2013年05月06日

「 国際ノーダイエットデー」に 読む 『 脂 肪 と い う 名 の 服 を 着 て 』 by 安野 モヨ子


こんにちは、今日も来て下さってありがとう。


5月6日は「 国際ノーダイエットデー 」。 ダイエットではなく「 ノ ー ダ イ エ ッ ト 」。

イギリスのフェミニストのメリー・エヴァンス・ヤングが 提唱して制定されました。


世間のダイエットへのプレッシャーに対抗し、ダイエットによる 健康影響を訴える日・・・


女性なら 誰しもほっそりと 華奢な身体になりたいと思うもの・・・なのか?

適正体重を通り越して 痩せすぎて危険領域に入り込んでしまうと、もう自分でも

制御できなくなってしまうらしいけれど・・・下の写真を見てよ・・・↓


拒食症.jpg

画像引用元:ttp://yasai0142.livedoor.biz/archives/51259480.html

これは有名なトリック写真で ネットによく出回っているから、あなたも御覧になった

ことがあるかもしれませんね。



鏡に映っているのは、ぽっちゃりと太った女性の姿。

・・・・・そして鏡の前に立っているのは、こ の 女 性 の 真 実 の 姿




人体骨格の標本に 皮フを1枚貼り付けたほど 痩せているのに、彼女の目に映る自分の

姿は 相変わらず太ったまま・・・ああ、もっともっと痩せなきゃ!



周囲の人が いくら「 あなたは 太ってはいないよ 」と忠告したところで 彼女は

聞く耳を 持たない。

彼女の目には、間違いなく自分がデブに見えるのだから。そして彼女の脳は

「お前はデブだ、痩せろ!痩せろ!」と命令するのだから・・・。



・・・・・これは 現 代 の 怪 談 です。 過剰なダイエットの引き起こす悲劇。



けれども、もっと屈折した形で やりきれない形で表現された作品がありました。

自分の意思で痩せたいのか 他者の意思で痩せるのか・・・・これも怖い作品です。


はい  今日の 読書は 『 脂肪という名の服を着て 』  by 安野 モヨ子



『脂肪という名の服を着て』 完全版

著者:安野 モヨ子

出版社:文藝春秋社

サイズ:文庫266ページ


著者の 安野 モヨ子氏は 結構有名で 実力のある漫画家さんだそうですが、実は私は

あまりよく知りません。姪が持っている『 美 人 画 報 』というエッセイ漫画を読んだり

朝日新聞の 日曜版に連載している人、という程度の認識です。



この作品も姪から借りて読んだものですが、救いようの無い読後感でしたね。

漫画ですから、まず絵が多くを物語ります。一種の印象操作というか、人物が皆

誇張されてはいるのですが・・・。



主人公の「 花沢のこ 」は20代前半くらいのOL。朝食のパスタを茹でるとき、

「食べて足りなかったらイヤだな」といって余分に茹でては・・・・・

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

食べてれば大丈夫  食べられれば  何とかなる

たとえイヤなことが 沢山あっても

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★

物語冒頭からこういうセリフがあるので、ストレスを食欲で発散させているタイプだな

と見当がつきますね・・・ぽっちゃりタイプで、上の画像の鏡に映っている女性

と同じくらい、かな? お洋服のサイズでは13〜15号位かしら?



この程度では 別に太りすぎじゃないと思うのは、私がオバサンだから?

もしも痩せたかったら、甘いものを控えて軽い運動をすれば何とかなりそう・・

と思う程度の太り方だと思うのですが・・・



そして 全巻を通して この「 大丈夫 食べてれば 大丈夫  頭の中で声がす

る  食え!  食って食いまくれ!
」 というセリフがあるのが怖い・・・



彼女は 控え目過ぎるほど控えめで 目立たないキャラであり、仕事も(多分)出来るほう

ではなさそう・・・同僚達からイヤミっぽい事を言われても何も言い返しません。

無表情にムスッとしているだけ。



そして・・・・・ 笑 わ な い 。 ニコリともしない。



こういうタイプの人は、苛められやすい 傾向があるかなあ・・・何も言い返さないと

周囲からは さらに居丈高に嫌悪感をぶつけられるような・・・こいつには

何を言っても大丈夫!と思われちゃうのかなあ。

それとも・・・相手のサディスティックな気持ちを引き出してしまうのでしょうか?



職場の同じ課の同僚OL・マユミは ほっそりとスタイルの良い美人ではありますが

「のこ」を苛める筆頭者でもあります。性格も含めてデブの「のこ」が大嫌い。

ついには、他の同僚のミスをも「のこ」のせいにして社内での立場をさらに悪くしてしまいます。



そんな「のこ」にも恋人はいます。8年越しに交際している商社マンの斉藤くん。

彼は「のこ」の事を太っていても「そのままでいいよ」と言ってくれます。



この斉藤君も、実は 家庭と心に 問題を抱えているタイプではありますが・・・



夫を 他の女性に奪われて自殺未遂を繰り返し、まるで夫への復讐のように息子を

ガミガミと攻撃する母親( 痩せています )への嫌悪感。


その反動のように 太めの女性を求めているような・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

女なんて何もかも ゆるくて間抜けなほうが いいに決まってるんだ

やすらぎなんだから  あいつらに求めるのは やすらぎだけなんだから

(中略)

そうして俺はいつだって 完璧にやさしい笑顔だ

「 外見じゃなくて 心で 彼女を選んだ男 」

やすらぐよな・・・・・

そんな自分に  本当にやすらぐ

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━━★


確かに、ピリピリした女性よりも 安らぎを与えてくれる女性を好む 男性は多いのだろうけど

この斉藤君は「のこ」に安らぎを見出しているのではなく、本当は 最後の1行のように

そ ん な 自 分 に 本 当 に や す ら ぐ 」って・・「のこ」は自己確認の為のツールかい?

しかも、8年も交際しているのに 自分の同僚に「のこ」を紹介した事は一度も無い。



そして事件が起ります。斉藤君の浮気。相手は同僚のマユミですが、マユミも

別に 斉藤君が好きではなく、「のこ」への嫌がらせの為の手段でしかありません。



「のこ」は気がついても マユミや斉藤君にも何も言わない。言えない。

食べてストレスを解消するしかありません。そして、あの声が・・・・・



「 頭 の 中 で 声 が す る  食 え ! 」


これは、もしかして過食症? 美味しいものが好きで 食べ過ぎてしまうというの

ではなく、「のこ」の場合は 手づかみにして、味わう事もなくガツガツと食べ物を

口に押し込んで行くだけのような・・・

お腹はいっぱいになっても 満 足 感 も 幸 福 感 も な い ・・・



そんな「のこ」は痩せようと 一大決心をしてエステに通い始めます。



しかし、これが悲劇の始まりでした。



思うように体重が落ちないのに焦った「のこ」は、食べた直後に 嘔吐を繰り返すようになります

そうして 20キロほども痩せて 好きな服を着て 美容院で髪型を変えて・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

もう何も食べなくてもいい

このままで いられるなら 何も食べたくない

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★

すっかり面差しの変わった(やつれた)「のこ」は久しぶりに斉藤君と道で偶然

出くわしたのですが、彼は別人のように変わった「のこ」 に恐怖感を覚えて 逃げ

出してしまいます。




そうして会社では さらに「のこ」を陥れようとするマユミに「なぜそこまでするのか?」

と問い詰めたとき返ってきた答えは・・・

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あたしはね  醜いものが大ッキライなのよ

やせたからって 何も変わらないのよ  のこ!!

あんたは醜いの!!  心のそこからね!!!

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


「のこ」はずっと や せ ら れ れ ば 全 て が 変 わ る し 何 も か も 上 手 く い く は ず

楽 し い 日 々 が 待 っ て い る は ず・・・と思ってきたのに 結局は 何も変わりません。


30キロ痩せたとき、かっての恋人の 斉藤君が結婚するという噂を耳にします。

斉藤君の結婚相手は かっての自分のように 地味で 太目の女性・・・・・



路上で倒れた「のこ」は入院するはめになります。そうして昔の自分に戻ろうと

します。 今 よ り は き っ と い い は ず と信じて・・・



そうして半年後・・・


職場を変えた「のこ」は 偶然に 以前通っていたエステのオーナーに出会いました。

その時には、もう「のこ」の体型は すっかり昔と同じように・・・



痩せていたときは、あまり良い事も無かった、自分が痩せたことでバランスを崩す人

もいたし見ているのが辛くなって、と言う「のこ」に対して

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あなたの身体なのよ    あきれるわね!!

(中略)

もう誰のせいでもない もとから誰のせいでもない

太ったのは  そうやって ひとのせいにしている あなた自身のせいなのよ

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★


そうして、立ち去って行き、連れの友人に対してこう言います。

ま た 繰 り 返 す だ ろ う 、身 体 で は な い  心 が デ ブ な ん だ も の



一人暮らしのアパートの部屋で 相変わらず 大量の食物をむさぼるように

食べ続けている「のこ」 ・・・・・




「やせたらキレイになれる!」というダイエットの結果を これでもか!これでもか!と

絶望的なまでに描いた作品でした。



古典的な少女漫画の黄金パターンならば、少々太めであっても素敵な王子様が

現れて、今のままのキミが一番!と言ってくれてハッピーエンドなのですが・・・



そうして 救いようのない後味の悪さが残る作品でした。単純に 過剰なダイエットを戒めた

作品でもない。無理をしないで生きていこうと吹っ切れた明るさも無い。



作者が 徹底的に「のこ」を思いっきり突き放して描いているのを強烈に感じました

外見だけではなく、キャラクタにも 全く魅力の無い女性として描かれています



作者自身が「のこ」を愛していないから? 漫画ですから 絵がものを言うのですが

ガツガツと貪るように汚らしく何かを食べ続けている「のこ」を見ると思い出すのは 

↓ この絵です。「 餓 鬼 草 紙 」

餓鬼草紙文化遺産オンライン.jpg
 

画像引用元:文化遺産オンライン
http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=13814&imageNum=5#



だから、主人公に 魅力が感じられない・・・むしろ嫌悪感さえ感じてしまいそうで・・・

そんな風に思うのは 私が意地悪だからでしょうか?



この作品について、「 見 た 目 を 過 剰 に 重 視 す る 社 会 は 怖 い 」と論じた書評を

読んだことがあります。昨今の 美容整形の流行もその現れかもしれませんが・・・



心がデブだから・・・身体がデブなのではない 「 心 の デ ブ 」 だから・・・・・

「のこ」が そのことに気がつく日は来るのでしょうか。

あ な た の 身 体 な の よ 」という 言葉の重みを理解する日が・・・


そうすれば 彼女も 少しは 自分で自分のことを愛せるかもしれないのにね。



さてと、今日はこれでおしまいです。またね。


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2013年05月05日

「 こどもの日 」に読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第三部 裁判   by  宮部 みゆき


こんにちは、いつも来て下さってありがとう。


「こどもの日」に 読む 『 ソロモンの偽証 』 今回が 最終回の 第 三 部 です。

今日は 少々長くなりますよ ^^;



まず初めに 『 ソロモンの偽証 』というタイトルですが・・・

「ソロモン」は古代イスラエル王国の「ソ ロ モ ン 王 」でしょうね。 同国を最盛期に

繁栄させた名君と言われて、人並み優れた知恵者として知られています。



一人の子どもを取り合う 二人の女を、どちらが本当の母親か?という問題で賢明

な判断を下した「 ソ ロ モ ン の 名 裁 き 」は有名。

大岡越前守忠相の「大岡裁き」の元ネタとして御存知の方も多いと思うな。

知者ソロモンの裁き by ギュスターヴ・ドレ.jpg

     「知者ソロモンの裁き」

      by ポール・ギュスターヴ・ドレ 
 

      19世紀フランスの画家&イラストレータです。


       画像引用元:wikipedia



この作品の山場になっている「 学校内裁判 」については、「 中学生が こんな事を出来るのか?」

「 これほど頭の良い中学生がいるのか? 」というレビューを 多々見受けましたが

全然不思議には思いません。


だって・・・自分の中学生時代を思い起こせば、これ位の頭の良い子・リーダーシップ

の取れる子は幾らでもいたような・・・?


幸いにして、ここまでの悲劇的な事件が起らなかったし、裁判という形式は考え付かなかったと

思うけど・・・・・でも、 子 ど も を 甘 く 見 て は い け な い と思うな。




宮部氏が「 小説新潮 」で第一部の連載を 開始したのは 2 0 0 2 年 10月号であり、

この第三部が 終了したのは 2 0 1 1 年 の11月号。



ほぼ 10年の月日をかけて 完成させているわけですが、連載スタート時の2002年

といえば 「 神 戸 連 続 児 童 殺 傷 事 件 」の記憶がまだ生々しい時ではなかったかしら?

「 中学生・14歳の犯罪 」というのが、やたらと世間を騒がせていた時代だった・・・



それだけではありません。 作品の 仕上げくらいの時期に起った「 大 津 い じ め 事 件

宮部氏は 「いじめはあった」と証言した同級生達に 敬意を覚えた、と語っています。

自分達は見ていた、本当のことが知りたいと 勇気を持って声に出した子ども達の

声を聞いて 作り話ではない、と感じたそうです



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子供だろうが未成年だろうが、一方的な暴力にさらされた者には、自分が被害に

あったことを訴える権利がある。 どういう事情で何が起ったのか、本人がまわり

に知ってほしいと望むならば、それを阻むことは、誰にも許されてはならない。

★━━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★

↑作者自身の声が そのまま響いてくるようなフレーズも第三部にはありました。




「子ども」だからといって、無条件に無邪気で善であるとは限らない。

「子ども」だからといって、無力でオトナの言いなりになっているわけではない。

そしてまた、身勝手なオトナに振り回される子ども=善=弱者 という単純な図式でもない。



けれども・・・「 子 ど も 」だ か ら こ そ 可 能 な こ と だってあるはず・・・・・



基本的に 宮部氏は「人間を信じる」タイプの作家であり、「 性善説 」を信じたい

( 信じる、ではなく あくまでも「信じたい」、ね )

タイプではないかと思うのですが・・・だからこそ、ミステリとして余りにも

残虐・陰惨な事件を書き続けるのは 苦痛になったのではないか・・・と?



だからこそ、こういう形の物語を 世に問うたのではないかと考えるのです。

ケストナーが、オトナではなく 子どもたちに 未 来 の 希 望 を 託 し た ように・・・・・

子どもたちの 魂 の 成 長 物 語 として。



子どもたちの「学校内裁判」のきっかけは「 真実が知りたい! 」という気持ち。

それを敢えて「 法廷 」という裁きの場を テーマにしたのは凄い・・・

物語的には「 少年たちの 探偵物語 」という従来通りのパターンであっても差し支えはなかったのに。



けれども・・・少数の自分たちの 閉鎖空間だけで真実を明らかにするのではなく

もっとオープンな形で 皆で共有する形で 真実を明らかにしたかったのでしょうか



学校に代表されるオトナ達は 真実を語ろうとしない、何も無かった事にしてしまいたがる。

ならば・・・自分たちで真実を明らかにするしかない。



そして、警察の介入もありません。第一部の卓也の自殺直後ぐらいです。

大出家の放火事件は 卓也の自殺とは全く関係のない オトナの事情の結果なので。

ただし、この物語の舞台となった時代( 1990年〜1991年、つまりバブル景気最後

の年〜バブル崩壊の年
)を考えると よく分かる事件でした。



また、こういう形式の模擬裁判については・・・大学の法学部では結構取り入れ

ている所も多いですよ。

例えば・・・・

東北大学模擬裁判.jpg

↑東北大学の模擬裁判 毎年テーマを決めて “ 公 演 ”しています。

( 画像引用:東北大学模擬裁判実行委員会 )


秋田大学ゲーミングシミュレーション授業2.jpg

↑こちらは秋田大学のゲーミングシミュレーション

( 画像引用:秋田大学のゲーミングシミュレーション授業 )

さすがに大学生ともなると ぐっと本格的になりますね。


さらに、最近では法務省から 裁判員制度をシミュレーションさせるための 教育用資料

も配布されています。但しこれは教師向け資料としてですが。




『 ソロモンの偽証 』では、中学生ですから もう少し簡略化されています。

あくまでも子どもたちによる 夏休みの課外活動としての模擬裁判だから。



重要な事は・・・こ の 裁 判 は「 勝 ち 負 け 」を 争 う も の で は あ り ま せ ん

裁判を通して 真 実 を 明 ら か に し て ゆ く ことが目的なのだから。


そんな裁判にリアリティを持たせる為には・・・前の 2巻分は 必要だったのかもしれません。

物語が少しずつ熱を持って進んで行き、裁判という形で決着がつけられる・・・

ワンステップずつ 証言を積み上げて行ってこそ 真実が見えてくる・・・



多くの登場人物を 各々の視点で語らせて、個性を浮かび上がらせ、からみ合わせて

物語を進行させる 宮部氏の技( わざ )には大いに感嘆しました。


     『ソロモンの偽証』

    第三部 法廷

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本722ページ


いよいよ「学校内裁判」が始まりました。裁判当日から 20日の閉廷の日までを

丸々1冊をこの裁判に費やして描かれています。

全3巻の作品の内、前の2巻がこの「裁判」の為の序章であったわけですね。



議論の応酬が続きます。

子どもたちは皆、おかしいほど 役割に忠実に「 演 じ て 」います。

一種のロールプレイング劇のように。

与えられた肩書きに忠実に。 判事は判事の、検事は検事の、廷吏は廷吏の・・・



これ、別に不思議な事ではないのですよ。

人間は 与えられた役割どおりの 人間に なっていきがちだから・・・

もちろん子どもたちであっても、ね。


初めの内は、読者的には これまでの巻で子ども達が知った事が改めて出てくるわけですから

特に目新しい事実はありませんでした。 後半になってから、それまで話の中にしか

登場しなかった人物・・・イブの夜、大手家を訪れた来客( 大出の父と共に逮捕 )

の関係者が 証人として登場し、大出の ア リ バ イ を 証 言 します。



大出としては 身の潔白を証明できたのですが、別の側面からは 改めて自身の行動を

突きつけられる結果ともなりました
。 それも自身の 弁護人から!



そして弁護人は・・・弁護人ではありますが、最終的には 別 の 役 割 に シ フ ト します。

カンの良いあなたなら、もう気付いていると思うけれど・・・



また 既読の方であるならば、自殺した卓也と背格好が似ている、雰囲気が似ている、

と何度か 描写が出て来ましたので ミスリードされる事もなく「 も し か し て ・・・? 」

と想像されていたかもしれません。



公衆電話から 何度も柏木家に電話をかけた謎の少年とは・・・物語の序章に

登場した人物が証言します。



第二部で、涼子の父親に 「 責 任 が あ る か ら 」とも述べていますから、単なる友人

なら、そこまで言うか? これは何かあるな・・・と 。

その意味では 作者はフェアでしたから。 その分 衝撃性は少ないかもしれません。




敢えて言ってしまいますが、この作品のミステリとしての 単純な結末は



名 探 偵 = 友 人 = 弁 護 人 = 証 人 = ( あ る 意 味 で )犯 人


↑↑こうなります↑↑




『 シンデレラの罠 』 ( by セバスチャン・ジャプリン)という古典ミステリを

思い出してしまいました。 実は、この作品の有名なキャッチフレーズが・・・・・


「 私は事件の 探 偵 であり、証 人 であり、被 害 者 であり、

そのうえ 犯 人 でもある。いったい私とは 何 者 か ? 」・・・なんですけれどね ww




しかし、犯人といってしまうのは 言い過ぎなので、敢えて 擬 似 犯 人 という表現に

しましょうね。 少なくとも、彼の「自白」には客観的な証拠・第三者の証言はありませんから



けれども、これでお終いではありません。 最後の最後に 地味などんでん返しがあります。

仕掛けたのは 野 田 健 一 ・・・

それ程のページ数も無いのに、見事な弁護をしました。




そうして、陪審員たちが出した結論とは・・・・・




・・・・・この物語を終始リードしたのは 主人公の涼子ですが、もう一人・副主人公

として活躍したのが 野田健一。



第一部では、彼自身が リ ア ル な 殺 人 者 になる 一歩手前まで行ってしまいました。

そして引き返して来れた。そんな彼だからこそ、「弁護人」の神原和彦に、自分と

同じような匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれませんね。




物語の最終章で・・・20年後、野田健一は 教師として母校に赴任してきます。

自分たちのひと夏の「 学校内裁判 」が伝説となった懐かしい母校に・・・・・



子どもたちの魂の成長文学としての『 ソロモンの偽証 』はこれで終わりますが、

成長したのは野田健一だけではありません。



例えば、脇役として登場した(涼子には少々軽んじられていた) 倉 田 ま り 子 ・・・

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

あたし、どんな大人になってもいいから、大した大人にはなれないだろうけど、

それでも、あんな真っ暗な目をした 幽霊もどきにだけは なりたくない。

それが 倉田まり子の人生の目標だ。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★





そうして三宅樹里・・・検察側は 彼女の「偽証」を信じる所からスタート

せざるを得なかったのだけれど、彼女は、自分自身への独自の判決を下します

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

── 一昨日、ニュースでね、逮捕された垣内美奈絵って人の顔写真を見たとき、

気がついたのだ。こんな顔を知っている。どこかで見たことがあると思った。

── それ、誰の顔かわかったのよ。

あたしの顔だ。樹里は思った。垣内美奈絵は、あたしにそっくりなんだ。

あれは 嘘つきの顔だ。嘘をついて他人を傷つけ、自分も傷つく人間の顔だ。

そして何もかも取り返しがつかないと、絶望している人間の顔だ。

──それがあたしの判決だよ、藤野さん。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━★

「 嘘 を つ い て 他 人 を 傷 つ け 、 自 分 も 傷 つ く 人 間 」 ・・・

大出のような 不良ではないけれど、心に抱える闇は 深かった樹里。

わたし自身は、ずっと痛ましいような思いで彼女を見つめてきましたが、彼女自身が

自分に下した「 判決 」には救いを感じることが出来ました。



最後に・・・・・


『 ソロモンの偽証 』は宮部みゆきという作家にしか書けなかった作品だと思う。

また後日、書き足す事もあるかもしれないけれど、長くなりすぎるので今日は

この辺にしておきましょう。



あっ、もう一つ最後に・・・・・


人 は 役 割 に 応 じ た 人 間 に な る 」という件ですが、

「 T H E W A V E ウェイヴ 」 という ドイツ映画を 御存知でしょうか?


高校を舞台として、生徒たちに 独裁&全体主義の恐怖を身を以て教える為の 心理実験が

皆あまりにも役割に忠実な余り、たった5日間で制御不能なまでに暴走してしまうという

実話を基にしたサスペンス映画。


( 悪い意味で )役割を演じていたら本 物になってしまった恐怖を 描いた佳作でした。 

桐野 夏生が『 ソロモンの偽証 』を手がけたら こんな感じの作品になってしまうのではないかと www


トレイラーを貼っておきますので興味のある方はどうぞ(1分34秒)




posted by cat-of-many-tales at 04:00| Comment(0) | 日本の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「こどもの日」に 読む 『 ソ ロ モ ン の 偽 証 』 第二部 決 意  by  宮部 みゆき


こんにちは、また来て下さってありがとう。


前回&前々回に引き続き、「 こどもの日 」に読む 『 ソロモンの偽証 』です。

第一部では 主要登場人物のバックグラウンド&キャラクタ、そして 事件が立て続けに起りました。



主人公は・・・藤 野 涼 子 と考えて良いでしょうね。


自殺した柏木卓也の同級生でクラス委員。 優等生タイプの 美人ではありますが

気取ったお高いタイプではありません。 勝気な気性の持ち主です。

両親と妹が二人いて、父親の職業は 警視庁に 奉職する刑事



この涼子のキャラなんですが・・・宮部氏のファンであるならば、お馴染みの

あるキャラを思い浮かべるのではないでしょうか。


時代小説の『 震 え る 岩 』 や『 天 狗 風 』に登場する「 お 初 ち ゃ ん 」です。

お初の兄も 岡っ引きでしたよね。

おきゃんで 正義感の強い真っ直ぐな気性は、そのまま涼子であるといっても良いくらい。

ただし 涼子に 霊感はありませんが ww




宮部氏は、登場人物の一人ひとりの心情を 丁寧に描く作家ですから、どの子どもたちも

愛情深く描かれています。どうしようもない不良の三人組にしても、嘘の告発状を

書き、その責任を 亡くなった松子になすりつけようとしている樹里にさえも・・・

今回の作品では その点が大いに 救 い になっていました。( ただし、オトナは別です )



次に、NO・2的な 副主人公といえば・・・「 名探偵 」ではありません。



野 田 健 一 かな? 卓也の遺体の 発見者になった意外は、様々な事件からは

一歩離れた 傍観者的な視点の登場人物かと思ったら、第一部では 思わぬ事件を起こす

一歩手前まで 行ってしまいました。



藤野親子や 親友の力によって 幸いに事なきを得て、この物語のサブ的な進行係になっています。

潜在的な能力は高くとも、目立つ事を嫌う性格なので その他大勢の中に埋もれて

仕舞いがち・・・しかし、この物語の中で 一番成長してゆくキャラ でもあります。



そして、第一部では「名探偵」の初登場シーンから彼を見つめて「学校内裁判」

での「名探偵」=「弁護人」の補佐役を勤めます。



それでは、第二部の「 決意 」を・・・・・


     『 ソロモンの偽証 』

    第二部 

    著者:宮部みゆき

    出版社:新潮社

    サイズ:単行本715ページ



藤野涼子は 真実を知る為に、3年生のクラス毎の「 卒業制作 」課題として 卓也の

死の真相を 突き止めようと級友たちに訴えます。



もちろん、学校側の反発は大きかったのですが、涼子に感情的な体罰を加えた

学年主任の高木の行為を 不問にする事と引き換え?でOKさせてしまいます。



やがて 涼子に賛同する生徒たちも現れて、不良のボス・ 大 出 を告発状通りに 殺人罪で

問う「 学 校 内 裁 判 」という形式で行う事を決意します。

それも、オトナを入れない 陪 審 制 で自分たちで結論を出そうと・・・



涼子たちの決意に 賛同する教師・北尾も、辞表をかけて 校長に許可を願い出て

夏休みの課外活動としての「 学校裁判 」が認められました。



ただし! チャンスは一度だけ。しかも、与えられた期間は わずか15日!



この裁判には 大出自身も協力することになります。 なぜならば・・・・・


★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

不良だから、札付きだから、性根が曲がっているから、みんなに嫌われ、白い目

で見られているから、それで本人も平気の平左のように見えるから、だから

傷ついていないということはない。だから真実を求めていないということはない。

だから濡れ衣を着せられても痛痒を感じないなんて、絶対にないのだ。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━━★



そうして、涼子に 賛同してくれた生徒の中から、各々の役割を決定していきます。

判事には学年トップの 井 上 康 夫 。 廷吏には 山 崎 晋 吾

陪審員は、涼子と親しい 倉 田 ま り 子 を始めとして 9名の生徒たち。


涼子は 当初大出の弁護人を勤める予定でしたが、「だまされている」と主張する大出の

父親のクレームを受けて、逆の立場の 検 事 になります。

助手として 佐 々 木 吾 郎 萩 尾 一 美



肝心の弁護人は、他校の生徒で 小学校時代に塾で卓也と一緒だった 神 原 和 彦

立候補し、その助手を 野田健一が務める事に。



和彦は恐れることなく大出にアプローチし、心を少しずつ開かせて行きます。

自分は、7歳の時 父親が母親を殺して自殺、残された子どもである事まで打ち明けて・・・



弁護側、検事側それぞれに自分たちの役割を果たそうと奔走します。



幸いにも、好意的なオトナたちの協力も得られて、これまで表に出なかった事も

少しずつ 現れてきます。



その一つに、卓也が自殺した当日に柏木家にかかってきた電話のことがあります。

発信元不明で5回、それぞれ違う電番号で・・・調査の結果 すべてが 公衆電話だったのですが・・・



ここで、読者は 物語の 第 一 部 冒 頭 の シ ー ン を思い出します。



クリスマス・イブの夕方、公衆電話から電話をかけている少年の事を・・・

ミ ス リ ー ド されたまま、ね。



子どもたちの調査とは別に、大手家の 放火の件も 警察の捜査により 新たな進展を

迎えます。そして、大出の父の逮捕・・・



また、元2年A組担任・森内が襲われ 頭を殴られて入院・・・犯人は、理不尽な

理由で 森本を陥れた垣内美奈絵ですが、逃亡して行方不明のまま・・・


そうして いよいよ、裁判開廷の日が迫ります・・・・・




この第二部では、「 弁 護 人 」=「 名 探 偵 」 になる少年・神原和彦が

いよいよ 実体を現してきます。



第一部では、野田健一の目を通して「 対 岸 を 見 て き た よ う な 目 」をした少年だと

触れられていますが、彼自身のキャラクタは まだ謎のままでした。


幼少時の悲劇的な過去が 第二部で語られますが、それだけではありません。



涼子の父親・藤野刑事が 和彦に「なぜ弁護人を引き受けたのか?」と問うたとき・・・・・

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

和彦は すぐ答えなかった。(中略)

ぽつりと、和彦は言った。「責任があるからです」 (中略)

「── 引き受けた以上は、という意味です。」

急いで言い足す。目をそらし、心もそらすためであることは明らかだった。

剛は、なぜ引き受けたのかと訊いているのに。

 和彦がそらした場所に、真の答え、彼の動機がある。(中略)

── 何を隠してる。

★━━━━━━━━━━━━【一部抜粋 】━━━━━━━━━━━━━━★


第二部の636ページから637ページに亘る部分です。


この部分は、初読の時から気になった部分です。「 責任 」という言葉が そぐわない

不可解なほど 頭の良い和彦が、ふと見せた本音のような?



この作品は、ミステリとして至る所に 伏 線 が張り巡らされていますが

第三部の ぎりぎり結末近くなって 見事に回収され生きてきます。



第二部のサブタイトルは「 決 意 」ですが、この「決意」をしたのは 涼子だけでは

ありません。 野田健一も 大出も 樹里も・・・さらには自殺事件が発端で 辞職に

追い込まれた 森内教諭も・・・そして「 弁護人 」神原和彦でさえも・・・



さてさて、それでは今日はこの辺で・・・またね。



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