2013年04月28日

「 象 の 日 」に読む 『 猫 を 抱 い て 象 と 泳 ぐ 』  by   小川 洋子


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


4月28日は「象の日」です。 1729年、清国から 将軍吉宗への献上品として

初めて日本に 象が来た日ですね。 子ども時代に愛読した『 ババール 』の

お話をしようかな?とも考えましたが・・・今日はこの作品を。


イメージの中では 重要な位置を占めても、直接的には象は登場しませんが・・・



はい 今日の読書は 『 猫を抱いて 象と泳ぐ 』   by 小川 洋子


    猫を抱いて象と泳ぐ

    著者:小川洋子

    版元:文藝春秋

    サイズ: 文庫373ページ

    発売日2011年07月



著者は 小川 洋子氏(1962〜 )1991年、『 妊 娠 カ レ ン ダ ー 』で 芥川賞を受賞、

その後 『 博 士 の 愛 し た数 式 』で本屋大賞を受賞、ベストセラーになって

映画化もされた 記憶も新しいよね。


『 妊娠カレンダー 』はアメリカの「ザ・ニューヨーカー」にも 英訳された作品が

掲載されました。ちなみに、この雑誌に作品が掲載されたのは 小川氏以前は

村上春樹氏と大江健三郎氏だけなの。( ザ・ニューヨーカーについては

4月21日に少々言及しましたが )



さて、本作の『 猫を抱いて象と泳ぐ 』・・・


チ ェ ス ( 西洋将棋 )がテーマになっている作品ですが、ルールや指し方を

全く知らなくとも この作品を読むのに 別に差し支えはありません。



( ちなみにルールは将棋に似ているので、有名な棋士・羽生善治氏はチェスの

 愛好家でもあり 国内でもトップクラスの指し手でもあります )



これ以上ない程に 美しい小説でありながら、これ以上ない程に・・・異 様 でも

ある小説、かもしれない。



いわゆる 幻想小説ではありません。さりげなく、さらりと日常が語られながら、

いつの間にか するりと 物語世界にさらわれて、あれ?ここは何処?

と気がつけば 小川洋子の世界にどっぷりと・・・ ww



この物語の登場人物たちには 一切「 名前 」が与えられていません。

主人公は「リトル・アリョーヒン」と呼ばれていますが、これは本名ではなく

彼につけられたニックネーム、いや 称 号 と言うべきか?



ちなみに、アリョーヒン(1892〜1946)は ロシアの伝説的なチェスプレイヤーであり

グランド・マスターという最高位のチャンピオンであり、「 盤 上 の 詩 人 」と

呼ばれた人物です。 猫を愛し、よく猫を抱いてプレイしました。

少年が こよなく敬愛した先達チェスプレイヤーです。



さて、主人公の少年は 唇 が 閉 じ ら れ た ま ま で 誕 生 しました。

産まれてすぐ 唇を開く手術がされましたが、その際に 脛の皮膚が移植されます。その為

少年の唇には 脛毛が生えてきてしまうのですが・・・( いや、実際には有り得ないと

思いますが ) そのせいもあり、少年は無口なままに成長します。


たまに連れられて行くデパートの屋上に、以前は 飼われていた のインディラに

思いをはせ、夜はベッドの中で 近所の壁に挟まれて死んでいたという少女・

ミイラと空想の中で会話をします・・・


そう、無口で 風変わりな孤独な少年なのね・・・両親はいなくて弟と祖父

そして祖母と一緒に住んでいます。



ある日、学校で起ったちょっとした事件がきっかけで、バス会社の敷地内

にある廃バス?を見つけます。最早バスとしては役に立たないのに、何故か

住居になっていて、そこに住んでいる男性&飼い猫と知り合いになります。



その男性が少年のチェスの師になり、 マ ス タ ー と呼ぶようになり、チェスの

ルールだけではなく チェスの魅力も伝授されるように・・・




チェスのような勝負事の対戦の模様を これ程までに 美 し く 詩 的 に 文 章 化

できるのか・・・と感嘆しました。



チェスに没頭しているときの気持ちが、こんな風に描写されています。

この心境がタイトルになっているんですね・・・


チェスに限らず、ある意味では、名人の心境かもしれないけれども。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

ポーンを抱き寄せ、光の帯に身体を預けた時、少年は今まで味わったこと

のない不思議な感触を覚えた。少年はデパートの屋上で、海を泳いでいた。

水面は頭上はるかに遠く、海底はあまりに深く、水はしんと冷たいのに

少しも怖くない。怖くないどころか、ゆったりとして身体中どこにも変な

力が入っていない。ああ自分は唇だけになっているのだ、と少年は気づく。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━★


マスターから勧められて、町のチェスクラブの入会審査を受けますが

あまりにもゴージャスでスノッブな、少年の日常とかけ離れた雰囲気に呑まれて

前半は力を発揮できず、後半に机の下にもぐりこんで 勝負を始めてしまいます。



少年が 初めて「リトル・アリョーヒン」と呼ばれたのは、この勝負からでした。



けれども、入会そのものは断られてしまいます。チェス盤の下にもぐりこむ独特の

スタイルが受け入れられなかったようですね。



その後、悲劇的な事件が・・・少年が師と仰ぐマスターが急死してしまいます。



バスの中で心臓マヒを起こして・・・体重が 250キロを越すほど肥満した

マスターの遺体を運び出す為に解体されるバス・・どこかに逃げ去ってし

まう猫のポーン・・・少年は解体されたバスの中からテーブルチェス盤と

駒を辛うじて持ち出すのですが・・・



そうして、少年はマスターの死を悼みつつ 11歳の身体のまま 成長する事を

拒否してしまいます。



どれ程、精神や チェスの技量が上達しても身体は11歳の、チェス盤の下に

収まる大きさを保ったまま・・・身体が大きくなる事は彼にとっては悲劇

でしかなかったから。



しかし、 成 長 す る 事 を 拒 否 し て 、ず っ と 1 1 歳 の 身 体 の ま ま って・・・

余りにも さりげなく書かれていて 逆にぞっとしましたよ。



ドイツの小説、『 ブリキの太鼓 』( by ギュンター・グラス)を思い出してしまいました。

映画化されて、カンヌでグランプリを取った有名な作品です。

いや、あれ程の悪意といかがわしさは無いのですけれど・・・・・



やがて、少年はチェスの技量と 小さな身体を活かせる最高の職?を得ます。

それは、チェスを指す からくり人形の中に入って、人形の代わりにチェスを指す事。


かつて、「トルコ人」と呼ばれた有名なからくり人形がありました。↓

トルコ人 chess1.jpg

こんな感じですね↑ (写真引用元:Wikipedia)


そうして少年は、「 リ ト ル ・ ア リ ョ ー ヒ ン 」と名付けられた人形と一体となり

新たな伝説を 創り上げる事になるのですが・・・・・



そうして、最後には静謐な死を迎えます。生まれた時と同じようにしっかりと

唇を閉じ、右手にはポーンの駒袋を 左手には最も愛したビショップの駒を

握って・・・・・





いつも不思議に思うのだけれど、この作者の日本語は 端正で美しい・・・



なのに、どこか異国の匂いがするのは どうしてかしら?

翻訳小説風の 臭みもないのに、どこか・・・チェコ か ポーランド、旧東ドイツ風の

良い意味での 日 本 人 離 れ し た セ ン ス を感じさせるのです。



文章が非常に 繊細で、象牙の細工物のように 緻密でもある・・・

そうして、何 気 な く さ ら り と ・・・ 怖 い 事を書いているような・・・・・



美しい文章の海で 泳ぎたくなったとき、私はいつもこの作品を読み返すのです。


『 博士の愛した〜 』ほど一般受けはしないと思うけれど、それでも愛してやまぬ

貴重な作品・・・もしもあなたが小川氏のファンであるならば、賛同して頂けると

思うし、全くの未読であれば・・・まずは 『 妊娠カレンダー 』 はいかが? 

賛否両論ある作品でもありますが、大抵の図書館にも置いてあると思うし、

美しく静謐な 毒を味わうにはもってこいかも?


さてと・・・今日はこれでお終いです。

またね・・・。



posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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