2013年05月05日

「 こどもの日 」に読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第三部 裁判   by  宮部 みゆき


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


「こどもの日」に 読む 『 ソロモンの偽証 』 今回が 最終回の 第 三 部 です。

今日は 少々長くなりますよ ^^;



まず初めに 『 ソロモンの偽証 』というタイトルですが・・・

「ソロモン」は古代イスラエル王国の「ソ ロ モ ン 王 」でしょうね。 同国を最盛期に

繁栄させた名君と言われて、人並み優れた知恵者として知られています。



一人の子どもを取り合う 二人の女を、どちらが本当の母親か?という問題で賢明

な判断を下した「 ソ ロ モ ン の 名 裁 き 」は有名。

大岡越前守忠相の「大岡裁き」の元ネタとして御存知の方も多いと思うな。

知者ソロモンの裁き by ギュスターヴ・ドレ.jpg

     「知者ソロモンの裁き」

      by ポール・ギュスターヴ・ドレ 
 

      19世紀フランスの画家&イラストレータです。


       画像引用元:wikipedia



この作品の山場になっている「 学校内裁判 」については、「 中学生が こんな事を出来るのか?」

「 これほど頭の良い中学生がいるのか? 」というレビューを 多々見受けましたが

全然不思議には思いません。


だって・・・自分の中学生時代を思い起こせば、これ位の頭の良い子・リーダーシップ

の取れる子は幾らでもいたような・・・?


幸いにして、ここまでの悲劇的な事件が起らなかったし、裁判という形式は考え付かなかったと

思うけど・・・・・でも、 子 ど も を 甘 く 見 て は い け な い と思うな。




宮部氏が「 小説新潮 」で第一部の連載を 開始したのは 2 0 0 2 年 10月号であり、

この第三部が 終了したのは 2 0 1 1 年 の11月号。



ほぼ 10年の月日をかけて 完成させているわけですが、連載スタート時の2002年

といえば 「 神 戸 連 続 児 童 殺 傷 事 件 」の記憶がまだ生々しい時ではなかったかしら?

「 中学生・14歳の犯罪 」というのが、やたらと世間を騒がせていた時代だった・・・



それだけではありません。 作品の 仕上げくらいの時期に起った「 大 津 い じ め 事 件

宮部氏は 「いじめはあった」と証言した同級生達に 敬意を覚えた、と語っています。

自分達は見ていた、本当のことが知りたいと 勇気を持って声に出した子ども達の

声を聞いて 作り話ではない、と感じたそうです



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子供だろうが未成年だろうが、一方的な暴力にさらされた者には、自分が被害に

あったことを訴える権利がある。 どういう事情で何が起ったのか、本人がまわり

に知ってほしいと望むならば、それを阻むことは、誰にも許されてはならない。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

↑作者自身の声が そのまま響いてくるようなフレーズも第三部にはありました。




「子ども」だからといって、無条件に無邪気で善であるとは限らない。

「子ども」だからといって、無力でオトナの言いなりになっているわけではない。

そしてまた、身勝手なオトナに振り回される子ども=善=弱者 という単純な図式でもない。



けれども・・・「 子 ど も 」だ か ら こ そ 可 能 な こ と だってあるはず・・・・・



基本的に 宮部氏は「人間を信じる」タイプの作家であり、「 性善説 」を信じたい

( 信じる、ではなく あくまでも「信じたい」、ね )

タイプではないかと思うのですが・・・だからこそ、ミステリとして余りにも

残虐・陰惨な事件を書き続けるのは 苦痛になったのではないか・・・と?



だからこそ、こういう形の物語を 世に問うたのではないかと考えるのです。

ケストナーが、オトナではなく 子どもたちに 未 来 の 希 望 を 託 し た ように・・・・・

子どもたちの 魂 の 成 長 物 語 として。



子どもたちの「学校内裁判」のきっかけは「 真実が知りたい! 」という気持ち。

それを敢えて「 法廷 」という裁きの場を テーマにしたのは凄い・・・

物語的には「 少年たちの 探偵物語 」という従来通りのパターンであっても差し支えはなかったのに。



けれども・・・少数の自分たちの 閉鎖空間だけで真実を明らかにするのではなく

もっとオープンな形で 皆で共有する形で 真実を明らかにしたかったのでしょうか



学校に代表されるオトナ達は 真実を語ろうとしない、何も無かった事にしてしまいたがる。

ならば・・・自分たちで真実を明らかにするしかない。



そして、警察の介入もありません。第一部の卓也の自殺直後ぐらいです。

大出家の放火事件は 卓也の自殺とは全く関係のない オトナの事情の結果なので。

ただし、この物語の舞台となった時代( 1990年〜1991年、つまりバブル景気最後

の年〜バブル崩壊の年
)を考えると よく分かる事件でした。



また、こういう形式の模擬裁判については・・・大学の法学部では結構取り入れ

ている所も多いですよ。

例えば・・・・

東北大学模擬裁判.jpg

↑東北大学の模擬裁判 毎年テーマを決めて “ 公 演 ”しています。

( 画像引用:東北大学模擬裁判実行委員会 )


秋田大学ゲーミングシミュレーション授業2.jpg

↑こちらは秋田大学のゲーミングシミュレーション

( 画像引用:秋田大学のゲーミングシミュレーション授業 )

さすがに大学生ともなると ぐっと本格的になりますね。


さらに、最近では法務省から 裁判員制度をシミュレーションさせるための 教育用資料

も配布されています。但しこれは教師向け資料としてですが。




『 ソロモンの偽証 』では、中学生ですから もう少し簡略化されています。

あくまでも子どもたちによる 夏休みの課外活動としての模擬裁判だから。



重要な事は・・・こ の 裁 判 は「 勝 ち 負 け 」を 争 う も の で は あ り ま せ ん

裁判を通して 真 実 を 明 ら か に し て ゆ く ことが目的なのだから。


そんな裁判にリアリティを持たせる為には・・・前の 2巻分は 必要だったのかもしれません。

物語が少しずつ熱を持って進んで行き、裁判という形で決着がつけられる・・・

ワンステップずつ 証言を積み上げて行ってこそ 真実が見えてくる・・・



多くの登場人物を 各々の視点で語らせて、個性を浮かび上がらせ、からみ合わせて

物語を進行させる 宮部氏の技( わざ )には大いに感嘆しました。


     『ソロモンの偽証』

    第三部 法廷

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本722ページ


いよいよ「学校内裁判」が始まりました。裁判当日から 20日の閉廷の日までを

丸々1冊をこの裁判に費やして描かれています。

全3巻の作品の内、前の2巻がこの「裁判」の為の序章であったわけですね。



議論の応酬が続きます。

子どもたちは皆、おかしいほど 役割に忠実に「 演 じ て 」います。

一種のロールプレイング劇のように。

与えられた肩書きに忠実に。 判事は判事の、検事は検事の、廷吏は廷吏の・・・



これ、別に不思議な事ではないのですよ。

人間は 与えられた役割どおりの 人間に なっていきがちだから・・・

もちろん子どもたちであっても、ね。


初めの内は、読者的には これまでの巻で子ども達が知った事が改めて出てくるわけですから

特に目新しい事実はありませんでした。 後半になってから、それまで話の中にしか

登場しなかった人物・・・イブの夜、大手家を訪れた来客( 大出の父と共に逮捕 )

の関係者が 証人として登場し、大出の ア リ バ イ を 証 言 します。



大出としては 身の潔白を証明できたのですが、別の側面からは 改めて自身の行動を

突きつけられる結果ともなりました
。 それも自身の 弁護人から!



そして弁護人は・・・弁護人ではありますが、最終的には 別 の 役 割 に シ フ ト します。

カンの良いあなたなら、もう気付いていると思うけれど・・・



また 既読の方であるならば、自殺した卓也と背格好が似ている、雰囲気が似ている、

と何度か 描写が出て来ましたので ミスリードされる事もなく「 も し か し て ・・・? 」

と想像されていたかもしれません。



公衆電話から 何度も柏木家に電話をかけた謎の少年とは・・・物語の序章に

登場した人物が証言します。



第二部で、涼子の父親に 「 責 任 が あ る か ら 」とも述べていますから、単なる友人

なら、そこまで言うか? これは何かあるな・・・と 。

その意味では 作者はフェアでしたから。 その分 衝撃性は少ないかもしれません。




敢えて言ってしまいますが、この作品のミステリとしての 単純な結末は



名 探 偵 = 友 人 = 弁 護 人 = 証 人 = ( あ る 意 味 で )犯 人


↑↑こうなります↑↑




『 シンデレラの罠 』 ( by セバスチャン・ジャプリン)という古典ミステリを

思い出してしまいました。 実は、この作品の有名なキャッチフレーズが・・・・・


「 私は事件の 探 偵 であり、証 人 であり、被 害 者 であり、

そのうえ 犯 人 でもある。いったい私とは 何 者 か ? 」・・・なんですけれどね ww




しかし、犯人といってしまうのは 言い過ぎなので、敢えて 擬 似 犯 人 という表現に

しましょうね。 少なくとも、彼の「自白」には客観的な証拠・第三者の証言はありませんから



けれども、これでお終いではありません。 最後の最後に 地味などんでん返しがあります。

仕掛けたのは 野 田 健 一 ・・・

それ程のページ数も無いのに、見事な弁護をしました。




そうして、陪審員たちが出した結論とは・・・・・




・・・・・この物語を終始リードしたのは 主人公の涼子ですが、もう一人・副主人公

として活躍したのが 野田健一。



第一部では、彼自身が リ ア ル な 殺 人 者 になる 一歩手前まで行ってしまいました。

そして引き返して来れた。そんな彼だからこそ、「弁護人」の神原和彦に、自分と

同じような匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれませんね。




物語の最終章で・・・20年後、野田健一は 教師として母校に赴任してきます。

自分たちのひと夏の「 学校内裁判 」が伝説となった懐かしい母校に・・・・・



子どもたちの魂の成長文学としての『 ソロモンの偽証 』はこれで終わりますが、

成長したのは野田健一だけではありません。



例えば、脇役として登場した(涼子には少々軽んじられていた) 倉 田 ま り 子 ・・・

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あたし、どんな大人になってもいいから、大した大人にはなれないだろうけど、

それでも、あんな真っ暗な目をした 幽霊もどきにだけは なりたくない。

それが 倉田まり子の人生の目標だ。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★





そうして三宅樹里・・・検察側は 彼女の「偽証」を信じる所からスタート

せざるを得なかったのだけれど、彼女は、自分自身への独自の判決を下します

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── 一昨日、ニュースでね、逮捕された垣内美奈絵って人の顔写真を見たとき、

気がついたのだ。こんな顔を知っている。どこかで見たことがあると思った。

── それ、誰の顔かわかったのよ。

あたしの顔だ。樹里は思った。垣内美奈絵は、あたしにそっくりなんだ。

あれは 嘘つきの顔だ。嘘をついて他人を傷つけ、自分も傷つく人間の顔だ。

そして何もかも取り返しがつかないと、絶望している人間の顔だ。

──それがあたしの判決だよ、藤野さん。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★

「 嘘 を つ い て 他 人 を 傷 つ け 、 自 分 も 傷 つ く 人 間 」 ・・・

大出のような 不良ではないけれど、心に抱える闇は 深かった樹里。

わたし自身は、ずっと痛ましいような思いで彼女を見つめてきましたが、彼女自身が

自分に下した「 判決 」には救いを感じることが出来ました。



最後に・・・・・


『 ソロモンの偽証 』は宮部みゆきという作家にしか書けなかった作品だと思う。

また後日、書き足す事もあるかもしれないけれど、長くなりすぎるので今日は

この辺にしておきましょう。



あっ、もう一つ最後に・・・・・


人 は 役 割 に 応 じ た 人 間 に な る 」という件ですが、

「 T H E W A V E ウェイヴ 」 という ドイツ映画を 御存知でしょうか?


高校を舞台として、生徒たちに 独裁&全体主義の恐怖を身を以て教える為の 心理実験が

皆あまりにも役割に忠実な余り、たった5日間で制御不能なまでに暴走してしまうという

実話を基にしたサスペンス映画。


( 悪い意味で )役割を演じていたら本 物になってしまった恐怖を 描いた佳作でした。 

桐野 夏生が『 ソロモンの偽証 』を手がけたら こんな感じの作品になってしまうのではないかと www


トレイラーを貼っておきますので興味のある方はどうぞ(1分34秒)




posted by cat-of-many-tales at 04:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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