠牲者(?)も、そして犯人(?)と目されるのも子どもである。

4:名探偵(?)も子どもである。

5:子ども達自身が 問題を解決しようと努力する。

6:周囲の 理解の有るオトナの協力が得られる

7:物語の中で、子どもたちは確実に成長していく。


総じて、 子 ど も た ち の 魂 の 成 長 記 になってるということ!



この物語の主人公というか、主要な登場人物たちは中学生( 14歳〜15歳 )です。

小さな子どもではありません。しかし、完全な「オトナ」とは言えないよね。

中学生はオトナか子どもか? と問われたら、多分殆どの人が「子ども」と答えるでしょう。

だから・・・『 ソロモンの偽証 』は 子 ど も た ち の 物 語 なんだよ。



さてさて、どうでしょうか?  こういう読み方は・・・



もし、あなたが『 ソロモンの偽証 』を既読であるならば、

こういった視点で 読み返してみてはいかがかしら?

未読であるならば・・・こういう視点もあるのかも ( と 疑いながら ww )

読んでみるのも 一興ですわよ ww



作品内容の詳細については 次回にアップしますが、この作品の第二巻の扉には

ケストナーの 『 飛 ぶ 教 室 』 の言葉が エピグラフとして付されています。


かなり有名な部分なんですが、それとは別に この作品に ふさわしいと思われる部分を

『 飛ぶ教室 』から 記して今日は終わりましょうね。


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どうしておとなは、自分の子どものころをすっかり忘れてしまい、子どもたちには

ときには 悲しいことや みじめなことだってある ということを、ある日とつぜん、

まったく理解できなくなってしまうのだろう( 中略 )

人生、なにを悲しむかではなく、どれくらい深く悲しむかが重要なのだ。

誓ってもいいが、子どもの涙は おとなの涙よりちいさいなんてことはない。

おとなの涙より重い事だって、いくらでもある。

★━━━━━━━━━━━━【 岩波少年文庫より・一部抜粋 】━━━━━━━━━━━★

それでは、またね・・・・・。



posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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