2013年05月09日

『 高 慢 と 偏 見 』 を 「 告白の日 」に 読む   by  ジェーン・オースティン


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。


5月9日は「告白の日」・・・「告白」と聞くと湊かなえ氏の『 告 白 』を真っ先に

思い浮かべてしまうかな?


しかし、今日の「告白の日」は 男性用化粧品ブランド “AXE” が、男性の恋愛を

応援する活動の一環として制定したものです。いわば「 愛 の 告 白 」の 日 ・・・?



お金持ちで 素敵な男性から 愛を告白され、いったんは断ったものの 人間性に優れて

誠実な彼は 自分の欠点も認めた上で 彼女を理解し 彼女の為に力を尽くし、

あきらめず再度 愛を告白・・・その頃には 二人の間の誤解も解けて 彼女も彼を

深く愛するようになっていて、障害にもめげずゴールイン! めでたし、めでたし!!



・・・・・まるで古典的な 少 女 漫 画 の よ う な お 話 かしら?



でも、この作品は 文豪・夏目漱石さえも絶賛した 世界文学史に残る大傑作 なのね。 

W・S・モームも『 世 界 の 十 大 小 説 』の中にこの作品を入れています。



はい 今日の読書は 『 高 慢 と 偏 見 』 by ジェーン・オースティン


    『 高慢と偏見 』 上・下 (←こちらは上巻)

    著者:ジェーン・オースティン

    訳者:中野康司

    出版社: 筑摩書房

    サイズ: 文庫 (上)360ページ (下)323ページ


『 自 負 と 偏 見 』とも訳されてます。( 原題:Pride and Prejudice )

版元は他に新潮社・岩波書店・光文社・河出書房新社など。



著者はジェーン・オースティン(1775〜1817)英国の、いや世界文学史上に残る女性作家。

イングランド南部の牧師の娘として生まれ、生涯に残した長編小説は6冊。


18世紀末から19世紀の 英国の田舎の中流社会を舞台に、女性主人公の結婚までの

生活を描いた作品群はどれも傑作と言えます。メインテーマは皆同じで、ヒロインが

愛する男性と出会い、紆余曲折を経て最後にめでたくゴールイン!
というハッピーエンド。

そう、オースティンの作品はみな 偉 大 な る 婚 活 小 説 なんですよ ww



・・・なんですが、そのパターンが全て違っているんですよね。

ヒロインのキャラクタも 家庭状況も異なっています。



恋愛小説というと、悲劇的なイメージも強いのですが オースティンの場合は・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

私には 歴史ロマンスも叙事詩も賭けません。まじめな歴史ロマンスを書かないと

絞首刑にするぞ、とでも言われないかぎり、そういうものを書く気にはなれません。

そして、 自 分 や 他 人 を 笑 う よ う な こ と を書いてはいけないと言われたら、

最初の一章も書き終えない内に 絞首刑にされた方がましだと思うことでしょう

★━━━━━━━━━【上巻・訳者あと書きより抜粋 】━━━━━━━━━━━★


↑はい、こういったキャラの持ち主でしたから、悲壮感ただよう重苦しい作品ではなく

ユ ー モ ア と 皮 肉 に 満 ち た ( でも愛情深い )作品群が生まれたのでしょうね。



また、牧師の娘ではあるのですが、登場する牧師たちは 結構辛辣に描かれているのも

特徴かな? 『 エ マ 』では、脇役の牧師夫妻を“ 俗物 ”と切り捨てていますし ww


『高慢と偏見』に登場する牧師は 完全にピエロとしての役割をww

例外は 『 マンスフィールド・パーク 』 でしょうか、こちらはヒロインの結婚相手

だからかな?



その中でも、映像化効果もあり、一番よく知られ人気が高いのが『高慢と偏見』

最初に書かれたのは1796〜1797年の間で、その時のタイトルは『 第 一 印 象 』

現在の形で出版されたのは1813年のことです。




ベネット家は 英国南部の田舎・ロングボーンの小地主です。

家族は両親の他に娘が5人。美人で心優しい長女のジェイン・理知的で活発な

次女のエリザベス(リジー)・器量が悪く内向的な三女メアリ・怒りっぽくて

下の妹の言いなりの四女キティ・陽気でおませな問題児 ww 末娘のリディア・・・

五人姉妹! さぞかし賑やかでしょうね ww



しかし、この一家には 大きな悩みがひとつあります。それは “ 相 続 ”のこと・・・



「 限定相続 」という形で、ベネット氏亡き後は この家を相続できるのは男子のみ!

(この時代、女子は相続できないという法律はありませんが、条件が付けられて

いる場合も多かったようですね)



単にお金が相続できないだけではなく、住んでいる家も家具も馬車や馬も領地も

殆ど全てのものが“財産”とみなされ、継ぐ事ができません。

ベネット氏にもしもの事があったら、家から出て行かなければならないのです。



なので、ベネット夫人の目標は何とかして 娘達を(お金持ち&紳士に)嫁がせること!


この時代、中流以上の階級の女性の自活など有り得なかったので

(例外的には、住み込みの家庭教師くらい?)

とにかく結婚!結婚!! 未婚女性のミッションは( 条件の良い )夫を得ること!!



女性は結婚しないと食べていけない、という時代でしたからね。 生涯未婚であるならば、

兄か弟に養ってもらうしかない惨めな境遇になってしまいます。 職業を持って独立するすべもなく

使用人として働くのは 下層階級の人々だけですから・・・



娘ばかりのベネット家の母親が、娘の結婚に目の色を変えて打ち込むのも

無理はないのです・・・




物語はベネット家の御近所に、お金持ちの独身男性ビングリー氏が引っ越して

来た時からスタートします。


舞踏会に現れた彼は 陽気で好感の持てる男性で、美しい長姉のジェインに一目惚れ?

彼の姉妹たちは お高くて田舎の人々を馬鹿にしている様子が伺えるのですが・・・



さらに、最悪だったのは同伴してきたビングリー氏の親友である男性・・・

年収が1万ポンド以上有る大地主で、名前はダーシー氏



彼の年収を 現代の貨幣価値に置き換えると約1億円位だそうです。

不機嫌そうにして、ろくにダンスもしようとしません。他の出席者からリジーとの

ダンスを勧められてもあっさりと( 権高な口調で )お断り・・・

その会話を聞いていたリジーも好い気持ちはしません。 最悪の第一印象 でした。



ビングリー家に招かれたジェインは熱を出して寝込んでしまい、心配したリジーも

看病かたがた ビングリー家に滞在します。滞在中にもダーシー氏と話す機会はあっても、

やはり高慢な態度は好きになれません。



その頃、ベネット家に、遠縁の コ リ ン ズ 氏 が訪問します。このコリンズ氏は

牧師で ベネット家の財産を相続する立場にある男性ですが、訪問の目的はベネット家の

娘達の内から 誰かを妻に迎えようとするためでした。



同じ頃、近くの町に国民軍の連隊が駐屯することになり、将校の一人とベネット家の

娘達が親しくなります。彼の名はウィッカム、ハンサムで社交的なイイ男。


しかも、ダーシー氏と古くからの知り合いらしいのですが、双方険悪な雰囲気が・・・???

ダーシーの為に 自分の将来の設計図を台無しにされたとリジーに告げるウィッカム。

リジーは益々ダーシー氏のことが嫌いになります・・・・・




この物語は全部で61章ありますが、大体ここまでで3分の1位かな?

登場人物は非常に多く、全部で 3 0 人 以 上 ・・・昔、初めてこの作品を読んだとき

忘れないように、名前をメモ書きして読んだものです。



ドラマティックな事件は これといって起らないのですが、この辺りまで読むと

面白くて止められなくなりました。



とにかく、登場人物の一人一人のキャラクタが生きているのです



理知的ではあっても皮肉なユーモアの持ち主であるベネット氏は、自分の( 特に下の w )

娘たちの事を「 我が国一番の 馬鹿娘 」と呼んだりもしますし、コリンズ牧師から

プロポーズされて断ったリジーに対しては


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

お母さんは、おまえがコリンズさんのプロポーズを断ったら、二度とおまえの顔

を見たくないと言っている。だがお父さんは、おまえがあんな男と結婚したら、

二度とおまえの顔を見たくない

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


・・・なーんて事を 言っちゃう人ですからね ww



また、ベネット氏から「あんな男」呼ばわりされるコリンズ氏も、

いまどきの表現をすれば「 超 キ モ イ 男 」 ww



リジーに結婚を断られると、今度はリジーの親友の シ ャ ー ロ ッ ト にプロポーズと

いう荒業をやってのけます。



20代の後半( 当時としては嫁き遅れ )になっていたシャーロットは 安定した暮らしと

家庭が欲しいだけの理由で あっさりとOKしてリジーを仰天させます。



さて、長姉ジェインとラブラブ状態だったビングリー氏でしたが、突然新しい家を

引き払って ロンドンに行ってしまいます。 その後は何の便りもなく、彼の妹の

キャロラインから ジェインに、兄は多分もう戻らないし、ダーシーの妹と結婚すれ

ばどうかと みんな思っています、というイヤミな手紙が・・・



しかし、何といっても一番読みごたえが有ったのは、主人公のリジーとダーシーの関係 でしょう。


ダーシーも初めは リジーをそれ程の美人でもないと思ってはいても 何度か会って

話をする内に、その機知に富んだセンス溢れる会話に段々魅かれていくように

なります。けれども、生来のプライドの高さから 無邪気に好意を表現できません

一大決心をして愛を打ち明けたのですが・・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

彼は実に雄弁に語ったが、愛以外にも告白することがあり、どちらかといえば、

プライドに関する告白のほうが雄弁だった。つまり、自分はあなたを愛している

が、身分も家柄も違うので、あきらめるべきではないかと悩み苦しんだというこ

とが、めんめんと述べられた。自分の立派な家柄を傷つけて結婚しようとしてい

るのだから、当然かもしれないが (後略)

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


いやいやいや・・・愛している、という告白のはずが、聞きようによっては

馬 鹿 に さ れ て い る と し か 思 え な い んですが ww




青天の霹靂とも言える 愛の告白をされたリジーはきっぱりと、かつ誇り高く

断ります。しかし、ダメ押しのように

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あなたの親戚の社会的地位の低さを、ぼくが喜ぶと思いますか?

自分より 階級の低い親戚ができることを、ぼくが喜ぶと思いますか?

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


ケンカ売ってんのか?!と怒りがこみ上げてくるようですね ww


確かに事実ではあるのですが、 英 国 の 階 級 社 会 の シ ビ ア さ (現代でも多分にあり)を

考えると やむを得ない面もありまして・・・



このダーシー氏の良さが 読者やリジーに分かってくるのは、このプローポーズを

断られてからになります。



末娘・リディアの駆け落ち騒動、ビングリー氏が戻り ジェインへのプロポーズ・・・

さまざまな出来事の後、リジーはダーシーの愛を受け入れることに・・・




この作品は200年以上前に書かれた作品 です。当時の社会や風俗など、現代とは

異なる部分もありますが、人 の 心 の 機 微 は 変 わ ら な い という事を再認識させて


くれた作品でした。燃え上がるような恋の結果の結婚ではなく、お互いに少しずつ

理解し合って行くさまが 好感が持てます。

この辺りは 極めて良質なラブ・コメディで、読後感がとても好かったな・・・




翻訳については、私が最初に読んだのは新潮社の中野好夫氏でしたが、最近では

各社から出版されていて それぞれ個性がありますね。

ちくま文庫で最近読み直しましたが、これが一番現代的で読みやすいかもしれません。


特に、この作品の書き出しは非常に有名 ですが 訳者によっても・・・・・



It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a

good fortune, must be in want of a wife.


金持ちの独身男性は みんな花嫁募集中にちがいない。

これは 世間一般に認められた真理である。

( ちくま文庫:中野康司訳 )




独身の男性で 財産にもめぐまれているというのであれば、どうしても

妻がなければならぬ、というのは、世のすべてがみとめる真理である

(河出文庫:阿部知二訳)



これだけニュアンスが違いますから。 岩波文庫は少々直訳っぽい感じがしたかな?

パブリックドメインですから、原文もすべてオンラインで読めますので、興味のある

英語に強い方は一読の価値があるかも?


http://www.gutenberg.org/files/1342/1342-h/1342-h.htm




この作品は2度映画化されていますが、映画よりも B B C の ド ラ マ 版 が 最 高 でした。

英国で放映中は、路上から人通りが絶えたといわれる程の出来映えでしたから。



BSでも放映されたそうで、ひょっとしたら あなたも御覧になったかな?

私は友人から借りて観たのですが、DVD2枚組み・5時間ぶっ通しで観ちゃいました 。

どうしても続きが観たくて止められなくて ww  原作を読んでいて 結末は知っているのにね。



その後は当然購入しましたとも! 原作に忠実で 役者さんが皆、演技が上手いんです

今でも折にふれ観て楽しんでいますから。



ああ、今日は随分長くなってしまいました・・・ではでは、この辺で終わりましょう。

またね。



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2013年05月03日

「 リカちゃんの誕生日 」に 読む 『 パーキィ・パットの日々 』 by  P・K・ディック


こんにちは、また来て下さってありがとう。



5月3日は「 憲法記念日 」ですが「 リカちゃんの誕生日 」でもあります ww


リカちゃん・・・はい、御存知「 リ カ ち ゃ ん 人 形 」のことです。彼女の誕生日は

5月3日に設定されています。 ちなみに永遠の小学校5年生、ね。


この「リカちゃん」は、ある有名な 外国の着せ替え人形をモデルにして生まれました。

分かりますよね? そう、マテル社の「 バ ー ビ ー 人 形 」です。

でね、このバービー人形にインスパイアされて書いた・・・という作品が・・・



はい 今日の 読書は 『 パーキ・パットの日々 』   by  P.K.ディック
パーキー・パット.jpg




パーキー・パットの日々(ディック傑作集1)

著者:フィリップ・K・ディック

出版社:早川書房

サイズ:ハヤカワ文庫410ページ


私が 所持しているのは上記のものですが、この版は 絶版になり 再編集されて

販売されているのが、こちらになります↓ 収録作品もかなり変更されています。


    ペイチェック (ディック作品集)

    著者:フィリップ・K・ディック

    訳者:浅倉久志

    出版社:早川書房

    サイズ:文庫575ページ



著者はディックです。フィリップ・キンドレッド・ディック( 1928〜1982 )

私自身の オ ー ル タ イ ム ベ ス ト に入るSF作家です。


敢えて言ってしまいますが、技巧的に優れた作家かというと・・・少し違うような・・・

当初、意味有り気に書かれていた伏線は 収拾されぬまま終わってしまったり、

ストリーが途中で 破綻して、わけが分からないまま 強引に終わりになって 唖然

とした事もあります ww  


しかし、他の追随を許さぬ 独 自 の 魅 力 は、ハマッてしまうと抜け出せない魅力が・・・


1963年に歴史改変SF『 高 い 城 の 男 』 でヒューゴー賞を、1975年に

『 流 れ よ 我 が 涙 、と 警 官 は 言 っ た 』 でキャンベラ賞を受賞

していますが、生涯不遇であり、経済的にも恵まれない状態が 長く続きましたから・・・



私生活では、5回 結婚して 5回 離婚・・・まあ、逃げられたといっていいのかも?
 

心臓の発作を起こして酸素テントの中に入っている時に、妻から 離婚届を突きつけられた

事もあったそうです。


ディック自身は、本 来 は 純 文 学 を 目 指 し て い た のですが、普通小説では認められず、

生活の為に 安っぽいパルプ雑誌に SFを発表していたとか・・・本人的には「ザ・ニューヨーカー」

のようなハイ・ブラウな文芸誌に 作品が掲載される事を望んでいたのかもしれません。

しかし、残された作品群は 単 な る S F の 枠 を 遥 か に 超 え た ものが多いのです。



ディックが 世界的に認められるきっかけになったのが・・・この映画です。


    ブレードランナー (ファイナルカット)

    主演:ハリソン・フォード

    監督:リドリー・スコット

    収録時間:117分



御存知 SF映画の 輝かしい金字塔です。『 ア ン ド ロ イ ド は 電 気 羊 の 夢 を 見 る か ?』を、

こういう形で 映画化した監督は凄い・・・ストーリィが 原作とはかなり違っていても、

間違いなくディックのエッセンスを感じさせる映画です。



近未来の 退廃的な映像の美しさ、やや難解ともいえる哲学的なストーリィ・・・


「 人間の意識を持ったアンドロイドと、人間とはどう違うのか? 自分は人間

だと思っているけれど 実はアンドロイドではないのか? 」 この映画は 幾つかの

バージョンもあり、様々に解釈されていますから、これが正しい!という答はないと思うな。



ディックを読み始めたのは、やはりこの映画を観てからかな。ディック作品が

数多く 翻訳され始めたのは、この映画のヒット以降ですしね。



しかし、ディック自身は 映画公開前に脳梗塞で死亡・・・

自身の栄光を知ることはありませんでした。



ディックの作品は 好き嫌いがハッキリ分かれている傾向があるかもしれません。

まともな常識からは遥かにブッ飛んだ作品が多いですからね ww



「 ほんもの 」と「 にせもの 」、 「 現 実 」と「 非 現 実 」が入り乱れて、悪夢の連続

のような物語が多いからかもしれません。悪夢から醒めてホッとしても、それもまた夢・・・


自分が覚醒しているのかどうか、自分でも分からない、周囲の風景すら

見ている間に どんどん変わって行く・・・



私の読書好きの友人(SFは嫌い)に言わせると「 悪酔いしそうな作品ばかりで、

ついて行けないところがある
」との事でしたが ww  言い得て妙ですね。



あとは、自分が自分であることの 確かさが崩壊して行くような感覚・・・

現 実 崩 壊 感 覚 とでも言えば良いのでしょうか、足元が揺らぐような・・・確か

に“ あ る ”と思って信じていたものが 、実は“ な い ”・・・ 


そうですね、あなた自身に例えてみましょうか? 仮に既婚者だとして・・・


日曜日に あなたは近所のスーパーにお買物に行きます。買物を済ませて家に戻ると・・・

確かに 自分の家で 夫も子どももいるのに、あなたを知らない人だと言う


えっ? からかわれているのかと思いましたが、そうではない。終いには

精神病院に電話するぞ、と怒鳴られて 家から追い出されてしまう。そんな馬鹿な!

と思いますが、近所の人たちも同じで誰も自分の事を知らないと言う


実家に電話しても、母親はこの家にはそんな娘はいないと言う・・・その内、

理由も分からぬ内に 警察に逮捕されて延々と取調べを受け、自分が実は犯罪者

であると知らされる・・・



そんな馬鹿な! 自分はとんでもない世界に迷い込んでしまったのか?



それとも単に自分の記憶違いなのか? 自分が 本当は 誰 な の か 分からなくなって

しまう・・・自分が自分である事を 証明するものが何も無い・・・


まあ、こんな悪夢のような世界( 中国の説話「 胡蝶の夢 」みたいですが )が

ディック作品にはよくあるのですよ。現実と悪夢の境目が曖昧になってくる、

自分が 確かだと思っていたものが 音を立てて崩れて行く・・・そんな感覚。



また、文学の一大テーマに「 人 間 と は 何 か ? 」というのが有りますよね?

ディックの場合は「 人 間 と は 何 か ? と 考 え る 自 分 は 本 当 に 人 間 な の か ?

「 自分は人間であると思っているが、それは証明できるのか?」「偽者だとしたら、本物とは

どう違うのか?」という領域まで踏み込んでいきます。



『 アンドロイドは電気羊〜 』を映画化した『ブレードランナー』は、この点を

明確なテーマとして打ち出して成功したと言えるでしょうね。



ディック作品にはヒーローがいません。『 トータル・リコール 』以降の映画化作品は、

商業的エンターティメントの スター主義で売っていますから、その点では物足りない

ところも多いのですが。 ただ、映画化がきっかけでディック作品に関心を持つ人が

増えれば、ファンとしては嬉しいですし。



また、ディック作品でバラ色の未来が描かれたものは・・・何も無いなあ・・・

むしろ、こんな世界には住みたくないと思わせる状況が舞台 になっているものが多い。

今日、お話する作品にしても・・・


パーキー・パットの日々

近未来・・・核戦争後の 荒廃した地球が舞台です。

生き残った人々は 放射能を避けて地下に住み続けています。そして、現実の苦しみから

逃れるために夢中になっているのは、お人形のパーキー・パットを使った遊び。

数人でグループを作り、つかの間ですが、過ぎ去った日々をパーキー・パットに

託して遊びます。ゲームとしては、一種のシミュレーション&すごろくの 人 生 ゲ ー ム ・・・?


それは 過ぎ去った恵まれた日々そのもの。 決して戻ることの出来ない世界。

人形の他には、商店街や街路・住宅の模型、パーキー・パットの住んでいる豪

華な部屋、クローゼット、沢山の衣裳、オーディオセット・・・・・

すべては 失 わ れ た 過 去 の 暮 ら し です。


ある時、近隣ブロック地区では パーキー・パットとは違うタイプの コニーという人形を

使用している事を知り、お互いに人形を賭けて勝負が始まります・・・

( 個人的には )大傑作の『 パ ー マ ー ・ エ ル ド リ ッ チ の 三 つ の 聖 痕 』の原形作品。




変 種 第 二 号】=【人間狩り】 

※注意「ちくま文庫」では『人間狩り』と訳されています。


ディック作品の中ではよく知られているのではないでしょうか?

非常に良く出来た作品で、ディックの 初 期 短 編 の 代 表 作 といって良いと思う。


東西冷戦下に書かれた作品なので、敵国がソ連になっています。地球は連合国

と共産国家との二大対立で荒廃した戦闘状況が続く中、それぞれの陣営が作っ

兵 器 が 勝 手 に 進 化 を遂げてしまい人間を襲うようになります。

最終的には、その兵器が 人 間 そ っ く り の姿にまで進化してしまい・・・・


分かりやすくてテーマが明確で、上手いオチの有る作品です。

「スクリーマーズ」という名で映画化されています。地味で余り話題にならな

かったけれど、ディック原作には比較的忠実な佳作映画でした。


ちなみに、この『変種第二号』は光文社の 宮 部 み ゆ き 氏が編んだアンソロジー

『 贈 る 物 語 terror み ん な 怖 い 話 が 大 好 き 』 の第五章“ 生者の恐怖と悲しみと ”

にも収録されています。




報 酬】=【ペイチェック

技師のジェニングズは 高額の報酬で仕事を請け負いましたが、機密を守る為に

業務終了後は 記憶が消される約束でした。しかし、2年間の仕事を終えて渡された報酬は、

役にも立たないようなガラクタばかり・・!!


ジェニングズ自身が希望した物だから、と告げられます。

・・・コード・キー、チケットの半券、小包の預り証、細い針金が少々、2つ

に割れたポーカーチップの片方、細長い緑色の布きれ、等々・・・

なぜ自分はこんな物を望んだのか?おまけに、いきなり警察に追われる身になり・・・・・

「ペイチェック」という名でジョン・ウー監督により映画化。




に せ も の

分かりやすいワン・テーマ作品。自分は人間なのか?それとも外宇宙人が送り

込んだスパイなのか?・・・最後のオチがなんとも・・・




植 民 地

星 新 一 風 の 味 わ いのある短編。一種のアィデアストーリーですが、「本物」と

「偽物」の混乱がテーマになっています。




た そ が れ の 朝 食

タイムスリップ物です。平和な一家がある朝に突然、7年後の世界に タ イ ム ス リ ッ プ

してしまいます。世界大戦の最中らしく 家の周囲は荒廃しきった世界が。


敵国の 新兵器爆弾の威力で 時間軸がずれて跳ばされてしまったらしいのですが

この世界で生きて行くのか?それとも、残って次の爆弾を浴びれば再び戻れる

可能性もあるらしいのですが・・・小松左京に似た短編があったと思うけど、

ディックの方が救いが無いなあ・・・




フォスター、おまえ、死んでるところだぞ

シェルターを巡る物語。 東西冷戦下の社会では、シェルターが「一家に一台」

が常識になってる世界です。単なる防御機器ではなく少年の「ロマン」の象徴

になっているところが好き、かな。




以上、旧版収録の作品について少々思うことなど・・・


最後に、作品中に収められているジョン・ブラナー(SF作家)の言葉を引用して

今日は終わりにしましょうね。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

断っておくが、ディックの世界は けっして人好きのするものではない。

たいていの場合、その世界はさびれ果てている(中略)

そう、それはけっして 快適な世界でも、魅力ある世界でもない


その結果、とつじょとしてその世界の正体に気づいたとき、読者は非常な混乱

を味わうことになる──それは我々みんなが住んでいる世界なのだ。(中略)

とはいえ…とはいえ、なにかが違う。なぜなら、そ の 世 界 を 我 々 に 見 せ て い る

視 点 そ の も の が 独 特
だからである。

それは、他の誰でもない、ミスター・ディック独特の視点なのだ。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★



ええ、その通り。 私は・・・あなたも?・・・読書の楽しみを味わうのは

作家たちの独特の視点を味わいたいからなの。自分の視点とは別の、ね

だからこそ・・・物語は無限にあるはず。 そう思って今日も 読書さ www

それでは、またね・・・。




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2013年05月01日

「メーデー( 五月祭 )」に 読む 『 川の ほとりの おもしろ荘 』 by リンドグレーン


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


5月1日といえば・・・「 メーデー May Day 」ですが、本来はヨーロッパの

五 月 祭 」からきています。 ヨーロッパ各地の、キリスト教伝来以前に

さかのぼる、春 の 訪 れ を 祝 う 祝 日 です。 その 前 夜 祭 が ヴァルプルギスの夜・・・。



本来は、北欧神話の主神 オーディンがルーン文字の 知識を得る為に 一度死んだ日

であり、スウェーデンでは 聖女ヴァルプルギスを祝う日(5月1日)の前夜祭として

夕方から 大きな焚き火に火をつけ、その周りで 歌を歌いながら 春を迎える行事があります。


↓ ↓ そう、こんな感じでね ↓ ↓

おもしろ荘1.bmp

( 映像引用:「川のほとりのおもしろ荘」DVDより ) 


そうして、みんなで「五月火」と呼ばれる 焚き火を囲んで歌います。

「おお、晴れやかに、五月の太陽が微笑む!」 そう、北欧の五月は 春の訪れの日!


それでは、この五月祭の前夜祭から始まる物語を・・・・・



はい 今日の 読書は 『 川のほとりのおもしろ荘 』  by リンドグレーン


    川のほとりのおもしろ荘

    著者:アストリッド・リンドグレーン

    訳者:石井登志子

    出版社:岩波書店

    サイズ:岩波少年文庫380ページ



著者は アストリッド・リンドグレーン( 1907〜2002 )スウェーデンの有名な

児童文学者で、あなたもよく御存知だと思います。『 長くつ下のピッピ 』の

シリーズ、『 ロッタちゃん 』のシリーズ、『 やかまし村の子どもたち 』・・・

スウェーデンの 国民作家といっても良いでしょうね。



小学生の頃、初めて読んだのが 孤児のラスムスと 風来坊のオスカルを 主人公にした

さすらいの孤児ラスムス 』そして『 名探偵カッレくん 』など・・・


『 川のほとりのおもしろ荘 』は『 おもしろ荘の子どもたち 』の続編になります。

子ども時代ではなく、実際に読んだのはオトナになってからです。


きっかけは、映画DVDの映像が 余りにも美しかったからですが、

子ども時代に読む 子ども向けの本・・・ではなく、完全にオトナになってから

読んでみると、多分 昔の自分なら気がつかない事などが いろいろと見えてきますね・・・


さて、『 川のほとりの〜 』の舞台は、リンドグレーンの故郷である 南スウェーデンの小さな町。

主人公の女の子の名前は マディケン 。7歳です。川のほとりにある「おもしろ荘」と

名付けられたお家にパパとママ、そして妹のリサベット、住み込みの

美人の女中さんアルバと一緒に住んでいます。



このお話は 5月祭の前夜祭の朝、マディケンが目覚めたときから始まり、

翌年の前夜祭の夜でおしまいになります。マディケンの1年間の物語・・・。



これといってドラマティックな事件が起るわけではありません。

時代的には100年ぐらい前でしょうか。 ( 日本で言えば明治時代かな? )


マディケンのパパは新聞記者で、暮らしぶりを見ると中産階級の それなりに

恵まれた家庭。両親ともに、この時代にしてはかなり リベラルな考えの

持ち主でしょうね。物語を読み進む内に段々と分かって来るのですが・・・



おしゃまで口が達者な妹のリサベットは、まだ学齢前だと思われますが この姉妹、

典型的な「 姉 」と「 妹 」タイプなんですよね。 妹のリサベットは末っ子の

せいか甘えん坊でチョットわがまま。わざと汚い言葉を使って オトナを困

らせたりもします。でも、お姉ちゃんのことは大好きで、ママに赤ちゃん

が生まれる事を知ると、マディケンに 弟でも妹でもいいけど 私以上には

可愛がらないで欲しい
とお願いします。

おもしろ荘4.jpg

( 映像引用:「川のほとりのおもしろ荘」DVDより 向かって左がマディケン、右がリサベット)


お隣の「きらく荘」と名付けられた 小さな家に住んでいるのは ネルソン一家

おじさんは・・・何をしている人かよく分かりません ww いつも機嫌良く酔っ払って

哲学的な事を 言ったりしている姿はよく見るのですが。



家族の生計は、主に15歳になる ひとり息子の アッベ がクリングラという

クッキーを焼き、おばさんが市場で売っています。生活は・・苦しそう。



そして、マディケンは・・・ア ッ ベ の こ と が 大 好 き ・・・・・!!



お兄ちゃん的に好き、というよりも、幼いながらもそれは まさしく“ ”そのもの。

もちろん、アッベの方はそう思ってはいないでしょう。 お隣の 可愛い小さな女の子で

自分に懐いてくれているから 可愛がっている・・・という感じかな?

少なくとも 今のところは。



映画では、この 微 妙 な 空 気 感 が見事に演出されていました。



マディケンが、ネルソン家の台所に入っていきます。

そこではアッベが、いつものようにクリングラを作っている真っ最中。

マディケンに気づいたアッベは、軽く挨拶をします。


もう、それだけで マディケンは嬉しくなってしまったのか、口元には

隠しきれないほどの 微笑が・・・


粉を練っているアッベのすぐ傍まで近寄り、じっとアッベを見つめるマディケン。


「ん?」とばかりに、マディケンの視線に気づいたアッベは 「はい!」と言って

焼きあがったばかりのクリングラをマディケンに与えます。


( お菓子が欲しいのかな? )とでも思ったのでしょうね。


でも、マディケンはお菓子が目当てではなく、ただアッベを 見 つ め て い た い だ け

なんですが ww


一瞬、虚をつかれたようになって お菓子を受け取ったものの、傍らの

椅子に腰掛けて、すぐには食べずに 相変わらずじっとアッベを見つめるマディケン・・・


好きよ、などと言う セリフは一言もないのに 恋する想いが伝わって来る

さりげなくて可愛らしいシーンでした。



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じつは、マディケンは ほかのだれでもないアッベと結婚しようと、

ひそかに 心のどこかできめています。アッベがしたくなくともかまいません。

そのときは、ほかのだれとも結婚しないだけです。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━★



けれども・・・マディケンの望みは、多分かなえられないでしょう。

いま、オトナである自分には、それがはっきりと分かるような気がします。



現代ならばともかく、階級差・貧富の差が・・・あり過ぎるから。

また、気持ちが変わることも有ると思うしね。


けれども、そんな事は別にかまわないのです。幸いにして、この物語には

続編がありませんからね。

マディケンの心は、この 物 語 の 中 で 結 晶 化 さ れ て、永 遠 に 美 し い ま ま 残 る

のですから。



アッベが 重い肺炎を患ったとき、マディケンは必死に神さまにお祈りします。

胸の奥に 痛みを抱えたマディケンは、もしアッベが死んでしまったら、

この痛みは一生続くのだろうかと考えます。


苦しんでいるおじさんや おばさんのために そして大きくなったら シベリア横断鉄道に

乗りたい・北極探検にも行きたいと望んでいるアッベの為に。


アッベに、クリングラを焼く事以外のことをさせてあげたいと思い、祈ります。

そうして、最後に「それと、わたしのためにも生かしてください」・・・・


わ た し の た め に も 生 か し て く だ さ い ・・・・・


幼いながらも、人を愛する気持ちとは どんなものなのか、出来の悪い 恋愛小説よりも

はるかに リアルに切実に分からせてくれるエピソードでした。



もちろん、アッベのことだけではありません。マディケンの周囲の様々な

人たちの事が語られていて、その中でも重要人物 ww と言えるのが級友の

ミ イ ア です。



ミイアには お父さんがいません。 頭はいつもシラミだらけで 態度も反抗的。

「 あたしらは、貧乏だから お父さんを持とうとは考えていません! 」なんて言ったりして・・・


お家が貧しいせいか、お昼のお弁当も持って来られません。気づいた

マディケンが自分のサンドイッチを差し出しても 絶対に受け取りません。


悪い事をしても、素直に「ごめんなさい」と言えないタイプです。

気の強さではマディケンとはいい勝負なので、ケンカはしょっちゅうですが

実は マディケンの事は 子どもなりに認めています。


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じっさい あんたは おすまし屋さんじゃない。

いくら そんな茶色のきれいな髪をしていても、いい服を着ていても。

★━━━━━━━━━━━━【 一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★


こんなミイアとマディケンの、子ども同士の 意地の張っこが懐かしいような

筆致で綴られています。

ああ、そういえば・・・子どもの頃ってそうだったなあ、など 忘 れ て し ま っ た 気 持 ち

戻ってくるような・・・



この物語は、明るい 子ども向けの お話ではありますが、おや?と思う程

社会派(?!)的な面がさりげなく語られていたりもします。



リンドグレーン自身が 教員経験もあり、社会思想家のエレン・ケイとも

交友があったので、その影響があったのでしょうね。


読んだのが 子どもの頃であるならば、気がつく事はなかったでしょうが・・・



もし、あなたが未読であれば、一度は読んで欲しい作品の一冊です。

映画化されてDVDも発売されているのですが、残念ながら今はずっと

品切れ状態・・・私も入手したのはオークションでした。



北欧の子ども映画って、映像が綺麗で 独特の美しさがあるものが多いのですが、

似たようなテイストだと 『 ヘイフラワーとキルトシュー 』 が良かったかな?

 

これは フィンランドの 現代映画で、しっかり者の お姉ちゃんと 超わがままな ww 妹の物語。 

両親は どちらもダメ親 ww というのが何とも笑えました。

明るくて楽しくてポップで・・・少々 ビ タ ー な 味 わ い も・・・。


さてさて・・・今日はこれでお終いにしましょう。

またね。


posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 海外の小説・その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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