2013年05月14日

『 黄金を抱いて翔べ 』 を 「ゴールドデー」に 読む   by  高村 薫


こんにちは、また来て下さってありがとう。


5月14日は「ゴールドデー」って・・・実は 金・黄金のゴールドではなく

ゴールドキーウィを贈る日 」らしいのですが、 しかし それではピッタリの作品が 無いので ww

素直に(!) 黄 金 と解釈しましょう。そう、 金の延べ棒 とか、ね・・・


はい 今日の 読書は 『 黄金を抱いて翔べ 』 by  高村 薫


    黄金を抱いて翔べ

    著者:高村 薫

    出版社:新潮社

    サイズ:文庫 358ページ


著者は あなたもよく御存知の高村薫氏。 1990年、本作で日本推理サスペンス大賞

を受賞してデビュー、その後は 『リヴィエラを撃て』 で日本推理作家協会賞&日本

冒険小説協会賞を受賞。1993年 『 マークスの山 』で直木賞を受賞、一般的によく

知られるようになったのは『マークス〜』以来かなあ。 実は私も 氏の作品に初めて接したのは

この作品からです。


以降、 『 レディ・ジョーカー 』 『 新リア王 』 『 冷血 』 と、代表作に迷うような作家に

成長されました。 決して多作とはいえないのですが 私的には「代表作は何かと考えても、

有り過ぎて迷う」作家は 本当に実力のある方だと考えています。



『 黄金を抱いて翔べ 』は、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)です。 

正義の味方 なーんて野暮な男は一人も出てきません。 いわゆる “ 強 奪 も の ”ジャンルに属し

クライム・アクションといっても良いかな? 



金塊の強奪をテーマにした映画 『 大列車強盗 』や、ハリウッド映画のラスベガス

の金庫破りを描いた 『 オーシャンズ11 』 を思い起こす方もいるかも?



しかし、この作品には ハリウッド的なゴージャスさ・良い意味での単純さは微塵も無い

泥臭く汗臭く惨めったらしく・・・そして緻密でありながら、成功しても  なぜか

悲しい・・・。ラストの爽快感もありませんでした。 登場人物の背負っているものが

みんな重すぎるからね。




タイトルに「翔べ!」とありますが、どこへ翔ぶのさ? あの世に翔ぶのかしら?

神 の 国 」へ? それとも 「 人 間 の い な い 土 地 」へ?




主人公の 幸 田 弘 之 ほか 境遇の異なる6人の男達の 金塊強奪作戦の顛末記。



男女の恋愛要素はありません・・ありませんが、読者は読み進む内に或る意味で

ラブ・ストーリーでもあると気づくことでしょう。生産性も希望も無い 束の間の・・・

多くの描写もなく切ない終わり方をしましたが、紛れもない恋でした。



舞台は大阪です。登場人物は大阪人でありながら、コテコテの大阪人ではなく

どこか醒めた目を持って大阪を見ていますね。大阪生まれや大阪に縁がありなが

ら、いったん外へ出て帰ってきた人間、という感じ・・・特に主人公の幸田弘之は。



20年ぶりに大阪に戻ってきた幸田は、現在は倉庫会社にマジメに勤務していますが

隠れた本職は 過激派や犯罪者ご用達の「 調達屋 」。 錠前破りの腕もなかなからしい・・


物語中で何度も登場する「 教 会 」と「 神 父 」そして 母 親の記憶シーンは

重要なキーワードになります。何故なら、それは “ 憎 悪 ” と結びついているから・・・

そして、彼の虚無感の大元でもあります。



そんな幸田に 金塊強奪の話を持ちかけるのが 北 川 浩 二 。幸田とは大学時代からの

友人であり、運送会社に勤務する妻子ありの既婚者・・・ではありますが、小市民

であるはずがなく ww この作戦のリーダーシップを取る男です。



幸田を「メメの兄ちゃん」と呼んで慕う息子、そして( 場違いなほど )家庭的で

優しそうな妻・圭子・・・しかし、彼女も終盤近くに 意外な したたかな面を

持っていた事が明かされるのですが・・・



さて、金塊強奪作戦のターゲットは中之島の住田銀行・ 地 下 金 庫 に 眠 る 金 塊 五 百 キ ロ


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「 札束の方が、嵩が少なくて実入りが多いのに 」

「 福沢諭吉だったら、やる気はない。金塊だから、やるのさ 」

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


・・・確かに「金」は世界で認められた不変の価値をもつ存在ではありますが

単純な金儲けとしての強奪作戦ではない事を このセリフは暗示しています。

「黄金」を奪うという行為は・・・ 失 わ れ た 何 か を 奪 回 する為の行為なのか



そうして、この強奪作戦を成功させる為に 集められた他4人の男たちは何れも

作戦をこなせるだけの 特技を持ったスペシャリスト。


まずは、北川の弟の 春 樹 。グループの中では一番若く青臭さを感じさせます。

銀行担当のシステムエンジニア・ 野 田 、ハッキングの技にも長けています。



野田の知人の「 ジ イ ち ゃ ん 」こと 岸 口  このジイちゃんは 現在は道路の清掃夫をして

いますが、かって エレベータ技師との事で 各銀行内部にも通じている所を買われました。

しかし・・・それだけの人物であるはずはなく、読み進める内には 彼 の 過 去

少しずつ明らかになり、最後に 幸 田 の 記 憶 と 結 び つ く とき・・・



そうして、作品中で非常に重要でありながらも ジョーカー的な 危 険 な 役 割 を果たす モ モ

在日韓国人チョン・ユンセンと自称し大阪工大研究室に通いながら豆腐屋でバイト中。

・・・本名はチョ・リョファン。 

爆弾のエキスパートが欲しいという 北川の要望に答えて、幸田が紹介しました。



物語冒頭で、韓国籍パスポートを所持した男性の 射殺死体が発見されたシーンが

あり、モモと何らかの関係があるのでは? と読者が思ったとおりに、一筋縄では

いかない人物でした。


彼の裏の顔は 元北朝鮮のスパイであり、裏切った者として追われている身ですから

・・・この彼を仲間にした事から、強奪計画の物語はより 複 雑 化 & 危 険 化 していきます。


このモモの愛読書が「 背教者ユリアヌス 」( by 辻邦生 )というのが象徴的ですね。

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幸田さん。北川さんから聞いた。あんたが聖書を持っているって。あんたのこと

は、ほとんど何も知らない。でも、いつか、あんたとは神の話をしたいと思う。

あんたとは、心の話をしたいと思う・・・

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★



本番の金塊を盗み出すシーンが リアルタイムで描かれるのは後半の50ページ位

で、それ以外は 息苦しいほど濃密な人間( 男たちの! )ドラマでした。



緻密な計画に基づいての 強奪計画ではありますが、過去に捨ててきた亡霊のような

左翼組織、公安、北の工作員、暴走族の連中が入り乱れて物語を撹乱させます。


ダイナマイト輸送トラックの襲撃・変電所の爆破・通信ラインの共同溝爆破・・・



こういったクライム・ストーリーの場合は、ラストをどうするか?で真価が問われます

単純な娯楽作か人間のドラマか・・・タイトルの意味するところも ラストで殆どの

読者が(その人なりに)納得すると思います。


金塊を現金に替える国へ行く 船 の シ ー ン ですが、それがリ ア ル な の か 幻 想 な の か

私は 敢えて考えない事にしています。


それが 「 祈 り 」 のシーンである事は 間違いないのだから・・・・・



さて、著者の高村氏はOL時代に 大 阪 ・ 中 之 島 近 辺 をよく歩いたそうです。

当時の 住友銀行を眺めて「ここにお金が沢山あるんだろうな」と考えたのが物語の

きっかけとか・・・。

盗みに入るのは、どういう方法があるかとか、あの高さなら 屋上からロープで降りてこられるとか・・・。



そうした想像が結実してこの作品となりました。

時はバブルの真っ最中の時代。札束が乱れ飛ぶような、そんな時代だったからこそ、

「 数 字 」として語られる現金ではなく 敢えて金塊を盗む話にしたかった・・・そうです。



小説が表現する一番大きなものは「空気」だと高村氏は語ります。

この作品が醸し出す空気感は、 大 阪 の 熱 帯 夜 ・・・真夏の中之島、川から立ち込

めるムッとするような臭気・・・



このブログは、日付を溯ってスタートしているのですが、5月14日の日付ではあっても、

実際に書いている本日は 7 月 1 1 日 でして ww


まさに、この作品を読むにふさわしい猛暑の一日でしたわ。

あなたも、熱中症にはくれぐれも御用心を、ね。

それでは 今日はこの辺で・・・またね。






posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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