2013年05月02日

「 八十八夜 」に 読む 『 八 十 八 夜 物 語 』  by    半村 良


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。



5月2日は、今年の八十八夜に当ります。「 夏も近づく八十八夜 ♪ 」の歌の通りに

夏の始まりの季節であり、若葉の萌える 一番美しい季節かもしれません。

なので、今日は 人生で一番美しい季節を 花開きたいと思った女性の物語を・・・



はい 今日の 読書は 『 八 十 八 夜 物 語 』 by  半村 良


    八十八夜物語 (上)(下)

    著者:半村 良

    出版社:論創社

    サイズ:単行本(上)491ページ (下)533ページ



私が所持しているのは 集英社の単行本で、集英社文庫からも 販売されていました。


著者は半村良氏( 1933〜2002 )上手い作家でした。 まだ70歳前の死、ということで

訃報を知ったときには 非常に残念に思ったものです。だって、未完の作品が数多く

あったから・・・ ちなみに、この方の欠点は「 上 手 す ぎ る 」ところだと

思っています。


私の知人たちにもファンが多かったのですが 概ね、「この作家的には充分、書くべきことは

全て書いてしまったのだから、この先はもう余り期待できなかったのでは?」

という意見が 多かったのですが・・・



ジャンル的には・・・SF作家、正確には 伝 奇 S F 作家といえば 良いでしょうか。



“ 伝奇小説 ”というジャンルの 先駆け となった、とも言えますが、

元々日本の小説には そういったセンスの物語は 多数ありましたよ。 近代以前、

近世の『 南総里見八犬伝 』がその代表・・・といえば 感覚的に分かると思いますが。



代表作は・・・数多い作家です。 『 太 陽 の 世 界 』 『 妖 星 伝 』 『 岬 一 郎 の 抵抗 』

『 伝 説 』シリーズなど、時代物では『 ど ぶ ど ろ 』『 大 久 保 長 安 』

戦後社会を 描いた『 晴 れ た 空 』『 昭 和 悪 女 伝 』


一般的には 映画化された『 戦 国 自 衛 隊 』の原作者としても 知られているでしょうね。


私が20代の頃は『 石 の 血 脈 』『 産 霊 山 秘 録 』に夢中になり、

余りの面白さに 徹夜して読んだものです。


SFジャンルだけではありません。作家デビュー前は、バーテンや板前などの

水商売に従事していた方なので、そのジャンルの作品でも傑作は多い。

1975年に第72回直木賞を受賞した『 雨 や ど り 』を始めとして、『 新 宿 馬 鹿 物 語 』

『 た そ が れ 酒 場 』など・・・



今日のテーマに選んだ『 八十八夜物語 』は一連の “ 水 商 売 も の ” に属します。

そう、「 お 水 の 花 道 」一直線の物語・・・しかも 王道のサクセス・ストーリー・・・



半村氏の作品の中では、ち ょ っ と 異 色 ではないかと(個人的には)思っています。

理由は簡単。この作品は、集英社の女性誌「 コスモポリタン 」に1984年〜1986年に

連載されたものですから。20代前半くらいの若い女性をターゲットにした

雑誌ですから、 余りどぎつい内容にはできなかったのかもしれません。




一種の、「お水の花道ファンタジー」になっているのです。その辺のところは

新堂冬樹氏の一連の水商売もの『 黒 い 太 陽 』等とは全く異なります



しかし、そこは手練の半村氏ですから、充分に読ませる作品として完成度は高いのですよ。



主人公は加納妙子、23歳。超絶美形の持ち主です。美人ではありますが

作品中には、具体的に ど う 美 し い の か 描 写 は さ れ て い ま せ ん

(色白、ぐらいで。また、今なら 絶対に美人の条件とされるスタイルの良し悪しも

全く言及されてはいません
。)


両親は既に亡く 田舎の家は 既婚の兄が継いでいます。 妙子は東京で、大学卒業後は

亡母の茶道友だち 伊藤かな宅の離れに一人住まい・・・



OLを1年経験した後に、心機一転して水商売の世界に飛び込みます

その理由が「八十八夜」・・・人 生 の 一 番 美 し い 季 節 に 、女として

花開いてみたかったから・・・失恋などで流されて水商売に入ったのではなく、

一旗あげてみようと 銀座の夜の世界に飛び込んで行くのですが・・・・・



う〜ん・・・この理由が 少々苦しくて・・・。



つまり、まず 女性誌での連載が決まり、SFではない若い女性を主人公にした

現代の物語を、というコンセプトが先にあったのでしょうね。


男女機会均等法施行前 の時代ですし、女性が自分ひとりの力で道を切り開いて

・・・となると、半村氏的には知り尽くした夜の世界をたくましく美しく

生きるホステスさんを、という発想は自然であったかもしれません。



( ちなみに、半村氏の描く女性はどこか皆、

バーやクラブのホステスさんや ママっぽいのですが ww )



その後は、王 道 です。まず、スタート時点から恵まれています。

地味ではありますが、古くからの老舗である「ドン」というバーを皮切りに

酒場商売の基本をマスターした後は、売り上げ制の大きなバー「クラブ・ジョーカー」に。



ここで 生涯の親友になるロミと出会い、初めての熱烈な恋もしますが、

彼は既に婚約者のいる身であり結婚は不可能・・しばらく楽しく交際後は

綺麗に別れてお終いです。 妙子はそうした経験も肥やしにして仕事に励み

益々磨かれていきます。



そうして、独立採算制の支店を一軒任せられるようになります。

お店の名前は「 クラブ88 」・・・ここまでが物語の約半分で、後半はこの

「クラブ88」で妙子が新米ママとして奮闘、最終的には雇われママではなく

完全に 自分が 経 営 者 と な っ た 時 点 で 物語は終わります。




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美しい容姿で 華麗に生きることを美しく咲くと考えたら、それはただの

花束にすぎない。まだ自分をどう育てたらいいのかはっきりとはしないが、

人の手から手へ渡されるただのブーケであってはならない。(中略)

どう咲くべきか探り当てよう……。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★


最終章では、第三者(作者?)の目で見た妙子の現在が語られています。

結婚して子供がふたり、クラブ一軒だけではなく レストランや他の店を

数件持つ 実 業 家 と し て 成 功 した姿が語られています。



めでたし、めでたし・・・のハッピーエンド。

キャバクラ全盛の 現代から見ると、まあ、古い、といえば古いのでしょうが。



なによりも、具体的な お 金 の 話 が 最 後 ま で 全 く 登 場 し な い のです ww


クラブ88 を買い取るときの 交渉でさえも、具体的な 金額は描かれていません。

その他、ホステスさんの給料やアドバンス( 前貸し金 )、売掛金のことなど・・・



お話が生々しくなってしまうので、半村氏も敢えて書かなかったのでは?と思います。

「おとぎばなし」としての「銀座小説」として読めば、これほど面白い作品はありませんが ww




ところで、ホステスさんの 一番大切・重要なことって何だと思いますか?


それは、美貌や気配りではありません。

「 客 」です。 どれだけ多くの・金払いの良い・かつ、筋の通った客を

持っているか、で決まります。 電話一本で駆けつけてくれて、お金を沢山使ってくれ、

きちんと支払ってくれる「客」が・・・



山口洋子氏のエッセイに、酒場にとって 一番魅力的な客は「 金払いの良い人 」

とありましたが ww 身も蓋も無い本音なのでしょうね。



妙子はこの点でも、全くの未経験者でありながら、強力なバックアップが

ありました。 亡母の昔の恋人に、市原弘道という法律家の男性がいるのですが

なんと、政財界に隠れた影響力を持つ大物で・・・という設定。



この彼が、困難に陥ったときにバックアップしてくれるて、最終的には

独立の際に、銀行をプッシュしてくれさえします。




まあ、現実には有り得ない程のアドヴァンテージを持ってスタートした

女性なのですが・・・しかし、こ の 妙 子 に 魅 力 を 感 じ る 読 者 は い る で し ょ う か ?



一見すると、妙子が 物語の主人公のように見えるし、事実そうなんですが・・・



この物語を、よくよく読むと・・・ 妙 子 は 単 な る 狂 言 回 し ではないかと

思われてならないのです。 むしろ、脇役の方が面白いし 含蓄のあることを

言ってくれる・・・


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水商売ってことば、三十年前はマイナーな響きがあった。女給・・・昔は

ホステスのことをそう言った。つまり、ホステスになるのはちょっと憐れ

なことだった。(中略)そのころはね、芸者、ホステス・・・水商売の女の

着る物と、素人堅気衆の着る物はまるで違ってた。水商売の側はそれが少し

うしろめたくて(中略)それなりに覚悟を決め、いくらか居直ったりしたもんさ。

(中略)今はね、人に 媚びるってことにやましさを感じなくなった世の中なんだ


★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━━★


妙子を可愛がってくれる銀座のレストランの老オーナーの言葉です。

そのまま、半村良氏の言葉といっても良いかも?




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凄愴。 そんな感じである。

富士を見なれた静岡育ちの妙子も、その角度から、その季節、そんなすさまじい

表情の富士はついぞ見たことがなかった(中略)

ハ十八夜に咲いた花は、きっとあそこへ行き着くのよ」

ロミがささやいた。

「 恋がなんだい。男がなんだい。あれが命の涯てにある魂のすみかよ 」


★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★



後半の白眉ともいえるシーンです。ある男のいやがらせにより、無理やり

別れた恋人の 結婚式のホテルに呼び出されてしまい、落ち込んでいる妙子

を慰めるため、ロミが富士山の見えるホテルへ誘います。

そこで 窓から見た 富士山の凄まじさ・・・

私も一度は見たい・・・と思ったシーンでした。




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きものはバランスなんだから、なんでもかんでも高ければ立派というわけ

じゃないしね。(中略)和服を選んでその方角へ行ったら、そう選んでも

それが行き止まりって組み合わせがあるものよ。そういう風になったら

もう値段の問題じゃないの。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★


クラブ88で働く着物党ホステス、こと江の言葉です。最初は何の気なしに

読んでいたのですが、知人の着物党の女性が この部分を誉めていました。

この作者は、着物の事を良く知っている人だ! 」と言って・・・




ピックアップすれば切りが無いほど、魅 力 的 な 酒 場 語 録 ともいえる

『 八十八夜物語 』でした。

半村氏の作品は 出来れば今後も 取り上げたいとは思うのですが・・・

どうでしょうね、難しいかなあ・・・

さて、それでは今日はこれでお終い。 またね・・・。






posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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