2013年05月15日

 『 手のひらの砂漠 』 ( by 唯川 恵 ) を   「 国際家族デー 」に 読む


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。


5月15日は「国際家族デー」です。 1993年(平成5年)国連総会で制定されました。

家族の日? それならば 明るくてファミリアルな物語を・・・と思ったのですが

丁度いま 読み終えた作品がありまして・・家族の物語ではあっても、扱うテーマ

ドメスティック・バイオレンス( D V )&ストーカーではありますが・・・



はい 今日の 読書は 『 手のひらの 砂漠 』 by 唯川 恵


    手のひらの砂漠

    著者:唯川 恵

    出版社:集英社

    サイズ:単行本 339ページ



最初にお断りしておきます。

もしも・・・あなたがDV被害に遭ったことがあり、まだ心が回復していないの

ならば、この作品は読まない方が良いかもしれません。受けた暴力や心の痛みが

生々しくフラッシュバックすると いけないから・・・ましてや、この作品の ラ ス ト を考えると、ね。



家庭に於ける暴力シーンは、いわゆるアクション物やクライムノベルの暴力シー

ンとは意味が全く違います。アクション小説の暴力シーンは、様式美みたいな

「お約束」なので、現実味の無い“作り物”として受け止められるからね。


けれども・・・家庭の中での、しかも 夫から妻への一方的な暴力というのは・・・

本来、安住・安楽の象徴のはずの“ 家庭・家族 ”からの暴力は受け止め方が全く

違いますからね・・・一応は御注意を。



さて、著者の唯川 恵氏は、あなたもよく御存知の人気作家。1984年少女小説の

コバルト・ノベル大賞を受賞、2001年『 肩ごしの恋人 』で直木賞、2008年には『 愛に似たもの 』

で 柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞。 人気・実力ともに有る方ですね。



私は この方の初期作品は余り好みではなく、まともに読み始めたのは『 セシルのもくろみ 』

以降でしょうか。ミセス向けの読者モデルの世界がテーマになっており、

綺麗事ではないけれど 読後感も潔いものがありました。


その後の『 ティティスの逆鱗 』 は美容整形をテーマにした、凄みのある、完成さ

れた作品でしたね。 ラストは完全にホラーでしたが ww

単なる恋愛小説から突き抜けた感があるというか、作家としてバージョンアップ

したなと感じたものです。




さて、本作『手のひらの砂漠』ですが・・・このタイトルは象徴的ですね。

手のひらの意味するものは何でしょう? 家庭? 穏やかな生活? それとも?


これまでの唯川氏の作品とは かなり異なる作風ではありますが、私はこの作品を

高く評価したいと思います。 新 刊 で は 、今 年 度 上 半 期 の ベ ス ト 1 ですね。

恋愛小説を期待したファンの方は驚かれるかもしれませんが・・・




この物語は、主人公が夫と住んでいるマンションの一室から脱出するシーンから始まります。

えっ? “ 脱 出 ”って?  不思議に思われましたか。

誘拐されて閉じ込められたわけでもない、自分の家から“ 脱出 ”?


■ 第一章 ■ シェルター


ヒロイン・可穂子は29歳。大学卒業後、派遣で働いている会社で知り合った

永尾雄二と結婚して1年余り・・・真面目で穏健で誠実な雄二からのプロポーズを

受けて、新婚3ヶ月位までは穏やかに過ごしました。


けれども、少しずつ雄二からの 常 軌 を 逸 し た 束 縛 が始まります。

実家の母や 友人と携帯で話しても嫌がるようになり、物を投げつけるようになり

ささいな事で「僕を馬鹿にするのか!」と怒り出し殴る蹴るの暴力が・・・我に

返ると悪かったと言って泣いてあやまるのですが・・・


しかし、 暴 力 は エ ス カ レ ー ト 、ついに流産してしまった可穂子。

それでも、夫の暴力は止まず、だんだん 可 穂 子 の 気 持 ち も マ ヒ す る よ う に なります。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

悪いのは私だ、夫を苛立たせないように努力が足りないから。 彼が私を殴るのは

愛しているからだ、 雄二には私しかいないのだから・・・

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

はい、これが D V 被 害 者 の 特 徴 なんですよ。 自 分 を 責 め て し ま う のよ!


結婚に失敗したと思いたくない可穂子は、自分にそう言い聞かせるようになり、

どんなにひどい目に会っても 夫のせいとは誰にもいません



しかし・・・殺されるのではないかと思われるような暴力を受けたとき、可穂子は

身一つで 深夜 近所の交番に駆け込みます・・・そうして入院。


治療を受けた病院から紹介されたのは、配偶者から暴力を受けた女性が 一時身を

寄せる事のできる「シェルター」でした。


離婚を決意しても、夫は自分の暴力を認めず、可穂子の自傷である、もう一度やり

直したいと主張、逆に可穂子を殺そうとまでします。


シェルターの責任者・国子から弁護士の伏見玲子を紹介され離婚の手続きに入る

可穂子・・・

その後、可穂子はシェルターを出て次の段階の「長期自立支援施設」である

ステップハウス」に移りました。



雄二は 協議離婚に応じようとはせず、可穂子の写真・名前・実家の住所や 電話番号を

ネットのアダルトサイトに投稿する嫌がらせまで始めます。


玲子の尽力で離婚が成立したのは、雄二には かって交際していた女性に暴力をふ

るい書類送検されていた事実
が分かったからです。



何とかお金を稼ぐ方法をと考えてパートの面接に行っても、男性のちょっとした

声にすら恐怖感が沸き起こるようになっているので 到底外で働くことはできませんでした。



そんな可穂子が辛うじて安住の地を得たと思ったのは、ステップハウスに

無農薬の有機野菜を配達している「えるあみファーム」という 小 さ な 農 園 でした。

配達に来る真美に誘われて 初めて遊びに行き、歓待されてその後も手伝いに行く

内に 受け入られるようになり、住み込んで働く事を決意します。



■ 第二章 ■ ファーム


「えるあみファーム」は、リーダー格の浅井裕子(祐ママ)を始めとする6人の

女性たちの運営する 独立採算制の小さな農園です。


この農園の女性たちは皆、過去に可穂子と同じような経験をしていました

娘をストーカー男にガソリンで焼き殺された 祐ママを始めとして、夫 か ら の 暴 力

父 親 か ら の 暴 力 から逃れて、この小さなファームで身を寄せ合って生きているのです。



農作業を頑張る可穂子。その内にファームにもメンバーの変動がありました。

実家に戻ったり、20歳になったのを潮時に 独立して他で住み込みで働くことになったり・・・

そうして、突然助けてくれと言って飛び込んできた由樹・・・


しかし恋人の暴力から逃れてきたという由樹は 素行にいろいろと問題があり

ファームの和を乱すことが多く、祐ママから出て行ってくれと告げられると

開き直って祐ママの過去を暴きたてます


かって、娘を殺した男が出所してから 更新した免許証が祐ママの荷物にあったことを楯にして・・・

その結果、祐ママは警察に自首をすることに・・・



■ 第三章 ■ ベーカリー


それから2年後。

可穂子は千葉のベーカリーに勤めながら パ ン を 焼 く 修 行 を始めます。

アレルギー対策の米粉のパンを提案し、充実した日々を過ごしていました。


そうして、バツイチ・男手ひとつで娘の杏奈を育てている伊原との出会い・・・

それは可穂子にとって希望ともいえる出会いでした。過去のことも全て話し理解

してくれた伊原と結婚を決めます。


・・・これで、めでたし、めでたし・・・とはなりませんでした(涙)



客として目の前に現れたのは、別 れ た は ず の 雄 二 でした。

自分が悪かった、許してくれと立ち去って行く雄二に不安は覚えたものの・・・



伊原とは、入籍は後にして 一緒に住み始めたのですが、アレルギーのある杏奈が 

貰ったラスクを食べて アナフラシキーショックで病院に運ばれる事件が起きます。

「ママと仲の良いお友だちがくれた」と言う杏奈・・・



疑いながらも、信じたい気持ちもあり、弁護士の玲子に相談をします。

以前、雄二が暴力を振るったという女性に、その後もつきまとってはいないか

確認をしてもらいたかったからですが、結果は驚くべきものでした。



その女性は行方不明のままになっていたからです。 家族から捜索願が出されて

15年間、行方不明のまま・・・両親は雄二を疑って警察にも相談しましたが何の

証拠も無いので手出しも出来ず。



・・・これは、何を意味するのでしょうね?



★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

可穂子はあの目を思い出す。人間のものではない、動物でもない、生き物ですら

ない、むしろ冴え冴えと澄み切ったようにさえ見える目。

雄二は何も変わっていない。昔のままだ。そして何も終わってはいないことを、

今、可穂子ははっきりと理解する。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


自分が伊原や杏奈と一緒にいる限り、雄二は何をしでかすか分からない・・・

可穂子は、いったんは掴みかけた幸福を手放さざるを得ませんでした。

モノになりかけた仕事も辞めて、可穂子が次に逃げ出す所といえば・・・



■ 第四章 ■ ホーム


可穂子が身を寄せたのは、元「えるあみファーム」のメンバーと仮出所できた

祐ママたちが農園を運営している群馬県下仁田の小さな村です。


ここで可穂子は身につけたパン焼き技術を活かして、石窯焼きの米粉パンを造り

ドライブインに卸して稼ぐ事も始めました。束の間の平和・・・


別れた伊原は一度だけ会いましたが、やはり雄二からの悪質な嫌がらせがあり、

勤めを辞めて実家に戻る事にしたとの事・・・。



どこまでも執念深い雄二に又見つかったら・・という思いから 可穂子は 偶然知り合った

老婦人から護身術としての 合 気 道 を習い始めたりもします。



そうして、ついに・・・・・ドライブインのオーナーが宣伝のためにHPに載せてくれた

可穂子の 写真や名前から 居場所を探し出されてしまったのです。



笑いながら「 僕 た ち の 家 に 一 緒 に 帰 ろ う 」という雄二の不気味さは

言うまでもありませんが、ここで可穂子は 決 意 をします。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

いつかこの日が来るのは覚悟していました。 たとえ今逃げたとしても、あの人は

また必ず追ってくる。 その繰り返しになるだけです。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


その通り・・・雄二の異常さはもう充分に分かっているはずですから、例え警察に

訴え出ても、現状事件ではないし、接見禁止命令に違反したところで微罪でまた

戻ってこられるのだから・・・



そうして、再び 逃げ出したマンションに戻り雄二と一緒に暮らし始めた可穂子。

部屋は何もかも昔のままにしてあり、それが異常さを より際立たせています

可穂子はソファで寝ながら、雄二の様子を伺いますが、しばらくの間は無事でした。



考えた挙句、自分に何かあった場合の事を考えて、両 親 宛 の 詫 び の 手 紙 を弁護士の

玲子に託します。 両親が、この手紙を受け取る時は、自分は既に雄二に殺され

ているだろうと考えて
・・・



そうして一週間後・・・カップを割ったことがきっかけで雄二の怒りが爆発します。

「 殺してやる! 」と叫び アイアンを持って可穂子に襲い掛かる雄二。



そうして、可穂子は・・・・・まあ、これ以上は書かない方が良いでしょうね。



可 穂 子 の 取 っ た 手 段 が、良いのか悪いのか、私には判断がつかないから・・・

しかし、もしも私が可穂子であったならば・・・可穂子と同じ事をしていたかもしれません



最終的には、正当防衛が認められて 可穂子は自由の身になる事ができました。

もうその頃には、伊原は前妻とよりが戻って仲良く親子で暮らし始めていたので

可穂子は一人で、再び、群馬・下仁田のホームに戻るところで 物語は終わります。



ひょっとしたら・・・可穂子の取った方法は 間違っているのかもしれません。

けれども、無責任な評論家のように 彼 女 を 断 罪 す る 気 持 ち は 全 く あ り ま せ ん



最後に・・・可穂子の言葉を 載せて 今日は終わりにしましょうね。 長かった?

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

確かに、どんな人間でも命の重さは同じ、生きている価値が必ずあるのかもしれない。

でも、そんなことを言えるのは、死ぬほどの恐怖を味わったことがない人間だからよ

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


ああ、今日は随分長くなってしまいましたね。 それでは、またね・・・・。




posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月14日

『 黄金を抱いて翔べ 』 を 「ゴールドデー」に 読む   by  高村 薫


こんにちは、また来て下さってありがとう。


5月14日は「ゴールドデー」って・・・実は 金・黄金のゴールドではなく

ゴールドキーウィを贈る日 」らしいのですが、 しかし それではピッタリの作品が 無いので ww

素直に(!) 黄 金 と解釈しましょう。そう、 金の延べ棒 とか、ね・・・


はい 今日の 読書は 『 黄金を抱いて翔べ 』 by  高村 薫


    黄金を抱いて翔べ

    著者:高村 薫

    出版社:新潮社

    サイズ:文庫 358ページ


著者は あなたもよく御存知の高村薫氏。 1990年、本作で日本推理サスペンス大賞

を受賞してデビュー、その後は 『リヴィエラを撃て』 で日本推理作家協会賞&日本

冒険小説協会賞を受賞。1993年 『 マークスの山 』で直木賞を受賞、一般的によく

知られるようになったのは『マークス〜』以来かなあ。 実は私も 氏の作品に初めて接したのは

この作品からです。


以降、 『 レディ・ジョーカー 』 『 新リア王 』 『 冷血 』 と、代表作に迷うような作家に

成長されました。 決して多作とはいえないのですが 私的には「代表作は何かと考えても、

有り過ぎて迷う」作家は 本当に実力のある方だと考えています。



『 黄金を抱いて翔べ 』は、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)です。 

正義の味方 なーんて野暮な男は一人も出てきません。 いわゆる “ 強 奪 も の ”ジャンルに属し

クライム・アクションといっても良いかな? 



金塊の強奪をテーマにした映画 『 大列車強盗 』や、ハリウッド映画のラスベガス

の金庫破りを描いた 『 オーシャンズ11 』 を思い起こす方もいるかも?



しかし、この作品には ハリウッド的なゴージャスさ・良い意味での単純さは微塵も無い

泥臭く汗臭く惨めったらしく・・・そして緻密でありながら、成功しても  なぜか

悲しい・・・。ラストの爽快感もありませんでした。 登場人物の背負っているものが

みんな重すぎるからね。




タイトルに「翔べ!」とありますが、どこへ翔ぶのさ? あの世に翔ぶのかしら?

神 の 国 」へ? それとも 「 人 間 の い な い 土 地 」へ?




主人公の 幸 田 弘 之 ほか 境遇の異なる6人の男達の 金塊強奪作戦の顛末記。



男女の恋愛要素はありません・・ありませんが、読者は読み進む内に或る意味で

ラブ・ストーリーでもあると気づくことでしょう。生産性も希望も無い 束の間の・・・

多くの描写もなく切ない終わり方をしましたが、紛れもない恋でした。



舞台は大阪です。登場人物は大阪人でありながら、コテコテの大阪人ではなく

どこか醒めた目を持って大阪を見ていますね。大阪生まれや大阪に縁がありなが

ら、いったん外へ出て帰ってきた人間、という感じ・・・特に主人公の幸田弘之は。



20年ぶりに大阪に戻ってきた幸田は、現在は倉庫会社にマジメに勤務していますが

隠れた本職は 過激派や犯罪者ご用達の「 調達屋 」。 錠前破りの腕もなかなからしい・・


物語中で何度も登場する「 教 会 」と「 神 父 」そして 母 親の記憶シーンは

重要なキーワードになります。何故なら、それは “ 憎 悪 ” と結びついているから・・・

そして、彼の虚無感の大元でもあります。



そんな幸田に 金塊強奪の話を持ちかけるのが 北 川 浩 二 。幸田とは大学時代からの

友人であり、運送会社に勤務する妻子ありの既婚者・・・ではありますが、小市民

であるはずがなく ww この作戦のリーダーシップを取る男です。



幸田を「メメの兄ちゃん」と呼んで慕う息子、そして( 場違いなほど )家庭的で

優しそうな妻・圭子・・・しかし、彼女も終盤近くに 意外な したたかな面を

持っていた事が明かされるのですが・・・



さて、金塊強奪作戦のターゲットは中之島の住田銀行・ 地 下 金 庫 に 眠 る 金 塊 五 百 キ ロ


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

「 札束の方が、嵩が少なくて実入りが多いのに 」

「 福沢諭吉だったら、やる気はない。金塊だから、やるのさ 」

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


・・・確かに「金」は世界で認められた不変の価値をもつ存在ではありますが

単純な金儲けとしての強奪作戦ではない事を このセリフは暗示しています。

「黄金」を奪うという行為は・・・ 失 わ れ た 何 か を 奪 回 する為の行為なのか



そうして、この強奪作戦を成功させる為に 集められた他4人の男たちは何れも

作戦をこなせるだけの 特技を持ったスペシャリスト。


まずは、北川の弟の 春 樹 。グループの中では一番若く青臭さを感じさせます。

銀行担当のシステムエンジニア・ 野 田 、ハッキングの技にも長けています。



野田の知人の「 ジ イ ち ゃ ん 」こと 岸 口  このジイちゃんは 現在は道路の清掃夫をして

いますが、かって エレベータ技師との事で 各銀行内部にも通じている所を買われました。

しかし・・・それだけの人物であるはずはなく、読み進める内には 彼 の 過 去

少しずつ明らかになり、最後に 幸 田 の 記 憶 と 結 び つ く とき・・・



そうして、作品中で非常に重要でありながらも ジョーカー的な 危 険 な 役 割 を果たす モ モ

在日韓国人チョン・ユンセンと自称し大阪工大研究室に通いながら豆腐屋でバイト中。

・・・本名はチョ・リョファン。 

爆弾のエキスパートが欲しいという 北川の要望に答えて、幸田が紹介しました。



物語冒頭で、韓国籍パスポートを所持した男性の 射殺死体が発見されたシーンが

あり、モモと何らかの関係があるのでは? と読者が思ったとおりに、一筋縄では

いかない人物でした。


彼の裏の顔は 元北朝鮮のスパイであり、裏切った者として追われている身ですから

・・・この彼を仲間にした事から、強奪計画の物語はより 複 雑 化 & 危 険 化 していきます。


このモモの愛読書が「 背教者ユリアヌス 」( by 辻邦生 )というのが象徴的ですね。

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

幸田さん。北川さんから聞いた。あんたが聖書を持っているって。あんたのこと

は、ほとんど何も知らない。でも、いつか、あんたとは神の話をしたいと思う。

あんたとは、心の話をしたいと思う・・・

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★



本番の金塊を盗み出すシーンが リアルタイムで描かれるのは後半の50ページ位

で、それ以外は 息苦しいほど濃密な人間( 男たちの! )ドラマでした。



緻密な計画に基づいての 強奪計画ではありますが、過去に捨ててきた亡霊のような

左翼組織、公安、北の工作員、暴走族の連中が入り乱れて物語を撹乱させます。


ダイナマイト輸送トラックの襲撃・変電所の爆破・通信ラインの共同溝爆破・・・



こういったクライム・ストーリーの場合は、ラストをどうするか?で真価が問われます

単純な娯楽作か人間のドラマか・・・タイトルの意味するところも ラストで殆どの

読者が(その人なりに)納得すると思います。


金塊を現金に替える国へ行く 船 の シ ー ン ですが、それがリ ア ル な の か 幻 想 な の か

私は 敢えて考えない事にしています。


それが 「 祈 り 」 のシーンである事は 間違いないのだから・・・・・



さて、著者の高村氏はOL時代に 大 阪 ・ 中 之 島 近 辺 をよく歩いたそうです。

当時の 住友銀行を眺めて「ここにお金が沢山あるんだろうな」と考えたのが物語の

きっかけとか・・・。

盗みに入るのは、どういう方法があるかとか、あの高さなら 屋上からロープで降りてこられるとか・・・。



そうした想像が結実してこの作品となりました。

時はバブルの真っ最中の時代。札束が乱れ飛ぶような、そんな時代だったからこそ、

「 数 字 」として語られる現金ではなく 敢えて金塊を盗む話にしたかった・・・そうです。



小説が表現する一番大きなものは「空気」だと高村氏は語ります。

この作品が醸し出す空気感は、 大 阪 の 熱 帯 夜 ・・・真夏の中之島、川から立ち込

めるムッとするような臭気・・・



このブログは、日付を溯ってスタートしているのですが、5月14日の日付ではあっても、

実際に書いている本日は 7 月 1 1 日 でして ww


まさに、この作品を読むにふさわしい猛暑の一日でしたわ。

あなたも、熱中症にはくれぐれも御用心を、ね。

それでは 今日はこの辺で・・・またね。






posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月13日

「 別れ話の日 」に 読む 『 五月の霜 』  by アントニア・ホワイト


こんにちは、また来て下さってありがとう。

5月13日は「 別 れ 話 の 日 」・・・えっ、そんな日があるの?と驚きましたか?


バレンタイン・デーから88日目、俗に言う「 八 十 八 夜 の 別 れ 霜 」で、別れ話を切り出すには

最適の日 ww だそうです。英語では「メイ・ストームデー」( 五月の嵐の日 )ですね。



それでは、今日のお話の主人公は 誰から別れ話をもちかけられたかというと・・・

・・・ 神 さ ま からです。  えっ?


はい、今日の読書は 『 五月の霜 』 by アントニア・ホワイト


    五月の霜

    著者:アントニア・ホワイト

    出版社:みすず書房

    サイズ: 単行本 256ページ


著者はアントニア・ホワイト(1889〜1980) 日本では殆ど知られてはいませんが

英国では 非常に高く評価されて人気のある作家です。位置付けとしては、

シャーロット・ブロンテの後継者・・・と目されている といえば分かりやすいでしょうか。



父親はパブリック・スクール、セント・ポール校の古典教師で、英国国教会から

カトリックへの改宗者でした




この作品は、著者の若き日を描いた自伝的作品であり、「 少 女 の ス ク ー ル ・ ス ト ー リ ー の

中 で 、 古 典 と し て 残 る 唯 一 の 作 品 」
( by エリザベス・ボーエン)と賞賛されています。

発表年度は 1933年、物語の舞台は 約100年ほど前の 英国の 修 道 院 付 属 の 寄 宿 女 学 校 ・・・

美しくて そして残酷な物語でした。




物語は ヒロインのナンダ・グレイが9歳のとき、父親に連れられてカトリックの

五傷修道院(聖心女子修道会がモデル?)付属寄宿女学校に入学するところから

スタートします。



改宗した父と同じく、カトリックに改宗したナンダは「敬虔なカトリック信者」に

なるために 教理問答の学習に努め、学校に溶け込むように努力はするものの・・・

ナンダは すぐに 自分がこの寄宿学校では異分子であることを思い知らされます。



まず、ナンダの家が何代も続くカトリックの家系ではないこと・・・

改宗して間もない自分は、この学校ではまだ 「 異 教 徒 」 という目で見られ、

まるで 粗探しをされるように感じることも多いのですが・・・



一生懸命努力して良い成績を取るように頑張るナンダに対して、教師である

マザー・フランシスの言った言葉は印象深いものでした。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あなたは自分が立派な模範生だと思っているのではありませんか?(中略)

善にもいろいろあるのです。 (中略)どの方も聖人になる以前は罪人でした。

(中略)神様は こせこせ、びくびくとした善には見向きもなさいません

神様がお求めになるのは、本当の根強い欠点を克服したところに生まれる本物の

善なのです。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


うーむ・・・宗教的な事は抜きにして、意味は分からないでもないなあ。

頭で(理屈で)考えて何かを為すこと・良い子になろうと考えて努力すること、

もう、それ自体がダメってことかしら? もっと自然体にならなければいけないの

でしょうか? あれこれ考えているようでは、その時点でアウト?



シスターの何気ない一言ではありますが、宗教の本質を突いているのかもしれません



友人のレオニーは、規則破りの常習犯でありながらも、修道女たちからは信用され

叱られる事も殆どありません。不思議がるナンダにレオニーはこう言います。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あなたはきちんと髪を洗って髪をとかして洗礼を受けて堅信を施されたもと異教徒。

でも異教徒であることに変わりない

それに比べて私は大丈夫。(中略)血の問題なのよ。(中略)

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


日本人で仏教徒の私から見れば、キリスト教の宗派の違いなど よく分からないし

同じキリスト教徒なのに「異教徒」と呼ぶのが奇妙にも思われ、そこまで排他的に

なるのが不思議な気もします。まあ、歴史的にもキリスト教の宗教がらみの戦争

は非常に多かったのですけれど。「神」の名において どれほどの犠牲者が出たか

ということも・・・




また、ナンダの級友達は英国だけではなく、スペイン・フランス・ドイツ国籍の

少女も多く、上流社会に属する家庭の子女が殆どでした。


当然のように、自宅には執事を始めとする何人もの使用人を抱え、自分用の馬も

所有しているような裕福な家庭ばかり。


それに比べて、ナンダは中産階級の出身であり、周囲の皆に話を合わせようとしても

上手くいかないことも多かったりして ww



それでもナンダは 新しい環境に適応しようと健気に頑張ります。

カトリックの宗教行事の美しさに魅せられ、信仰を深めていくのですが、同時に

教師たちへの反発や 学校の体制への疑問も生まれてきます。



にもかかわらず・・・・・



父親から、月謝の高いこの学校から 他の教育レベルの高い学校への転校を打診されたとき

ナンダは恐怖に襲われます。



もうこの学校で過ごす以外のことは考えられない。

張り詰めた強烈な神の意志の支配する リッピントンの中でしか生きられないとまで

思います。まるで自分自身がカトリック教会の一部になったように。

自分自身の本性の 全てに染み込んでしまったように



しかし、15歳になったとき その希望は打ち砕かれます。

退 学 」という、ナンダにとっては不本意な処置によって・・・



ナンダがこっそりと書いていた幼い「 小説 」が見つかってしまったから。

それはカトリックの教えを逸脱した 許しがたい不道徳であったから・・・



退学になる前の休暇中に、ナンダは修道女マザー・パーシヴァルから こんな

アドバイスの手紙を貰います。


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★


わたしはあなたの中に別の物が育つのも見ました。自己の意志と自己への愛とい

う固い小さな芯です。以前にも言いましたが、あらゆる意志は神の意志と一体に

なるために、完全に砕かれ作りかえられなければなりません。ほかの道はないの

です。それが、ここリッピントンでわたしたちがおこなおうとしている教育なのです。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


これが教育なの? これがキリスト教の教えなの?

異教徒である私には理解しがたいものがあるのですが・・・「 寛容 」や「 許し 」は

与えられないのでしょうか?



『 五月の霜 』というタイトル通りに、若草の萌え出る美しい少女の季節に

余りにも残酷な 冷たい試練を受けて、この物語は終わります。



ヒロインのナンダにとっては、衝撃的で残酷な終わり方ではありましたが、

それでも私は、この作品の持つ美しさ( カトリックの典礼の厳粛さや様式美 )に

魅せられて 繰り返し読まずにはいられない作品のひとつでもあります。



馴染みの薄い作品だろうなあとは思いましたが、やはりあなたにお話したくて

今日のテーマに取り上げてみたの。



この作品は、著者の自伝シリーズ第一作であり この後 “The Lost Traveller”

“Sugar House” 最後に “Beyond the Glass ”と続きます。


退学になってからのナンダの、その後が綴られているそうですが、残念ながら

翻訳はされていません。 うーん、頑張って原書で読んでみようかとも思うのですが・・・

読めるかなあ?


さてさて、それでは今日はこの辺で・・・またね。





posted by cat-of-many-tales at 00:00| Comment(0) | 海外の小説・その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。