2013年05月22日

『 愛 に 乱 暴 』 ( by 吉田 修一)を 「 夫婦の日 」に読む


こんにちは、また来て下さってありがとう。毎月の22日は「夫婦の日」です。

それでは、一番最近に読んだこの本にしましょう!


はい 今日の 読書は 『 愛 に 乱 暴 』 by 吉田 修一


    愛に乱暴

    著者:吉田修一

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本 342ページ  


著者の 吉 田 修 一 氏 については3月21日にアクションスパイ物の『太 陽 は 動 か な い 』

を取り上げましたが、今回はいかにも吉田氏らしい作品です。ファンなら満足するはず?

私は、今回の作品は 人と人との「 つ な が り 」を希求した女性の せつない物語として読みました。


明るく愛の賛歌を謳い上げるのではなく、じくじくと湿気を帯びた生活感溢れる

吉田氏らしい作品
として・・・しかし、作品ごとにバージョンアップしていく氏の

力量は凄いよね。


ところで、この作品単行本の にはこう書かれていました。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

これは私の、私たちの愛のはずだった───

本当に騙したのは、妻か?夫か?  やがて、読者も騙される  狂乱の純愛

夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は不可解な衝動に突か

れて×××××を手に取った・・・・・・。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

うーむ・・・。こういう単行本の帯や 文庫本の裏表紙に書かれた粗筋紹介の文章は 編集

サイドの人間が書くのですが、的確に書けているのは極めて稀なんですけどね・・・

帯の別の所に「主人公・桃子は、あの<ボヴァリー夫人>のように愚かで、健気

で、孤独で美しい」という記述がありましたが・・・


主人公は、美しさはともかくとして ( だって、容姿の描写は無かったし、別の意味での

美しさといっても・・・)

愚かで健気で孤独ではある事は間違いないのですが、さらに付け加えれば「簡単に

人を信じてしまう」「人の言葉をありのまま受け取ってしまう」 「 人 の 言 葉 の 裏 に あ る も の を

考 え な い 」
というお人好しでもあるなあ。それも 愚 か というのでしょうが・・・

しかし、基本的には善人です。


<ボヴァリー夫人>をお読みになった方が 期待して読んでも がっかりするので御注意下さいね。

全く何の予備知識もなく、この帯の文句を読んだら 殺人事件で幕を閉じるミステリ

かと思ったりして・・・ 私は ××××× はもしかして凶器か?と思って読んだ程ですw


「愛に乱暴」というタイトルもインパクトがありますが、決して暴力的な小説ではありません。

残酷な描写は一切無いので御安心ください。 犯人探しのミステリでもありません。

扱うテーマは通俗的というか 普 遍 的 なものなので読みやすいですね。


ただ、帯に 「 読 者 も 騙 さ れ る 」 とあるように、この作品にはちょっとした 仕 掛 け

が施されています。ごく単純に、不倫相手に 夫を奪われた女の物語ともいえるのですが、

そのプロセスが非常に凝って計算されているのですよ



殆どの方は、途中で気がつくと思いますが、気がついた時点で あれ?と思い

最初からもう一度読み直したりして・・・。



この物語は 二 人 の 女 の 物 語 と し て ス タ ー ト します。


1:女 性 X の日記風ひとり言( 名前が明かされていません。また日付も不明 )

つらい不倫の恋をしています。葉 月という親友に相談もしたり・・・この親友は

不倫の恋には反対のようですね。

彼女の不倫の恋のお相手の男性は 初 瀬 さ ん といいます・・・・・


2:ヒロイン・初 瀬 桃 子 の三人称で語られる物語 & 桃子のひとり言

物語は、この桃子を中心にして進められていきます


結婚して8年目のミセスです。住んでいるのは東京近郊、夫の実家の敷地に建て

られた古い平屋・・・母屋には夫の両親が住んでいます。二人の間には 子 ど も は

い な い
ようです。義父母との関係はまあまあ安定していて、決して悪くはありません。

桃子の方もそれなりに気を遣っている様子が読者には分かります。

週に一度、前に勤務していた会社との関係から「手作り石鹸講座」の講師を務めています。



夫の名前は 初 瀬 真 守 、母親からはいまだに「マーくん」と呼ばれていますが、

夫婦仲は可もなく不可もなく。

ごく日常的な生活の様子が こまごまと語られて物語は進行して行きます。

ゴミ出しのこと、近所に新しく建ったアパートに住む若い男性、時々エサを貰いに

来る野良猫・・・登場人物のそれぞれの努力によって 家族関係が成立していることを

読者に知らせる為の描写が続きます。



また、最後まで読んで思ったことは、脇役ではあっても重要な意味を持つ登場人物がかなり早い

時期に既に登場している事に、吉田氏の上手さを感じました。



一見、平和な家庭・・・しかし、このまま穏やかには終わりません。

夫の出張を機に、どうやら浮気をしているのでは?と桃子は気づき始めます。



桃子中心の物語の 随所に挟まれている、名前の分からない女性X は夫の浮気相手なのか?

と思いながら読者は読み進めるでしょう。



しかも、単なる浮気にしてはちょっと深入りしていそうな・・・?

一緒に旅行に行ったりもして盛り上っているのですが、この女性X は、初 瀬 の 妻 を

心 の 中 で 非 難
しています。愛の無くなった結婚生活にしがみついているのは

おかしいんじゃない? 彼が愛しているのは 私の方なのに!・・・と。



義父・宗一郎が脳梗塞で倒れ 入院してから物語はピッチをあげます。

家の固定電話にかかってきた一本の無言電話。相手は何も言わないけれど、受話器の

向こうからはテレビの音と、聞き覚えのある男性の声が・・・

その夜に、夫から切り出されたのは「悪かった、ちゃんとするから・・・」


はて、何をどう「ちゃんと」する気なのでしょうね? 相手の女性と別れるつも

り? それとも桃子と別れるつもり?

この辺りで読者は夫の真守に対してイラッとするかな? のらりくらりと時間を

稼いで、相手の女性とも妻とも何とか上手くやっていくつもりなのか?とも思うでしょうね。

真守のキャラクタが上手く表現されています。



しかし、ここで決定的な事実が明らかになります。相手の女性Xがどうやら 妊 娠

したようで・・・真守は桃子に相手の女性に会って欲しいと伝えるのですが・・

この頃から 桃 子 は 精 神 的 に 追 い 詰 め ら れ て 行 き ま す



義父の親戚の女性から聞いた意外な事実・・・自分たちの済んでいる平屋は、かって

義祖父の愛人の女性が住んでいた事・・・さらに驚いたのは、義父はその愛人・時枝

が産んだ児である事・・・正妻さんに子どもが出来なかったので 引き取られて

育ったようですね。


もちろん、これは過去の話であり 今の桃子には何の関係も無いことです。

義祖父母も愛人・時枝も既に故人ですから。

しかし、この話は 桃 子 の 心 に 微 妙 に 影 響 し始めます。義母の不在時にこっそり母屋に

忍び込んでアルバムを調べ時枝の写真を探したり・・・さらに気になったのは

自分たちが住んでいる平屋の、普段使用していない六畳間のこと・・・疊の向きが

気になった桃子は、最後には疊を上げて床下までが気になってしまうのですが・・・



不倫相手の 女性Xの妊娠が 決定付けられたと同時に、真守の心も決まります

都内のレストランで夫と愛人の女性と会った桃子。桃子に対して頭を下げる二人。

しかし、桃子は納得できません。 

その夜から夫・真守は家に帰らず愛人の所に行ったまま。

もちろん、義母には本当のことを話せずに出張だと言いつくろったのですが・・・



さてさて、この 三 角 関 係 の 構 図 がどのように展開していくか想像がつきますか?

一番最後の結末を敢えて言ってしまいますが、桃子は一人になってしまいます。

多分、やり直す事になるのでしょうね、自分だけの人生を・・・。

しかし、希望はあります。ただ、その希望は真守と過ごす人生ではありません


この物語の面白さは、周到に計算された ギ ミ ッ ク にあります。

いわば、ミ ス テ リ 的 な 仕 掛 け といえば良いのでしょうね。カンの良い方なら未読

であっても気がつくかな?  しかし、別に気がつかなくとも良いわけでして。

物 語 の 第 1 3 章 (212ページ)になれば、分かる事だしねww


私もストーリーを追いながら読んでいて、漠然と引っかかるものは感じていましたが、

この212ページの「 ● ● の 日 記 」を見て、「そう来たか!」と納得しました。


この手法により、桃子の狂気じみた焦りや苦しみがストレートに( 且つ、じわじわと )

効果的に 読者の心に伝わった事でしょう。


愛情があって愛し合って結婚した夫婦・・・

納得しながらも「 騙 さ れ た 」と感じていた夫。

騙すつもりもなく、申し訳ないと思いながらも「 許 さ れ た 」と思っていた妻。


その結果がどうなったか、一つの形を見る思いでした。あなたはどう読むかしら?

さてさて、それでは今日はこの辺で・・・またね。



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posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(2) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
吉田修一は僕も好きですね。この作品も読みました。たしかに「う〜ん。そうきたか」でした。なかなかやってくれるじゃん、と思いました。
Posted by 椿山 滋 at 2014年05月10日 14:10
椿山 滋さまへ

ようこそ、そして コメントをありがとうございます。
吉田修一は作品により、バラツキは有るかもしれませんが
力量はたいしたものだと思います。
最新作の『怒り』は後半の失速気味がやや惜しまれますが
それでも、書き続けることの意味を感じさせてくれる作家ですよね。いわゆる”物語作家”で文学的な評価というか、読書家
の方には??かもしれませんが、良い意味での大衆作家とは斯くあるべし!と思わせられます。
Posted by cat-of-many-tales at 2014年05月10日 14:41
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